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sin red line  作者: たぬき
第一章
4/21

1‐2 最初の出会い

ライオットとシーラの出会い篇です。


 ライオット アローにとって、訓練とは夢を見なくするものだった。


 少年のころに見た焼け焦げた大地、上手く認識出来ない焼け焦げた人型、それらの物を夢で見ないよう、ただひたすら体をいじめ抜き、気を失うようにベットに倒れこむ。それが訓練の意義でだった。


 その結果、戦闘の天才だのなんだの言われるようになったようだが、本人は全く意識していなかった。

 確かに容姿は大人びて、男の顔になりつつあったが、心はあの日のまま、いまだ少年のままだった。


(今日もあの夢を見ずに済んだ。)


 ライオットはその事に感謝すると、何時ものように大量の寝汗を流すため、バスルームに向かった。

 寝巻代わりに愛用しているシャツは、寝汗で肌に張り付き不快感を増幅ていた。


(夢という物は、起きた時にはあらかた忘れているらしいな。)


 ライオットは、自分が大量の寝汗をかくのは、覚えていないだけで、あの夢を見ているのだと理解していた。

 だが、覚えていないだけでかまわなかった。覚えていればまた錯乱状態になる事が容易に想像できたから。

 それを避けるための訓練だと、彼は考えていた。

 ただひたすら体をいじめ抜き、精神を疲弊させ、ただ、あの夢を見ないようにする。それだけの為に彼は己を尖らせ続けた。その結果の天才という称号は、彼の中で欠片も価値を見いだせないものだった。


 朝の一連の行事(入浴、朝食、歯磨き)を終えると、ライオットは教室に向かい部屋を出た。そこ彼処から朝の挨拶や、昨夜のTVの話で盛り上がる学生がいた。だか、彼に話し掛ける者はいなかった。

 皆、彼が「ああ」「そうだな」などの相槌の類か、訓練の話にしか乗ってこない事を知っていた。

 むしろ、話し掛けられて、余計な事に思考力を割かれる事がない事が、彼にはありがたかった。下手に思考力をよそに向けると、ひょんな事でかつての記憶がよみがえる恐れがあったからだ。







 授業開始前のミーティング、担当教官よりの連絡時、本日より実機による訓練が開始される事が通達された。


「使用機種は複座のシルフ、この機が軍配属後の搭乗機となる。」


 その教官の発言を受け、講堂内は、絶望のうめきに満ちた。

 それも仕方あるまい。シルフとは、音に聞こえた欠陥機。テスト段階で数々の事故を起こし、配備を検討された数々の部隊で、受領を拒否されるという輝かしい戦歴を持つ。

 この教官、いやこの軍はそんな機体に乗れと言うのだ。絶望のうめきぐらいダース単位で出ても仕方あるまい。


「静かに、すでにシルフは改良されて、欠陥はない。何の問題もない。」


 そう訓練生に言ってごまかそうとしている様だか、はっきり言って成功していない。


(要するに、改良しても正規軍が受領拒否するほどの欠陥機か。)


 ライオットは、つら々とそんな事を考えながら思う。


(どの道関係ない、俺たちは戦わされるだけ、戦わないという選択肢は存在していない。戦って早く死ぬか遅く死ぬかの違いしかない。)


 戦って死ぬ事には変わりない、戦闘を一種の自殺であると認識しているライオットにとって、欠陥機かそうでないかはあまり意味を持たなかった。


 やがて、操縦、航法の担当を確認すると、シルフの置いてある格納庫に向かい移動した。そこで、担当メカニックと顔合わせがあるそうだ。


 顔合せはわずか数秒で終了した。

 曰く、「彼女が君たちの担当、シーラ フェンレイだ。」振り向きもせず「よろしく~」と言ったきりシルフに注目したままだった。

 要するに変人であると認識したライオットは、特に気にした様子も見せず話を先に進めることにした。


「すぐに上がれるか? 状態を見るためにも一度飛んでみたい。」


 シーラを睨みつけていた航法担当は、ギョッとした目でライオットを見た。


「おい正気か、あんな欠陥機にすぐに乗るなんて。まずは地上シュミレーションだろ。」

「お前こそ正気なのか? 俺たちはすぐに実戦に出されるんだぞ。一秒でも長く機に触れて慣れておくべきだろ?」


 ライオットは心底飽きれていた。地上シュミレーションでは、機体の癖や、加速Gなどは解らない。あくまでデータ上のシルフでしかない。

 本当に機体を物にしたけれは、本物の機体に触れるしかないのだ。


(こいつら命のやり取りをするってこと、解ってるのかしら?)


 シーラも飽きれていた。ライオットの発言まで誰もシルフに乗ろうとしない事に。その為に、自分たちメカニックが此処に出張っているというのに。


(理解できているのは、コイツだけみたいね。)

「弾薬は給弾前だけど、推進剤は補給中。後二分で終了よ。」


 シーラが振り向きながらそう言うと、ライオットの表情に変化はなかったが、パートナーである航法担当の表情が一変する。


 美人だった。金髪の細く緩やかなウェーブした髪、整った顎のライン、切れ長の瞳、顔だけではなく体のラインも出る所は出て、引込む所は引込み、武骨なつなぎの上からでも、そのボディーラインがはっきり分かるほどだった。

 要するに、こんな所に居るのがおかしい位の美人だ。


(こいつは駄目ね)


 シーラは、自分の顔を見て顔色を変えた航法担当を見限り、ライオットに目を向けた。

 まるで、どうでも良いと言わんばかりに、シーラの容姿を無視し、各装備の着用を続けていた。


「おい、早く装備を身に付けろ。置いて行くぞ。」


 本当に置いて行きかねない勢いで棺桶シルフのコックピットに向かい、レシーバーのジャックやエアホースなどを繋いでいく。慌てて広報担当がライオットに詰め寄った。


「本気で飛ぶ気か、僕はまだ死にたくない!」

「じゃあ乗るな。」


 ライオットは泣き言を叫ぶパートナーを放り出すと、キャノピーを閉じ、最終点検を終了した。


『聞こえる? 推進剤補給は終了、弾薬は給弾してないから、固定武装のパルスレーザーのみ。本格戦闘は無理だから、敵とエンゲージした時は逃げなさい。後、シルフに傷を付けたらぶっ飛ばす。』


 クスクス笑いながらシーラはそう言うと、最後の一言だけ声のトーンを落としそう締めくくった。


『了解、これよりテスト飛行を開始する。』


 ライオットはパートナーを無視し、単独でシルフとともに高空に飛び立っていった。



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