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生き残った元勇者君

掲載日:2026/01/27

コミュ障になってしまった元勇者の話。

「ああ…」

声がもれてしまう。


「新しい勇者だ!」「平和を頼んだぞ!」「今回は強そう!」

街道を歩く勇者たち。

そして、それに声を掛ける人たち。

勇者たちは笑顔で、手を振りながら明るく歩く。声を掛ける人たちも、笑顔で。


ふと、

『勇者だ!』『魔王を倒して!』

過去の記憶がよぎる、よぎってしまう。


「うっ」

吐き気が込み上げてくる。


タシカ、アノトキモ、ミンナエガオデ。


駄目だ、ここにいたら。


「あっ、こんにちは。困ったことはありませんか?」

微笑んで聞いてくる聖女を無視し、急いで僕はその場から去った。




「おえっ」


「はあ、はあ」

あの場からは去ったのに、ゲロを吐いてしまった。

衛生…、まあ、ごみ捨て場の、ごみ袋の中だから、いい、のか?

「仮面を外せてよかった」

被ったまま吐くのは嫌だから。

そう言えば、あの聖女はどうして、仮面を被った僕を僕だと見抜けたんだ?

まあ、いいか。



「新しい勇者、か」

呟く。


確か、あのときも、そうだった。


『おおっ! よくぞ召喚された! 勇者よ!』

気付いたら城にいた。

目の前には、王、ゲームとかでよく見る小太りで、王冠を被った王。


魔王を倒し、世界を平和にするために僕は異世界から召喚された。

普通の高校生だったのに。


そして、国が選んだ人たち。

最も賢い魔法使い、

最もたくましい戦士、

最も器用な弓手、

その3人と組んで。


『勇者が召喚された!』『世界が平和に!』

冒険に出る前、国民から大歓声。僕は笑顔で手を振りながら国から出た。


だけど、結果は、最初の敵のゴブリンたちに。

「僕が、普通だったから。何も特別な能力がなかったから」

戦士のあの子がまず、戦えなくなり。次々と戦えなくなって。


動けない魔法使いの女性と、戦士の少女がゴブリンたちにあんなことをされ、助けようとした弓手は殺され。

僕は、恐怖で震えながら、見るだけで。


あのときも、召喚され、冒険に出る前も、ああいう風に歓声、大歓声だった。

後には悲劇があったのに。


「新しい勇者は召喚された。もう、僕に生きる道はない」

仮面を再び被る。




『お前のことなんか知らん! 勝手に召喚されたんだ!』

あのとき、王は僕に向かってそう言った。責任逃れだろう。


仕事の紹介もなしに、城から追い出された。

持っているものは、仮面だけ。剣を売って、そのお金で買った仮面だけ。顔半分じゃなく、全部を覆う仮面。


生きたい。死にたくないから生きたい。


でも、もう何日も食べていない。

空腹は、とっくに限界を迎えている。


死ぬ勇気はない。

だから、生きるしかない。


「仕事…」

お金はないから剣を買えない。それに、買えたとしても、もう魔物とは戦いたくない。想像するだけで怖くて震えてしまう。

接客もしたくない。ゴブリンと仲間たちの行為を見せつけられ、人が怖くなってしまった。つい、想像してしまい。


「ははは。

もう、死のうかなあ」

詰んだ、詰んじゃった。


頼れる人は、誰もいない。元勇者なんか、誰も興味ない。


…。

いや、


「聖女、か」

16歳の僕より少し上の、聖女。

さっき、声を掛けてきてくれた、聖女。

なぜか、仮面を被った僕を僕と見抜いた、聖女。




『新しい勇者本当に頼りになりそう』『平和は近いね』

外からは、明るい声。


聖堂で僕は、


「お願いします。僕に手伝わせて下さい。何でもします」

「頭を上げて下さい。

困ったら助ける、聖女として当たり前です。

それに、一目惚れもあるし」

何だろう、最後聞こえなかった。ぼそぼそと言ったから。


聖女は手を差し出す、

「よろしくお願いします」

笑顔で言ってくる。


震えながら、僕はその手に小指だけ当てた。


「えーっと。

どういうこと?」

「人間怖い」

「えぇ…」


前途多難すぎる。

ありがとうございました。

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