生き残った元勇者君
コミュ障になってしまった元勇者の話。
「ああ…」
声がもれてしまう。
「新しい勇者だ!」「平和を頼んだぞ!」「今回は強そう!」
街道を歩く勇者たち。
そして、それに声を掛ける人たち。
勇者たちは笑顔で、手を振りながら明るく歩く。声を掛ける人たちも、笑顔で。
ふと、
『勇者だ!』『魔王を倒して!』
過去の記憶がよぎる、よぎってしまう。
「うっ」
吐き気が込み上げてくる。
タシカ、アノトキモ、ミンナエガオデ。
駄目だ、ここにいたら。
「あっ、こんにちは。困ったことはありませんか?」
微笑んで聞いてくる聖女を無視し、急いで僕はその場から去った。
「おえっ」
「はあ、はあ」
あの場からは去ったのに、ゲロを吐いてしまった。
衛生…、まあ、ごみ捨て場の、ごみ袋の中だから、いい、のか?
「仮面を外せてよかった」
被ったまま吐くのは嫌だから。
そう言えば、あの聖女はどうして、仮面を被った僕を僕だと見抜けたんだ?
まあ、いいか。
「新しい勇者、か」
呟く。
確か、あのときも、そうだった。
『おおっ! よくぞ召喚された! 勇者よ!』
気付いたら城にいた。
目の前には、王、ゲームとかでよく見る小太りで、王冠を被った王。
魔王を倒し、世界を平和にするために僕は異世界から召喚された。
普通の高校生だったのに。
そして、国が選んだ人たち。
最も賢い魔法使い、
最もたくましい戦士、
最も器用な弓手、
その3人と組んで。
『勇者が召喚された!』『世界が平和に!』
冒険に出る前、国民から大歓声。僕は笑顔で手を振りながら国から出た。
だけど、結果は、最初の敵のゴブリンたちに。
「僕が、普通だったから。何も特別な能力がなかったから」
戦士のあの子がまず、戦えなくなり。次々と戦えなくなって。
動けない魔法使いの女性と、戦士の少女がゴブリンたちにあんなことをされ、助けようとした弓手は殺され。
僕は、恐怖で震えながら、見るだけで。
あのときも、召喚され、冒険に出る前も、ああいう風に歓声、大歓声だった。
後には悲劇があったのに。
「新しい勇者は召喚された。もう、僕に生きる道はない」
仮面を再び被る。
『お前のことなんか知らん! 勝手に召喚されたんだ!』
あのとき、王は僕に向かってそう言った。責任逃れだろう。
仕事の紹介もなしに、城から追い出された。
持っているものは、仮面だけ。剣を売って、そのお金で買った仮面だけ。顔半分じゃなく、全部を覆う仮面。
生きたい。死にたくないから生きたい。
でも、もう何日も食べていない。
空腹は、とっくに限界を迎えている。
死ぬ勇気はない。
だから、生きるしかない。
「仕事…」
お金はないから剣を買えない。それに、買えたとしても、もう魔物とは戦いたくない。想像するだけで怖くて震えてしまう。
接客もしたくない。ゴブリンと仲間たちの行為を見せつけられ、人が怖くなってしまった。つい、想像してしまい。
「ははは。
もう、死のうかなあ」
詰んだ、詰んじゃった。
頼れる人は、誰もいない。元勇者なんか、誰も興味ない。
…。
いや、
「聖女、か」
16歳の僕より少し上の、聖女。
さっき、声を掛けてきてくれた、聖女。
なぜか、仮面を被った僕を僕と見抜いた、聖女。
『新しい勇者本当に頼りになりそう』『平和は近いね』
外からは、明るい声。
聖堂で僕は、
「お願いします。僕に手伝わせて下さい。何でもします」
「頭を上げて下さい。
困ったら助ける、聖女として当たり前です。
それに、一目惚れもあるし」
何だろう、最後聞こえなかった。ぼそぼそと言ったから。
聖女は手を差し出す、
「よろしくお願いします」
笑顔で言ってくる。
震えながら、僕はその手に小指だけ当てた。
「えーっと。
どういうこと?」
「人間怖い」
「えぇ…」
前途多難すぎる。
ありがとうございました。




