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雨の駅で、君を忘れなかった  作者: アル治


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10/10

最終話  選ばれなかった恋たち

いつも読んでいただきありがとうございます。

最終話になります。

雨は、あの日から何度か降った。

そのたびに、少しだけ思い出す。

駅のホーム。

差し出された傘。

そして――あの言葉。

「最初から決まってた」

あれから。

樹梨と悠斗の距離は、少しずつ変わっていった。

劇的じゃない。

何かが一気に変わるわけでもない。

ただ――

隣にいることが、少しずつ当たり前になっていく。

「おはよ」

朝のオフィス。

悠斗が自然に声をかける。

「……おはようございます」

樹梨も小さく返す。

それだけ。

それだけなのに。

以前とは違う。

周りの空気も、少しずつ変わっていた。

気づいている人もいる。

気づいていないふりをしている人もいる。

でも、もう隠れてはいない。

「悠斗」

声をかけたのは沙耶だった。

昼休み。

前と同じ距離。

でも、空気は少し違う。

「最近さ」

軽く言う。

「分かりやすいよ」

悠斗は少しだけ笑う。

「そうか?」

「うん」

沙耶は肩をすくめる。

「まあいいけど」

少しの沈黙。

それから、まっすぐ見る。

「ちゃんと幸せにしなよ」

その言葉に、強がりはない。

悔しさは残っている。

でも、それ以上に前を向いている。

悠斗は小さくうなずく。

「……ああ」

それで終わり。

それ以上は言わない。

それが、沙耶なりの区切りだった。

廊下の角。

美咲は1人で立っていた。

少し離れた場所から、2人を見る。

笑っているわけでもない。

ただ、並んでいるだけ。

でも、それで十分だった。

(ああ…)

心の中で、静かに理解する。

もう、入り込む場所はない。

「……ほんとに」

小さく呟く。

「選び方、間違ってるよ」

あの日の言葉を、もう1度。

でも今は、少しだけ違う。

怒りはない。

ただ、少しだけ寂しい。

それでも――

目を逸らさない。

ちゃんと見て、終わらせる。

それが、美咲だった。

ゆっくりと背を向ける。

歩き出す。

今度はもう、振り返らない。

帰り道。

駅へ向かう道。

樹梨と悠斗は並んで歩いていた。

言葉は少ない。

でも、それでいい。

「今日さ」

悠斗が言う。

「はい?」

「雨、降りそうだな」

空を見る。

曇っている。

樹梨もつられて見る。

そして、少しだけ笑う。

「そうですね」

あの日と同じ会話。

でも、意味は違う。

悠斗は少しだけ立ち止まる。

樹梨も止まる。

少しの沈黙。

それから――

悠斗が口を開く。

「ちゃんと伝えとく」

樹梨の心臓が、少しだけ強く鳴る。

「……何をですか?」

分かっているのに、聞いてしまう。

悠斗はまっすぐ見る。

逃げない目。

「好きだよ」

静かに言う。

飾らない言葉。

でも、それが一番強い。

樹梨は一瞬、言葉を失う。

何を返せばいいか分からない。

でも――

逃げない。

少しだけ息を吸って。

ゆっくり言う。

「……私も、好きです」

小さな声。

でも、ちゃんと届く。

悠斗は少しだけ笑う。

安心したように。

2人の距離が、ほんの少しだけ縮まる。

触れそうで、触れない距離。

それでいい。

今はまだ、それでいい。

駅に着く。

電車が来る。

ドアが開く。

2人で乗り込む。

窓の外。

ぽつり、と雨が落ちる。

やがて、それは強くなる。

雨が街を包む。

でも――

もう、傘は1つじゃない。

選ばれなかった恋がある。

届かなかった想いがある。

でも、それは無駄じゃない。

誰かを本気で好きだった時間は、消えないから。

そして――

選ばれた恋も、また同じように大切なものになる。

雨の駅で、君を忘れなかった。

それは、たった1度の出会いが、

ずっと続いていた証だった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

続きは考えておりません。

本当にありがとうございました。

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