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sin red line  作者: たぬき
第二章
17/21

2-3 日常あるいは不穏な日々

改稿再投稿です


以前の物に加筆修正した物で、ストーリーの変更は有りません。

 その日、恐れていた事態にライオットとアレクは脅えていた。

 その日、待ち望んでいたシーラは、狂喜していた。


「貴方達の新しい機体が届いたわよ。フフフフフフ……」


 そのセリフを聞いてしまい、2人は思わず叫んでしまった。


「「来てしまったか。」」





 プロトタイプシルフの到着時、其れは分解されて輸送機で送られてきた。


「なぜ分解されて送られてきたんだ? 普通は自走させて来るもんじゃ無いのか?」

「さあ、知らないわ。」


 アレクの疑問ももっともだが、一寸考えれば解る。

 ようは、乗れる人材が居なかっただけだ。ライオットは嫌そうに分解された機体を見、そんな事を考えていた。


「では、頼んであるように調整して組み立ててくれ。組み立てまでにどの位かかる?」

「そうね、調整と組み立てで…… 七日と言った所かしら。」


 ライオットは、其れだけ確認するとシュミレーターに向かい、飛行技術の向上に務めた。


(新しい機体、どれだけ技術上げても洒落に為らん。)


 ライオットは心の中でそう言い放ち(シーラに直に言う度胸は無い)、次はどの様なシュチュエーションのシュミレーションにするか考えていた。





 シーラは考えていた。


(流石にどノーマルじゃ駄目か)


 シーラの元にもライオットとアレクのシュミレーション結果は届いていたし、彼らからの調整要望も来ていた。

 あまりに鋭敏過ぎる操縦性に、だいぶ苦戦していた。

 未だに戦闘機動は行えていない状態で、それでも安定して飛行できるパイロットなど、片手で数えるほどしかいない。


「さて、多少なりとも遊びを入れますか。」


 実はプロトシルフには、操縦系に遊びが殆ど無い。その為、僅かでも機体を揺らすと、その振動を操縦系が拾ってしまい、意図せぬ挙動をしてしまう。

 かといって遊びを入れ過ぎると、今度はプロトシルフ特有の操縦性能を損ねてしまう。

 非常に繊細な調整技術が要求される機体なのだ。

 しかし、そんな厄介な機体を、シーラは鼻歌交じりに調整していた。そう、とても楽しそうに……


「フン フンフフフンフンフン ウフフフ…… 美しいわ、この無駄のない操縦系、空力の極みのボディーバランス。ウフフフフフフフフ……」


 訂正する。

 非常に危ない、極めて危ない様子で調整していた。





「うちのエース2人に、プロトタイプが支給されたらしいわよ。」


 リーサは休憩中の雑談の中、そんな話を聞いていた。

 リーサでも知っているプロトタイプシルフの異名、空飛ぶ棺桶、自殺志願者専用機等々。とても自らの恋人を乗せたい機体では無い。


 顔を青ざめさせながら、思わずその情報を伝えた同期の管制官に掴みかかった。


「嘘でしょ、本当なの。」


 ジョークやデマは許さないと、態度で示しながら問い詰めて言った。

 問い詰められた管制官の女性は、顔を引き攣らせながら情報の開示に応じ……


「……いや、整備士のシーラさんが、嬉々として新しく送られてきたシルフを組み立てていたのよ。其れに、エース2人が絶望に打ちひしがれた顔していたし。

 それでぇ~ どっちなの?」


 最早、リーサは周囲の話を聞いていなかった。付き合い始めたばかりで恋人が死ぬかもしれない。既に彼女の脳裏を占めるのは、その事だけだった。

 周囲が恋話で盛り上がっている中、彼女一人恐怖と無力感に囚われていた。

 自分には何も出来ない、変わってやる事も、手助けする事も。其れが彼女に無力感を与え続けていた。





 アレクは何時もの訓練を終えると、これまでのシュミレーションの解析を始めていた。


 今までの墜落原因は解っている。あまりに敏感なプロトシルフの操縦系が、機体の振動を拾ってしまい予期せぬ挙動を起こしてしまっていたからだ。

 その点の改造はシーラに依頼してあり、完成する機体ならば、ライオットの操縦に応えてくれる。しかし……


 アレクの不安は機体の面では無かった。前回の生存者捜索ミッション、そこでのライオットの対応がアレクの心に不安と苛立ちを募らせていた。


 アレクにも解っていた。其処にいた人々を救う術が自分達に無い事を、助ける手段は既に自分達の手からこぼれ落ちている事を。

 だが、なぜライオットはあそこまで、冷然と見捨てる判断が出来たのだろう。自分には出来ない。

 アレクにも解ってはいた、仮にシルフを着陸させる事が出来ても、一人を救うには自分達の内一人が犠牲に為らなくてはならない。そんな事は救うと言う事ではない、ただの意味の無い自己満足だ。


 アレクの手は、知らずにライオットの過去を調べていた。





 ライオットは只管シュミレーションを繰り返していた、ただ只管に。

 既に当初の目的を忘れ、自身の性能向上の為、ただ敵を殺す為、その為だけに技量の向上に努めていた。

 最初は戦闘機動を取っただけで墜落していたその技術も、既に三十分以上の機動を可能にしていた。しかしまだ足りない、一機でも多くの敵を落とす、その為にはまだ足りない。

 ある一線を超える度に脳裏に蘇るあの時の光景、その光景が彼の手を休めさせない。


「まだ足りない……」


 ライオットの闇は深く、その深遠はまだ見えない……


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