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綺上院野ばらは、殺せない。  作者: をりふで


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番外編

 二十年前、水島が使用人になったばかりの頃だ。

 野ばらは本を読んでいて、紅茶が飲みたくなった。

「水島。紅茶を淹れてくれ」

 近くで待機していた水島にお願いする。

「屋敷や着ているものも和風だから、てっきり和茶を飲んでいるのかと思った」 

「もちろん和茶も好きだ。だが、少々飽きていてな。最近は紅茶を飲んでいるのだ」

「そりゃあ、そんだけ生きていればなぁ」

「主人が紅茶を飲みたいと言っているのだ。あまり待たせるな」

 面倒臭そうな表情を水島は浮かべた。

「ったく、仕方ねぇなぁ」

 文句を言いつつも、厨房に行く背中を野ばらは見た。

 しばらくすると、紅茶が運ばれて来る。

 テーブルの上にティーカップが置かれた。

 野ばらはティーカップを取る。

「!?」

 一口紅茶を含んで、野ばらは思わず吹いてしまった。

 テーブルに茶色い斑点ができる。

「な、なんだ? このまずい紅茶は!?」

 野ばらはティーカップを置き、口元を絹のハンカチで拭く。

 水島は舌打ちをしながら、テーブルにこぼれた紅茶を布で拭き取る。

「わざわざ淹れてやったんだ。文句を言うなら、てめぇが自分で淹れればいいだろ」

 野ばらは目尻を釣り上げる。

「主人に向かって、なんという口の利き方だ!」

「めんどくせぇ奴だなぁ。菓子だって用意したんだぞ」

 野ばらの怒りが小さくなる。

「甘いものがあるのか?」

「本当は休暇中に食べようと思ったらんだが……。ほれ、これで機嫌なおせ」

 赤いいちごが乗ったケーキが出てきて、野ばらは目を輝かせた。

「はわわ……。美味しそうだ」

「ここは美味いぞ。外れがない」

「水島は甘いものが好きなのだな」

「……悪いかよ」

 野ばらは頭を横に振った。

「今度は、お前の分も買ってこい。一緒に食べよう」

「使用人とお茶する主人なんて、聞いたことねぇぞ」

「いいではないか。一人で食べるより、大勢で食べた方が美味い」

「てめぇは変わった主人だな」

「私のことは、お嬢さまと呼べ」

「それは、さすがにキツイものがあるぞ」

「仕方ない。てめぇ意外なら、なんでもいい」

 気を取り直した様子の水島が口を開く。

「野ばらさま。私おすすめの洋菓子を、どうぞ召し上がってください」

 野ばらは満足そうに笑うと、再びケーキに向き合った。

「では、ありがたくいただくとしよう」

 フォークですくったケーキを、野ばらは口に入れた。

 野ばらは水島が買ってきた洋菓子店のケーキを気に入る。

 その日以来、二人は紅茶と洋菓子を用意してお茶をするようになった。

 

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