1‐7 初陣 後
難産でした
(落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす)
すでに思考には、それしか存在していなかった。
目まぐるしくキャノピーの景色は変わるが、敵機を視界から見失う事は無い。
ただひたすら、敵を落とす事にのみ集中していた。
だから気が付かない。
敵が一機だけとは限らないという事に。
「後 方よ り、 2 機 接 近。」
後席より、新手の接近を告げる警告、それに対しライオットも表示されているレーダーを一瞬視界に収めると、味方機であると確認し、そのまま戦闘を続ける。
すでにどれだけ戦っているか、どれだけのダメージを与え、受けているか、すでに解らなくなっていた。
一瞬捉えた敵機にパルスレーザーを発砲、回避される。一瞬で後方に回り込まれ、敵機より発砲、こちらも回避成功。
ミサイルの類はすでに尽きている、間合いを離す分にはいかない。
敵機が複数に分裂しているように見える、だが関係無い、全て落とす。
ただひたすら敵を落とす。すでに何機か落とした気がするが、まだ目の前に敵がいる。
(落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす)
何処からともなく放たれた攻撃がヒットする。機動性が若干低下し、より不利になっていく。
更に一機落とした気がするが、まだ敵が目の前に出現する。
だがとうとう機体に限界が来る。
飛行可能時間がほぼビンゴ、残っている武器のパルスレーザーも発振機関の加熱で、使用不可寸前。
これで戦闘を続けようとするのは、自殺行為でしかない。
わずかに残った理性が、後退を選択する。
しかし、敵がそう簡単に見逃してくれる訳もなく、徐々に追い詰められていく。
援護に来た2機は、すでに落とされたのか、姿が見えない。
思考が徐々に白く染まっていく。
真っ白に染まり、何も感じない。
気が付けば、安全空域を飛んでいた。
何時大気圏に降りたのかも記憶になかった。
呆然とするライオットは、後席の苦しげな声に気付き、如何したのかと後ろを確認すると、呆れた声を出していた。
「マスクの中に吐くなんて、いったい何処の素人だ? 弾道飛行をする、無重力の内に掃除しろ。」
あちら此方からアラートが上がり、機体が悲鳴を上げているし、飛行可能時間も殆ど残されていない。しかし、よほど上手く帰還軌道に乗ったのか、現在位置からなら一度の弾道飛行位可能と判断していた。
メリス リンドにとって、初めての実戦は悪夢だった。
何度Gで気を失ったか解らない。だが、その度にまたGによって叩き起こされる。
掠める敵の攻撃、落ちていく味方機、援護の無い状態での戦闘は、想像以上に過酷なものだった。
そして、ようやく安全空域にたどり着いた時、それまでの恐怖から、思わず吐いてしまった。
だが、彼の地獄はまだ続いていた。
管制室では、管制官と教官が安堵の声を上げていた。
最早絶望視されていた、ライオット メリス組よりの帰還報告が入っていたのだ。
稼働機全てを投入したこの作戦は、同時に援軍に出す予備兵力すら無い、まさに背水の陣と言うべき物であった。
ライオット達の救援の為、何度も正規軍に出動を依頼したが、帰ってくる返答は同じだった。
“現在、正規軍は再編中。稼働戦力無し。”
明らかに、非正規の学生を見捨てる回答だった。
教官たちは、何とか近くの2機を救援に送ったが、その2機はすぐに連絡を絶った。送れる援軍は軌道の都合上、その2機のみだった。
他の機体も接敵していない機体は無く、半数以上が帰って来なかった。その中で、絶望視されていたライオット達が帰って来たのだ。
喜びも一入だった。
その男は、喜びに打ち震えていた。
彼が提案し、実行に移された計画が、想定を超えた成果を上げたのだから。
彼はこの作戦で、殆どの学生が死ぬと思っていた。
だがそれで良かった。孤児など幾らでも居る、機体も欠陥品だ。また集めて使い潰せば良いと考えていた。
確かに損耗率は6割に近く、壊滅判定が出ても可笑しくない。だが、言いかえれば、4割以上が生き残った。
後は不足分を補い、再編すれば良い。
男は今、栄光の階段を登りつめる事を確信した。
シーラは管制室で激情に打ち震えていた。
あの子が帰って来た。
整備班は震えていた。
シルフが帰って来てしまった。
これから起きるであろう惨劇に、恐怖のあまり震えていた。
せめてあの二人の冥福を祈っている者すらいた……