「今日、アフター行ける?」
「No. 1…に……?」
到底信じられない言葉だ。
何せ俺は3ヶ月最下位…先輩方のヘルプにつくことしか出来なかった人間だ。
これまで誰からも指名すら貰えなかった人間が、どうやってNo. 1に輝くというのか。
そもそも、No. 1とは沢山の人から人気を集め、指名をもらい、貢いでもらってやっと取れる称号である。
それを…なんの才も持たない俺がなんて……でも、
「__取ってみたい。No. 1…なりたい、!」
No. 1を取って、店の看板になって、見返してやりたい。
これまで馬鹿にしてきた同僚たちに、俺を捨てかけたオーナーに無理だと笑った同級生に…
だが、彼女一人で俺をNo. 1になんて……
「そうだ!今日アフター行ける?」
アフターとは、店の営業終了後に二人で何処かへ出かけることである。
桃愛は今日一日でたくさんお金を使ってくれたんだから、断る理由もない。
それに、彼女には聞きたいことも話したいことも沢山ある。
「勿論!どこ行く?」
精一杯元気よく答えた。
どんな時でも明るく愛想良く…ホストを始めて得た能力だ。
「じゃぁ…私の部屋とか来る?」
「………は?」
いやいやいやいや!!!!!
ホストと姫が初アフターで家だなんて…
「ごめん、嫌だった?従兄弟同士だし良いと思ったんだけど…」
「あ…いや…嫌じゃない、、けど」
そうだ、桃愛は従兄弟、親族だ!いつも通り…毎年祖母の家で一つ屋根の下で宿泊していた時のようにすればいい!何も意識することはない!ただ従兄弟の家に遊びに行くだけ、ただそれだけのことだ!
「…いいよ、行こう」
「!!やったぁ!!」
ぱぁ…っと顔を明るくして喜ぶ彼女。
そんなに嬉しいか…?と若干の違和感を感じつつも彼女の家に向かった。
*
「なっ、ななな…!」
彼女の金でタクシーに乗って、着いたのは府内でも有名な高級住宅街に存在するタワマン。
圧倒的な存在感に、前に立っただけでも気圧されてしまう。
開いた口が塞がらないということをここまで痛感したのは18年生きてきて初めてである。
どこに視線を移しても煌びやかで豪勢なタワーマンションに息を呑みながらもエレベーターで上に上がること約一分。
俺達は54階…最上階に来ていた。
「5401号室…ここだから、私の家」
「ま、じかよ…」
知らぬ間に同じ庶民だった従兄弟が大富豪になっていた。
その事実にキャッシャーの時点で若干気づいてはいたが…なんとも言えない劣等感と妬みが、俺の心を支配する。
俺は、なんて醜いのだろう。
応援して、貢いでくれている「姫」にこんなことを思ってしまうなんて、ホスト失格だ。
「遠慮せず入って!…急な来客だからちょっと汚いかもしれないんだけど…」
「お、お邪魔しまーす……」
緊張しながらも恐る恐る玄関の扉をくぐると____女の子の部屋特有の良い香りが鼻中に広がった。
「ささっ、好きなとこ座って?」
そう言ってタワマン最上階で微笑む彼女は、俺の知っている〝従兄弟〟ではなかった。




