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sin red line  作者: たぬき
第二章
12/21

2-1 悪夢

震災に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。


 ライオットはよくこの夢を見た。


(助けて)


 湖に沈んでいく子供。


(痛い)


 焼け焦げていく大人。


(苦しい)


 焦げなくても、呼吸器を焼かれ、窒息して死んで行く人。

 自分は何も出来ない。ただ、死んでいく人々を見送るだけ。


(助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて 助けて)


 何も出来ない自分に嫌気がさす。

 だが何も出来ない、ただ、見送りそして。


(またこの夢か……)


 何時もの様に目を覚ました。

 冷や汗で体に張り付いたシャツが、不快感を増大させる。

 いったい何度見たか解らない悪夢、だが、不思議に嫌悪感は湧かなかった。


(悪夢は、正常な精神活動、日ごろのストレスを悪夢という形で発散している。なんて言ったのは誰だ……)


 嫌悪感は湧かなくても、疲労感は湧く。だが、彼にとってこの夢は日常。そう、何時もの日常、何時もと変わらない今日が始まる。





 もうすぐこの軍学校ともお別れする間際、その任務は与えられた。


「今回のお前たちの任務は、敵により爆撃された都市の、生存者の捜索だ。」


 すでに教官達も、ライオット達に訓練などと建前を言わなくなっていた。

 彼らは既に、実戦の洗礼を潜り抜けた、一人前の戦士達であると認識しているのだろう。


 何時もの様に注意事項を話し、質問事項の確認に移った。


 出撃する都市は、つい先ほど爆撃を受けていると連絡をし、連絡を絶った都市。おそらくもう壊滅しているであろう事が伝えられる。


 そう、この星では有り触れた悲劇。生き残った人は、余所の都市で新たな生活を始め、生き残ってしまった孤児は、彼らの仲間入りを果たすだけ。

 ただ其れだけの事。


 何時もの様に、無感動に、無表情に、ライオット達は出撃の準備を済ませた。





『座標Y-1211、間もなく目標地点。これより捜索を開始、生存者の捜索を開始する。』


 後席より、新しくパートナーとなったアレクの声が、レシーバーの中に響いた。


「スクリューマニューバ、GO」

「了解」


 外延部より捜索を開始するのだろう、的確な機動指示を出してくる。

 機動その物は、比較的単純な物だが、体にかかる負荷、操縦難易度はかなり高い指示だったが、ライオットは気にせずその指示に従いシルフの軌道を変化させる。


 既に都市は破壊しつくされ、残っているのは瓦礫と、一部の完全倒壊を免れた傾いたビル。

 他にも、シェルターの入口らしき残骸が有ったが、その周辺はクレーターになっていた。

 敵機はモンロー効果弾でも使ったのだろうか。

 あれでは、シェルターに逃げた人は、全滅しただろう。


 完全にこの都市は死んでいた。


 最早、生き残りを探す事すら無駄に思えた。


「生体反応確認、ポイントRTV-2218・2183」


 どうやら生き残りが居たらしい。ライオットはアレクより回されたセンサーの探査記録を確認し、無感動にそう考えていた。

 生き残ったこの都市の人員は、此処に集まり、救助を待っているのだろう。


『シルフ(エコー)-21より、(デルタ)-11。生存者発見できず。』


 後席より、アレクが管制にそう連絡していた。


「おい、生き残り居るぞ。」

「ああ、だが…… 同じだろう。」

「……そうだな。」


 アレクもライオットも、あっさり彼らの命を諦めた。

 地上からでは解らないかもしれないが、上空からははっきりと解った。

 彼らを取り巻く様に、火の手が上がっている事を。

 そして、救助が決して間に合わない事を。


 低空で飛行している為、彼らの表情まで解る。きっと救助が来ると言う事で、明るく笑っているのだろう。だが、救助が来る事は無い。


 やがて火の手が、彼らを消炭に変えていく…… 上空に見えるシルフを見たときは、きっと希望と喜びに溢れていたであろうその顔を、絶望と怨嗟に塗り替えながら。


 それをライオット達は、空から眺めるしかなかった。


「さ、帰るか。これ以上は時間の無駄だ。」

「そうだな……」


 彼らに出来る事は、地上の人々を看取るだけ。だが、それさえも無用な事と、ライオットは帰還を宣告し、機首を基地へと向けた。


 アレクは、帰還後提出する報告書の内容を、機上でまとめながら、先ほどの犠牲者たちの事を記載するか少し迷った。

 彼にしても十分解っている。本来なら救助を呼ばなければならない事を、自分達が外道などと呼ばれる行いをした事を。

 だが、彼に後悔は無かった、あの人たちが助かる事は決してなかったのだから。

 火事で発生した有毒ガスは、数分で彼らを死に至らしめた。たとえ無理やり降りて、サバイバルキットのガスマスクを渡しても、死者に自分達が追加され、他の2人が生き残っただけだったろう。


 報告書には、ありのままを書くことにした。


 ライオットにとって、任務とは自己の訓練の成果を試す場所だった。

 今回の作戦も同じ、訓練の成果の確認。だから、見殺しにした人たちに特別な感情は抱かない。否、抱けない。

 手が届けば助ける、届かなければ助けない。ただ其れだけ。

 何時もの様に、機体を基地へ下ろした。



ご意見、ご感想、誤字指摘宜しくお願いいたします。

ポイントだけでも入れてもらえると、たぬきは喜びます。


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