第六話
午前は終わり、午後になった。
残された時間がなくなっていく。
水島さんは、野ばらさまにケーキを買いに行くように頼まれた。
「百谷くん、私が戻るまで野ばらさまをよろしくお願いします」
「はい、わかりました」
水島さんは屋敷を出た。
そういえば、野ばらさまはどこにいるのだろうか。
お部屋に行ってもいなかった。
本当に、この屋敷は広過ぎる。
前から思っていたが、屋敷にいる使用人が少ない。
野ばらさまが賞金十億を賭けられているからなのだろうか。
縁側のところに野ばらさまは座って寝ていた。
日差しが暖かくて眠ってしまったのか。
とは言え、このままにしておけない。
「失礼します」
僕は野ばらさまを布団までお運びする。
あどけない少女の寝顔だ。
布団で寝る野ばらさまを見て、気づく。
今、この場には僕と野ばらさましかいない。
水島さんはケーキを買いに行っているから、しばらくは帰って来ないだろう。
目的を果たせる絶好の機会だ。
この機会を逃したら、次はない。
寝ている野ばらさまに、包み紙の中身を飲ませることは難しそうだ。
咽せて、吐き出される可能性もある。
ならば。
野ばらさまの細い首を両手で掴んだ。
力を込めれば、確実に。
せめて、あまり苦しまないように、早く。
そうすれば、僕は鬼村から自由になれる。
実行しなければ。
野ばらさまは穏やかに眠っている。
短い間だったけれど、使用人の僕を気にかけてくれた。
僕に笑いかけてくれた。
嬉しかった。
だが、僕は野ばらさまを殺さないといけない。
ころさ、ないと。
手が震える。
力が、入らない。
無理だ。
できない。
僕は、ゆっくりと野ばらさまから離れる。
正座をして、額が畳につく寸前まで頭を下げた。
「も、申し訳、ありません、野ばら、さま」
弱々しい声が口から出た。
謝って許されることではないと、十分わかっている。
許されないことをしたのだ。
それでも、本当に実行しなくてよかったと、心の底から僕は思った。
鬼村の元に後で向かう。
逃げるものか。
水島さんが戻ってくるまで、僕は頭を下げていた。
「ただいま戻りました。野ばらさまはお休みのようですね。お目覚めになるまで、百谷くんに頼みたいことがあります。いいでしょうか?」
「はい、今行きます」
僕は水島さんに言われ、野ばらさまのお部屋を去った。
一人になった野ばらは、まぶたを開けた。
布団の近くに落ちている包み紙を拾う。
かけるが落として行ったもの。
野ばらは迷うことなく、包み紙の中身を全て口に含んだ。
「まずい。まずいぞ。こんなものを、かけるに持たせたのか。ーーーーーー鬼村め」




