2-4 機種転換訓練 その1
何でだろう、仕事が暇な時にはまったく書けなかったのに、忙しくなったら書けたよ?
実機でのテスト飛行初回、ライオット達は安全空域での大気圏内飛行テストを行っていた。結果は順調、シーラの手によって生まれ変わったプロトシルフは、その性能を遺憾なく発揮し、2人を振り回していた。
「高度 2000から 降 下 800 で 水平 飛 行に」
アレクが苦しげに飛行指示を出し、ライオットが忠実に実行する。既に肉体にかかる負荷は、限界に近くなっている。
「コンプ リート」
アレクの指示をこなしたライオットは、これで漸く一息つけると体から力を抜く。
「洒落に為らん、あの人は本当にこれを俺たちに使わせる気なのか?」
思わず愚痴を漏らすアレクに、ライオットは渋々と返答を返す。
「仕方ないだろう、俺たちに選択の権利は無いのだから。」
しばらく空力環境下での戦闘機動のテストを繰り返していると、管制より連絡が入る。
『管制よりプロトシルフ』
アレクは一瞬時計を確認すると、管制に回答する。
「此方プロトシルフ、感度良好」
『是よりターゲットドローンを射出します』
「了解」
若干のタイムラグの後、レーダーに味方機の反応が帰って来た。アレクは躊躇うことなくライオットに敵機来襲と宣言した。
管制でプロトシルフの動向を監視していたリーサは、予定の時間が来た事を確認すると、プロトシルフに連絡を取った。
「管制よりプロトシルフ」
『此方プロトシルフ、感度良好』
「是よりターゲットドローンを射出します」
『了解』
余計な事を話さないよう、鋼にも似た自制心で職務を果たす。否、余計な事を話す事など出来ない、話してしまえば泣いてしまうかもしれない。プロトシルフがコントロールを乱す度、彼女の心に絶望的な恐怖が走った。
管制から見下ろす場所に、ランチャーにセットされた無人機がせり上がってくる。それを見下ろしながら、彼女はつい夢想する、“あれが使えたなら”と。
珍しくシーラが管制まで上がって来ていた。何の事は無い、自分の手懸けたプロトシルフの完成度を確認する為だ。
「管制よりプロトシルフ」
『此方プロトシルフ、感度良好』
「是よりターゲットドローンを射出します」
『了解』
プロトシルフと管制官の交信する声が聞こえるが、特に興味を示さず、せり上がってくる無人機を見つめる。
実は、この無人機もシーラの手が入っていた。
無人機の名称は、アルバトロスVT-2201。
本来は、アルバトロスVT-2200であるが、シーラの手によりカスタムされている為、末尾の番号が違う。
この無人機は、開戦当初戦闘に投入された無人機をアップグレードした機体で、その戦闘能力は、現行機に引けを取らない。この機体を実戦に投入出来れば、戦局は自軍が遥に有利になっていただろう。
しかし、未だ持って敵のクラック手段の解明は成されていない。当然防御手段も開発されていない。是では戦闘に出しても、再び敵に乗っ取られ、自軍に攻撃してくるだけである。
当然、過去に対処策を講じられていた。作戦開始から終了までのミッションプランを入力し、作戦中の入力を不可能にしてみたり、有線、無線を問わず、アクセスポイントを無くしてみたり、中には、無人機の中に無理矢理人を乗せ、直接AIを監視させるなどと言った、危険極まりない事をやった人物まで居た。
しかし、全ての努力は無駄に終わった。どの様に厳重な対抗処置を取っても、呆れるほど鮮やかに無人機のコントロールは奪われる。直接監視していた人物は、コントロールを奪われた機体の機動に耐えきれずミンチになった。
そこまでの犠牲を払い、解った事は、直接AIを乗っ取られる事は少ないと言う事だけだったのだから、救いがない。解析は遅々として進まず、現在に至る。
シーラはアルバトロスを見つめ、楽しげに顔をほころばせた。
(さぁ、この子たち相手に如何戦うのかしら、あの2人。楽しみね……)
人によっては悪魔の微笑みにも見える艶やかな笑顔を振りまき、シーラは一人佇んでいた。
「フォーハイ エネミー2
エイスハイ エネミー2」
アレクの報告を聞いたライオットは、躊躇わずスロットルを開いた。既に上を取られ、数も位置も不利になっている。空戦での勝敗は、結局高さの取りあいである。高度が上であるという事は、其れだけ高い位置エネルギーを得ると言う事で、其れは容易にスピードに変わり、攻撃力に変わる。
一例として、第2次世界大戦時、ドイツのルフトヴァッフェが対装甲に用いた戦術で、急降下爆撃と言う物が有る。
是は高高度から急降下しながら目標に機銃、又は爆撃を加えると言う物で、通常発射では貫通できない目標を貫通できる。位置エネルギーを攻撃力に転化した解りやすい例であると言える。
ライオットの取った戦術は単純な物で、有り余る機体の推進力で、敵の得た位置エネルギーをチャラにしようと言う、まさに力任せな戦術だった。
だが、今回はその力任せが功を奏す。無人機4機は、プロトシルフに追いつくため、|位置エネルギーを速度に変換《降下》し、プロトシルフを追いかけて来る。
プロトシルフの2人は既に話しをする様な余力は無かった。
絶えず襲いかかる加速G、既に人体の限界に近い速度が出ていた。それでもライオットはスロットルを絞らない、次善の打ち合わせの合図が来るまで只管耐え続ける。アレクも耐え続ける、敵機が最適な位置に到達するのを、そして、此方の攻撃が有効に為るタイミングを。
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