表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
sin red line  作者: たぬき
第一章
8/21

1‐6 初陣 前

今回、ライオット達に与えられた実戦訓練は、衛星軌道までの哨戒だった。


「……ふん ふんふふふんふんふ……」


 後席から鼻歌が聞こえてきていた。


「サボってないでレーダーの監視をしてくれ。」

「敵なんて来ないよ。第一、目視で哨戒しているじゃないか。」


 高速飛行中は目視などあてにならないことなど、当然知っているはずだが、メリスはライオットの要請にそう答え、鼻歌を再開した。


(神経質な奴だ、こんな所で敵と遭遇した事なんて一例も報告されてないのに)


 メリスはそう思い、一応レーダーを確認した。最低限のレーダーしか起動していないが、やはり敵影など何処にも見当たらない。


「此処を何処だと思っている、宇宙の底だぞ。周りは真空に限りなく近い。レーダーに映らないデブリ一つで、あの世いきだ。」

「そんな事解ってるさ。けど、そんなもの注意していたからと言ってどうし様も無いじゃないか。」


 メリス リンドは自分のうかつさを後悔する事になる。二重の意味で。





(管制室の空気が、何時もと違う)


 女性管制官はそんな感想を持った。何が何時もと違うのか、周囲を見渡し、すぐに気付く。


(教官の数が多い)


 普段、ローテーションで2~3人しか詰めていない教官が、今日に限って8人もいる。しかも、普段は起動させているだけで、訓練生との直接交信にしか使用しない、教官専用の管制卓にきっちり座り、何かしら操作をしていた。


「あの~」

「し、なんか教官たち殺気立ってるから、仕事してるふりしときなさい。」


 先輩の管制官に思わず理由を聞こうとした彼女に、それが先輩からの忠告だった。


(何が起こってるの?)


 何かが起きている。それだけは確実なのに、何が起きているかが解らない。彼女は言い知れぬ不安に襲われていた。




 数時間前、教官たちに通達があった。





発 統合空軍総司令部

宛 教導各位


未明より、散発的で話あるが、敵機の来襲が頻発している。

かかる事態において、敵の大規模な襲来が予測される。


1、訓練生にて偵察部隊を編成、索敵に当たらせよ。


2、敵機発見の場合、全力で排除を敢行せよ。


なお、訓練生の被害は許容範囲内である。



                        一読後完全破棄





 要は、訓練生をいけにえにして敵をつぶせ。という命令が来たのだ。

 ライオットであれば、予測できた事と平然としていただろうが、普通の訓練生には到底そのような境地に立てないであろう事は、火を見るより明らかだった。

 当然、教官たちもこの事を極秘とし、急遽実戦訓練の予定を前倒しする事でごまかしていた。


「生きて帰ってこいよ……」


 時間が足りて無いとはいえ、生きる為の技術は教えてきた。後はどれほど自分の物にしているか。

 教官も人の子、人命に対するモラルが著しく低い時代とはいえ、訓練生を無駄死にさせたくは無かった。




(空気が重い)


 ライオットは、ミーティングの時から何か重い物を感じていた。

 後席に居るメリスも不安材料の一つだが、そう言うのとはまた違う、何かしらの不安を感じていた。

 後席では相変わらず鼻歌を歌っているメリスがいるが、完全に無視して、パイロットシートで扱えるレーダーを起動させていた。

 再三、任務に集中するように忠告したにも拘らず、その忠告を聞こうとしない者に命は預けられない。当然の反応だと言えよう。

 だが、メリスより奪ったレーダーにもなんの反応も無い。本来なら、気楽に飛べるコンディションにもかかわらず、ひたすら空気が重い。

 まるであの日のように。


 あの日、全てを失った日に聞いた音を聞いた気がした。

 思わずスティックを引き、スロットルを開ける。

 不安、恐怖、恐慌。全てを押し殺し機体を操る。


(近接警報、後方にて爆発。大丈夫回避成功)


 思考がぶつ切りになる。

 いまさら後席より悲鳴が聞こえる。


(無視、敵 何処)


 後席の悲鳴を無視して、更にスロットルを開ける。

 MAXスピードを目指し、スピードメーターの数字が目まぐるしく変わる。

 再度の近接警報。

 スロットルを絞り急減速、スティックを思いっきり右に倒す。


(回避成功、ダメージ軽微。敵 上? 下?)


 今回は、若干の破片を食らったが、飛行に支障は無く。戦闘を続行する。

 本来なら、後席の役割である索敵もこなしつつ、ぶつ切りになった思考は冷静に敵を探し求める。


(発見 上 太陽)


 見つけた敵機をサイト内にとらえようと、激しく機体を機動させるが、なかなか捉える事が出来ない。


(落とす)


 ライオットは撃墜の意思のみで、戦い続ける。後方へ一時退避など思いつきもしない。


(落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす 落とす)




 ライオットは境界線に立った。


初の前後編

後編もがんばります。


12/27誤字訂正いたしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ