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雨の駅で、君を忘れなかった  作者: アル治


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第6話  変わらないもの

いつも読んでいただきありがとうございます。

夜のオフィス。

昼の空気が嘘みたいに、静かだった。

ほとんどの席の電気は消えている。

残っているのは、数人だけ。

カタ、カタ、カタ。

その中で、変わらない音。

樹梨だった。

昼のことを思い出さないように、手を動かす。

考えると、止まるから。

(やめた方がいい)

美咲の言葉が、まだ残っている。

(最初から関係ないんだから)

そう思っているのに――

なぜか、少しだけ引っかかる。

「まだやってたの?」

その声で、思考が止まる。

顔を上げる。

悠斗だった。

昨日と同じ。

でも、少しだけ違う。

「……はい」

短く答える。

悠斗はゆっくり近づいてくる。

机の上を見る。

「今日も多いな」

軽く言う。

責める感じはない。

ただ事実を言っているだけ。

樹梨は視線を落とす。

「大丈夫なので……」

また同じ言葉。

悠斗は少しだけ沈黙する。

そして、隣の椅子を引く。

「やるよ」

「え?」

「昨日の続き」

当然みたいに言う。

樹梨は少し戸惑う。

「でも…」

「いいから」

昨日と同じ言葉。

でも、少しだけ優しい。

断らせないためじゃない。

ただ、そこにいるための言葉。

樹梨は小さくうなずく。

「……ありがとうございます……」

また、2人で作業が始まる。

カタ、カタ、カタ。

同じリズム。

同じ空間。

でも今日は、少しだけ違う。

沈黙が重くない。

時間がゆっくり流れている。

しばらくして。

悠斗がぽつりと言う。

「今日さ…」

手は止めない。

「はい?」

「なんかあった?」

一瞬、心臓が跳ねる。

「……え?」

「昼」

短い言葉。

でも、ちゃんと見ていた。

樹梨は少し迷う。

言うか、言わないか。

でも結局――

「…何もないです……」

そう答える。

悠斗は何も言わない。

しばらく沈黙。

キーボードの音だけが続く。

それから、ゆっくり口を開く。

「無理すんなよ」

樹梨の手が止まる。

その言葉は、思っていたよりも深く届いた。

「別に、全部やらなくていい」

「断っていいんだよ」

静かな声。

押し付けない。

でも、逃がさない。

樹梨は少しだけ笑う。

「難しいです…」

本音だった。

悠斗は小さく息を吐く。

「だろうな」

少しだけ間。

そして、言う。

「でもさ」

樹梨は顔を上げる。

悠斗は画面を見たまま。

「変わってないな」

その言葉。

昨日と同じ。

でも今日は、少しだけ重い。

「……昔って、何ですか」

勇気を出して聞く。

悠斗は一瞬止まる。

それから、少しだけ笑う。

「気づいてないのか」

「……?」

樹梨は分からない。

本当に分からない。

悠斗は少しだけ視線を上げる。

樹梨を見る。

その目は、今までと少し違った。

優しいだけじゃない。

何かを確かめるような目。

そして、言う。

「まあ、いいか」

それで終わらせる。

それ以上は言わない。

でも――

確実に何かがあった。

作業が終わる。

昨日より、少しだけ遅い時間。

「帰るか」

悠斗が立ち上がる。

「……はい」

2人でオフィスを出る。

夜の空気。

少しだけ冷たい。

並んで歩く。

今日は少しだけ、距離が近い。

「駅まで送る」

自然な一言。

樹梨は少し迷う。

でも――

「……はい」

小さくうなずく。

初めての選択だった。

2人で歩く。

言葉は少ない。

でも、静かに繋がっている感じがある。

駅が見えてくる。

そのとき。

悠斗がふと空を見上げる。

「雨、降りそうだな」

樹梨もつられて空を見る。

曇っている。

その瞬間。

ふと、頭の奥で何かが引っかかる。

雨。

駅。

傘。

誰かの声。

「……?」

でも、まだ思い出せない。

悠斗はそれを横目で見る。

小さく笑う。

「まあ、そのうち思い出すか」

樹梨は不思議そうに見る。

「…え?」

「いや、なんでもない」

それ以上は言わない。

駅に着く。

「じゃあ」

「……ありがとうございました」

小さく頭を下げる。

悠斗は軽く手を上げる。

「また明日」

その一言が、なぜか少し特別に聞こえた。

少し離れた場所。

柱の影。

美咲が立っていた。

無言で、2人を見ている。

その視線は、もう隠していない。

ゆっくりと目を細める。

「……やっぱり」

小さく呟く。

その声には、はっきりとした感情が混ざっていた。

6話も読んでいただきありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。

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