1‐8 後始末
今回のお話には、一部危険な描写が御座います。
決して真似しないよう、伏してお願いいたします。
「ふふふ……」
管制室でシルフの帰還に喜んだのもつかの間、シーラは気が付いてしまった。
「ふふふふ……」
あれだけの激戦を潜り抜けた機体が、無傷のはずがない事を。
「ふふふふふ……」
そして傷つけたのが、あの二人であることを。
「ふっふっふっふ……」
そしてこの状況に至る。
嬉々として自身の半身と言えるスパナやレンチ(特大)を磨き、その艶やかな頬を朱に染めていた。
憤怒で!
握りの部分は普通の銀色だが、先端は何故か薄紅色に染まった緋桜と桜花を磨き上げ、如何に反省を促すかを考える。
「フッフッフ…… 綺麗よ二人とも……」
自らの半身に語りかけ、手入れを終えた緋桜と桜花(命名者、使用法を知っている整備班)を徐に手に……
「教育的指導の為、あの二人に会いに行きましょ。ええ、報復などではなく、指導の為。フッフッフ……」
明らかに言い訳を口にし、制裁の為、愛するシルフの仇を討つため、一人の般若が戦場に立つ。
「待て、落ち着けシーラ フェンレイ、そんなものを持ち出してどうする気だ。」
「そうですよ、まず落ち着きましょう。」
「そうだ、大体あの二人は現在報告の真っ最中だ。当分終わらん。」
「ええ、まずはレコーダーをチェックして報復の方向性を定める事から始めるべきです。」
「貴様、あおってどうする。」
などなど、手すきの教官、管制官、整備士の人海戦術でシーラを抑え、何とか落ち着かせ、二人の安全を確保しようと必死になっていた。
「……そうね まずはレコーダーをチェックしないと……」
そして、その努力は一定の成果を上げた様だった。
(なぜこうなった……)
その男の思考は、その事だけで一杯になっていた。
「いや、素晴らしい成果だよ。」
「いやまったく、最初に聞いた時は予算の無駄だと思ったが、此処まで成果を上げるとわ。」
その会議は、その様な男の自尊心を最大に煽り立てるものだった。
最早、会議に出ている老人たちも、自らの栄光の階段の一段としか見えなくなった時、その爆弾は落とされた。
「さて、そろそろ最大の議題に入るとしようか。手元の資料を確認してくれたまえ。」
その資料には、このような標題が書かれていた。
“学徒動員計画”
要するに、孤児だけでなく普通の家庭の子供たちも、すべて戦闘訓練を行おうと言う計画だった。
だが、男には受け入れられない。なぜなら我が子を守るため、孤児を生贄に差し出したのだから。
(どうしてこうなった)
最早、男の取るべき道は、ただ一つしか残されてい無かった。
「ふざけるな、老いぼれ共。」
男は気付いていなかった。栄光の階段とは極めて狭く、極めて足を踏み外しやすいものである事を。
ライオットは、戦闘時ですら感じなかった、恐怖と言う感情の意味を思い知っていた。
つい先ほどまで、事後報告という名の説教を受けていた。
確かに、戦闘状態に入ったにも係らず、報告を忘れていた事は、言い訳のしようのない失態だ。
だが、此処までの暴虐を受けるほどの物なのだろうか。
その、悪夢のような光景を、青ざめながら見せられた彼は、神と言う存在がいるのならぜひ聞いてみたくなった。
「そう…… そういう事だったの……」
時系列は僅かに遡り、二人が整備表を整備部に提出に来る少し前、シーラはレコーダーの中身を確認し、真に打ち倒すべき敵を見つけることに成功していた。
「フフフ…… これはもう、お仕置きが必要ね……」
背筋が凍りつくような満面の笑顔を周囲に振りまきながら、周囲を絶望のどん底まで笑顔で突き落としていた。
そこに飛んで火に入るなんとやら、問題の2人がやって来た。
やって来てしまったのだ。
2人の姿を見た瞬間、教官たちは姿を消した。格納庫より逃げる訳にいかない整備士たちは、自分の仕事に集中するふりをして、惨劇の目撃者となる事を避けた。
ただ1人、シーラだけが2人を出迎え、笑顔を向けていた。
「……あなたは頑張ったみたいだから、今回は見逃してあげる……」
寒気のするプレッシャーを放つシーラに、そう言われたライオットは、思わず数歩後ずさり、距離を取っていた。
以降、正確に描写するとR指定どころか、X指定が必要になるため、ダイジェスト版でお送りいたします。
緋桜と桜花の連撃でメリスを吹き飛ばし、マウントを取ってフルぼっこ。
簡単に説明すると、そういう事になる。
マウントの時、メリスに何か囁いていたようだが、ライオットには聞き取れなかった。
これ以上の描写は危険になるためお送りできません。
メリスは鬼という存在を初めて理解した。
そう、目の前に存在していた。
何故か良く解らないが、目の部分が影になりよく見えないのに、爛々と輝く瞳が見える気がするのだ。
口元には確かに笑みが張り付いていたが、決して笑っていない。むしろ、怒りに顔の筋肉がこわばり、偶々笑顔の型になっただけという事がありありと解る様な笑顔。
恐ろしかった。ただ只管、目の前の存在が恐ろしかった。
気が付けば殴り飛ばされ、背中から倒れていた。どうやって、どんな得物でふっ飛ばされたのか、まったく解らなかった。
おそらく左右からの棒のような物での連撃、圧し掛かられた瞬間に走った痛みによって、肋骨が何本か折れている事が解った。口の中で鉄錆の様な味がする。内臓もいくつか傷ついているのかも知れない。
頭部に走る衝撃と痛みで、殴られている事が解る。
「あんたが」
一撃ごとに般若が声をかけてくる。
「シッカリ」
「しない」
「から」
一撃ごとに意識が薄れていく。
「あの子が」
「あんな目に」
「会うのよ」
徐々に薄れていく意識の中で、彼は確かに決意した。
「解ってるの」
最後に痛烈な痛みが股間より脳天まで走り抜け、意識が暗黒へと落ちて行った。
「ウッウッウ……私のかわいいシルフが~~~~~」
メリス リンドの所見
肋骨 4本 粉砕骨折
内臓 及び 性器にも損傷あり
医療カプセル内にて、2か月の療養の必要あり。
これ以降、メリス リンドは、此の事件の事を、一生涯話す事はなかった。
また、余談ではあるが、シーラの姿を見ただけで失神しかねないほど脅えていたという事だ。
真にチートな存在はライオットではなく、シーラさんや!
というお話でした。
またこの後、ライオットくんは決して被弾しないよう、回避の訓練を大幅に増やし、お仕置きを受けないよう、必死に為りましたとさ。
どっとはらい