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乙女椿の恋語り

作者: 江藤ぴりか
掲載日:2026/05/08

桜ちるちる、花筏はないかだ

カラコロ鳴るは、下駄の音。

盃、番傘、衣擦れに

ふたりの恋はすれ違う。

花びらひとつを、茶に浮かべ。

依依恋恋いいれんれん、ひとつの影。

涙の意味を問うなかれ。


次回、第二幕「恋慕の果てに」

さて、どうする?



葉桜、皐月さつき、雨の音。

切れた鼻緒に美丈夫が、

すそを割いて、頬染める。

神社に通い、神頼み。

紫陽花の花は、まだつぼみ。

まだかまだかと待っている。

昼想夜夢ちゅうそうやむは、恋乙女。


次回、第三幕「さつきの恋のはじまりは」

さて、どうする?



しとしとと、番傘濡らし俯くも。

つのる想いは、恋の雨。

美丈夫の影、現れず。

街ゆく人を目で追って

白の鼻緒に、一日千秋いちじつせんしゅう

狐か狸か、あやかしか。

四葩よひらまりが、転々と。

いろどり添える雨の町。


次回、第四幕「待ち人、来ず」

さて、どうする?



夏風が、風鈴揺らしカラカラと。

手ぬぐい、汗で湿らせて

唾で喉を潤した。

したためたふみふところに。

美丈夫の影、刹那の間。

ぶつかる人で、手が届かず。

叶わぬ逢瀬、濡れた文。


次回、第五幕「刹那の逢瀬」

さて、どうする?



冷やしあめ、団子の甘さに辟易す。

恋わずらいは甘味、通らず。

改めたふみ、まだ手もと。

見上げた先に、美丈夫が。

下駄の調子をたずねてく。

咳き込む乙女、震える手。

文を渡して駆けてゆく。


次回、第六幕「甘味処と美丈夫」

さて、どうする?



名月に、恋乙女のため息が。

交わしたふみは片手ほど。

会えた日数、三度だけ。

貸本通い、読本よみほん漁り。

募る想いを、愛及屋烏あいきゅうおくう

日々是好日ひびこれこうじつとめくる手、止まらず。


次回、第七幕「名月と読本」

さて、どうする?



晩秋、手鏡、銀杏いちょうの葉。

ふたつの下駄が、カラコロリ。

情意投合じょういとうごう、日が落ちる。

吹きさぶ風に、羽織り借り

美丈夫語るは、別れの時。

わけを聞いても、かわされる。

乙女の涙と、香らぬ羽織り。


次回、第八幕「終わりのはじまり」

さて、どうする?



霜おりて、手鏡なくし、意気消沈。

かまどの薪は、灰になる。

舞い散る雪に、美丈夫想い

鳶色探せど、消え失せた。

ふみも、鼻緒も、羽織りさえ

もらった思い出、旅に出る。

探せど、探せど、あてはなく

書きかけの文、滲む文字。


次回、第九幕「手にこぼれた思い出」

さて、どうする?



年初め、女将に知恵を拝借す。

昼想夜夢ちゅうそうやむは、まやかしか。

あやかし、妖怪、幽霊か。

うわさの花は、椿色つばきいろ

べにが花咲き、さぎが飛ぶ。

されど、鈍色にびいろ、曇り空。

ほうきをいても、晴れ間来ず。


次回、第十幕「色は匂へど散りぬるを」

さて、どうする?



鬼は外、福は内。

春よ、来い来い節分草。

冬が明けたら、匂い立つ

春の嵐がやってくる。

比翼之鳥ひよくのとりには、なれずとも

決して忘れぬ、恋心。

まばたきすれば、あの人が

映れど刹那、消えてゆく。


次回、第十一幕「梅がほころび、また春が」

さて、どうする?



桃の節句の祝い事。

とびの羽織りに、駆けてゆく。

見れば美丈夫、目を開く。

我が名は木魅こだまあやかしだ。

あなたの涙が不憫でな。

近づきすぎた、すまないね。

最後に乙女に渡された

椿のくし妖形見あやかしがたみ

消え入ることなく、子に孫に。

受け継ぐ櫛は、異形の恋。


次回、最終幕「乙女椿の櫛」

答えはそなたの中にある。

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