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fantasy love  作者: 朱希
5/6

パラレルってあり? 2

わからなかった。

気持ちとはこんなに変わるものなのか。

知らなかった。

変わるだけでこんなに苦しくなるものだとは。







「まーたななちゃんにお電話?」

「…」

香南が休憩所から戻ってくると夏流がにやにやしながら近づいてきた。

無視を通そうとしても笑みがさらに深まるだけだった。

「か・お!一目瞭然だよ?緩んだ頬何とかした方がいいと思うけど」

「頬?」

「そうだよ。ななちゃんに電話するときはいつもそう!」

「そうなんだ…」

知らなかったというように香南は頬をつねる。

夏流はため息をつくと安心したかのように肩を叩く。

「よかったね。」

「え?」

「んー独り言!さ!もうちょっと撮影頑張ろ!ななちゃんたちとピクニック行くんでしょ?」

「…うん。おやつは300円まで。そう言われた。」

「ぶっ!あはははは!!」

夏流が吹き出すとほかの二人のメンバーも近づいてくる。

「なになに?どうした?」

「なつ、涙出てるよ。」

「きーてよ!ピクニック!おやつは300円までだって!」

周からもらったハンカチで目を拭きながら夏流が説明する。

すると燎も周も同時に笑い出した。

「ぶっ!ちょっ!小学生じゃないんだから!」

「ふふっさすが七緒君だね。面白いこと言ってくれる。」

「…もう何も言わない。」

少し恥ずかしそうに顔を真っ赤にするとぷいっとメイク直しに向かってしまった。

「あんなに変わるなんて。思いもしなかったな。」

「うん…」

「よかったね。成功、するといいね。」

「うん。」

メンバーの三人も香南のことを心配してないわけではなかった。

同じ高校でいつの間にか一緒につるんでバンドを組んでいた。

それでも常に香南の顔は無表情。美人なだけにその表情は人形のようだった。

香南が”歌”と言うものに興味を持ち始め、少し表情に変化が出てきたものの、メジャーデビューをするようになり仕事として歌に取り組むことになると再び表情がなくなってきた。

何よりライブに行き男を見るとそれだけで終了時にはぐったりとするほどだった。

それが、何の縁か七緒に出会った。

そして今までが嘘のように表情が豊かになっていったのだった。







『はじめまして!日向七緒と言います!こいつらは妹の美羽と瑠唯です』

『『はじめして!』』







メンバーが初めて会ったときに思った暖かさ。妹の双子を見ても他の子供にはない愛しさを感じた。

話せば話すほど興味が膨らんでいくのだ。

そして七緒が来たとたんの香南の反応だった。

それまで無表情だったのが突然息をし始めたかのように笑みを浮かべたのだ。

メンバーでも香南の笑みを見たことなど無に等しかった。

メンバーはただただ目を瞬きさせるしかなかった。






もっと香南に感じてもらいたい。

もっと香南に知ってもらいたい。







だから一生懸命メンバーは香南と七緒へ接触させた。

携帯電話を持ってないという七緒へ電話を持たせたし、ことあるごとにスタジオへ遊びに来てもらった。

そして今度のピクニックである。

最初は香南も驚いていたものの、徐々にピクニックのことを調べ始めた。

何を持っていくべきなのか、どのような格好で行くべきなのか。

考えるのが楽しいというかのように香南は仕事の時以外ではその話ばかりだった。

だからこそ成功してほしい。

メンバーもできうる限り協力を惜しまなかった。








しかし時とは常に残酷であった。










ピクニック当日、香南が迎えに来てくれるということで七緒と双子たちは何度も荷物のチェックをしていた。

「水筒、弁当よーし!」

「「よーし!」」

「敷き物は俺持ったし、帽子も入れた。」

「ななちゃん!」

「おや、つ!」

「ああ、そうだったな。おやつは??」

「「さんびゃくえんまで!」」

「よーし!じゃあ後は香南さん待つだけだな。」

「おねーちゃ、まだかな?」

「まだ、かな?」

「うーんもう来てもいいんだけどな…」

先ほどから何度も時計を確認しているが、待ち合わせ時間になってもまだ来ないのだった。

さてどうするかと悩んでいるとインターフォンのなる音が聞こえた。

「あ!おねーちゃ!」

「きた!」

「そうだな!」

双子に微笑みながらインターフォンの受話器を取る。

しかしそこに聞こえてきたのは、映像に移っているのは香南ではなく雅だった。

「え、雅さん?」

『七緒君、本当にごめんなさい。今すぐに準備してほしいの。』

「へ?」

何?準備はもうしているのに。

『七緒君と香南のツーショット、撮られたの』






何をとは言わない。しかし頭の聡い七緒である。瞬時にわかってしまった。

ごくりと喉が鳴る







「わ、わかりました。」

「「ななちゃ?」」

「わりい。二人はそのまま待機。俺ちょっと準備し忘れたものがあるから待ってろ。」

急いで二階に上がり衣服を準備する。







わかっていたことなのだ。

こんなことをしていたらいつか、どうにかなってしまうのではないかと。

それが今来てしまっただけのことなのだ。

しかし







「ちっくしょー…」








もう少しだけ感じていたかったのだ。

この暖かさを、この気持ちを。

七緒は強い力で畳を叩く。

心には空しさだけが残っていった。

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