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sin red line  作者: たぬき
第一章
9/21

1‐7 初陣 後

難産でした

(落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす)


 すでに思考には、それしか存在していなかった。

 目まぐるしくキャノピーの景色は変わるが、敵機を視界から見失う事は無い。

 ただひたすら、敵を落とす事にのみ集中していた。

 だから気が付かない。

 敵が一機だけとは限らないという事に。


「後 方よ り、  2 機 接  近。」


 後席より、新手の接近を告げる警告、それに対しライオットも表示されているレーダーを一瞬視界に収めると、味方機であると確認し、そのまま戦闘を続ける。

 すでにどれだけ戦っているか、どれだけのダメージを与え、受けているか、すでに解らなくなっていた。


 一瞬捉えた敵機にパルスレーザーを発砲、回避される。一瞬で後方に回り込まれ、敵機より発砲、こちらも回避成功。

 ミサイルの類はすでに尽きている、間合いを離す分にはいかない。

 敵機が複数に分裂しているように見える、だが関係無い、全て落とす。

 ただひたすら敵を落とす。すでに何機か落とした気がするが、まだ目の前に敵がいる。


(落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす)


 何処からともなく放たれた攻撃がヒットする。機動性が若干低下し、より不利になっていく。

 更に一機落とした気がするが、まだ敵が目の前に出現する。

 だがとうとう機体に限界が来る。

 飛行可能時間がほぼビンゴ(機投限界)、残っている武器のパルスレーザーも発振機関の加熱で、使用不可寸前。

 これで戦闘を続けようとするのは、自殺行為でしかない。

 わずかに残った理性が、後退を選択する。


 しかし、敵がそう簡単に見逃してくれる訳もなく、徐々に追い詰められていく。

 援護に来た2機は、すでに落とされたのか、姿が見えない。

 思考が徐々に白く染まっていく。

 真っ白に染まり、何も感じない。














 気が付けば、安全空域を飛んでいた。

 何時大気圏に降りたのかも記憶になかった。


 呆然とするライオットは、後席の苦しげな声に気付き、如何したのかと後ろを確認すると、呆れた声を出していた。


「マスクの中に吐くなんて、いったい何処の素人だ? 弾道飛行をする、無重力の内に掃除しろ。」


 あちら此方からアラートが上がり、機体が悲鳴を上げているし、飛行可能時間も殆ど残されていない。しかし、よほど上手く帰還軌道に乗ったのか、現在位置からなら一度の弾道飛行位可能と判断していた。





 メリス リンドにとって、初めての実戦は悪夢だった。

 何度Gで気を失ったか解らない。だが、その度にまたGによって叩き起こされる。

 掠める敵の攻撃、落ちていく味方機、援護の無い状態での戦闘は、想像以上に過酷なものだった。

 そして、ようやく安全空域にたどり着いた時、それまでの恐怖から、思わず吐いてしまった。

 だが、彼の地獄はまだ続いていた。





 管制室では、管制官と教官が安堵の声を上げていた。

 最早絶望視されていた、ライオット メリス組よりの帰還報告が入っていたのだ。

 稼働機全てを投入したこの作戦は、同時に援軍に出す予備兵力すら無い、まさに背水の陣と言うべき物であった。

 ライオット達の救援の為、何度も正規軍に出動を依頼したが、帰ってくる返答は同じだった。


“現在、正規軍は再編中。稼働戦力無し。”


 明らかに、非正規の学生を見捨てる回答だった。

 教官たちは、何とか近くの2機を救援に送ったが、その2機はすぐに連絡を絶った。送れる援軍は軌道の都合上、その2機のみだった。

 他の機体も接敵していない機体は無く、半数以上が帰って来なかった。その中で、絶望視されていたライオット達が帰って来たのだ。

 喜びも一入(ひとしお)だった。





 その男は、喜びに打ち震えていた。

 彼が提案し、実行に移された計画が、想定を超えた成果を上げたのだから。

 彼はこの作戦で、殆どの学生が死ぬと思っていた。

 だがそれで良かった。孤児など幾らでも居る、機体も欠陥品だ。また集めて使い潰せば良いと考えていた。

 確かに損耗率は6割に近く、壊滅判定が出ても可笑しくない。だが、言いかえれば、4割以上が生き残った。

 後は不足分を補い、再編すれば良い。

 男は今、栄光の階段を登りつめる事を確信した。





 シーラは管制室で激情に打ち震えていた。

 あのシルフが帰って来た。


 整備班は震えていた。

 シルフが帰って来てしまった。

 これから起きるであろう惨劇に、恐怖のあまり震えていた。

 せめてあの二人の冥福を祈っている者すらいた……


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