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5. 騎士系貴族シュバルツ侯爵家

 リリィは命の恩人ラエル皇子の部屋の窓辺に毎日訪ねた。

すると、皇子はリリィを部屋に導き、嬉しそうに話しかけてくれる。


「リリィはお友達といつも一緒にいるの?」

「今日は雨だったけど、どこにいたの?」

「くるみ好きでしょ? 用意してもらったよ」


 リリィは一生懸命ピーピーと返事をする。

 毎晩、就寝前にリリィは水とくるみをついばみ、彼は紅茶を飲んだ。

 くるみは毎回主食のようにテーブルに並んだ。

 皇子は美しくて優しくて、リリィはうっとりと眺めながら話しかける。

 ただ、皇子とは当然だが言葉が通じない。

 彼はあまり人と深く関わらないが、使用人や騎士とは、最低限の会話くらいはする。

 その中には、一部皇子を裏切ろうとしている者も混ざっているような気がする。


(皇子様をはじめ護衛も使用人も、この殺気に気づかないなんて……。皇子様に伝えたいけど……鳴き声では通じないしなーー)

 リリィは会話ができないもどかしさを痛感していた。







 ある日、ラエルはシュバルツ侯爵レオンと皇居内で偶然出会い、立ち話をしていた。

 リリィはラエルの肩に乗り、二人の会話を聞く。


「一週間後に、キリテハ孤児院を視察いたします」

 レオンは、今後の予定を伝えていた。

「何故?」

「騎士として才能がありそうな子供にチャンスを与えたいと……たまに訪問するのですよ」

「私も許可が出れば、一度訪問してみたい」


 ラエル皇子自身もまだ10歳なのだが、国内視察に積極的な姿勢を見せた。


「その時はご一緒しますよ」







※ ※ ※


 シュバルツ侯爵家レオンは、家系特有の淡い緑の瞳を持ち、実直で穏やかな性格の美丈夫だ。

 まだ31歳で一人息子キリアンの父親である。

 シュバルツ家は、建国以来、東帝国の騎士系貴族であり、六大貴族の一家門である。

 彼の最愛の妻ナーシャ夫人は、先月逝去した。

 亡きナーシャ夫人はラエル皇子をとても可愛がっていたので、彼女に代わって、彼は皇子をとても気にかけていた。

 幼いラエル皇子は、「不吉第二皇子」と異名をつけられ、裏で心ない貴族達が見下していた。

 レオンは、このバカバカしい枕詞(まくらことば)に反抗するように、ラエル皇子には特に優しく接していた。







 ある昼下がり、モモイロノトリ達が森で集まって雑談していた。

 リリィは、仲間のカリナがワシに襲われ死んだと聞かされた。

 悲しいが、弱肉強食は世の常だ。

 自然界では当たり前のこと。

 死は日常なのである。

 リリィをはじめ、皆あっさりとしていて、すぐ別の話題に花を咲かせた。

 その中で、雄のケンタが毎回リリィに疑問をぶつけた。


『毎日よく飽きもせず、人間のところに行くなぁ。』


 リリィはその度に同じ返答をした。


『皇子は私の命の恩人だし、私の小さな幸せだからね』


 それを告げるとケンタはいつもふてくされてしまう。


 (ケンタは一体何が気にくわないのか……。)


 リリィには他にも気がかりなことがあった。

 ラエル皇子はあまりにも敵が多いように感じる。

 なんだろう……スパイか何かが周りに多くて、殺気が渦巻いている。

 人間は瞬発力や空気を読む力が、鳥類に比べて劣っている。

 スローモーションの世界のようだ。

 リリィは自分が皇子を守れる方法はないか模索していた。

 しかし、モモイロノトリ達は、人間に惹かれるリリィの気持ちが一番理解できなかった。







 一方、レオンは、邸宅の執務室で頭を抱えていた。なぜなら、周りから再婚を迫られていたからだ。

 早く女児をもうけてほしいという。

 シュバルツ家の令嬢と皇帝が結ばれれば、国が安定するという東帝国の言い伝えがあるためだ。

 それは東帝国では「エストリニア神の平定」とよばれていた。

 実際、200年前までシュバルツ家の令嬢と皇室とが婚姻をむすめば、その期間だけ内外ともに争いごとが起きなかった。

 この200年間呪われてるのか、シュバルツ家からは女児が一人も誕生していない。

 レオン自身もまだ31歳なので、再婚を皇室、神殿、国民、貴族……全ての組織から圧力をかけられていた。


(しかし、ナーシャ以外を愛するのは……他の兄弟達にも何故か男児しか生まれない)


 実は亡きナーシャ夫人のお腹の中には胎児がいた。メイドの話では、医者に妊娠判定をしてもらう前にナーシャの体調が急変し、亡くなったのだ。

 性別なんてわかる前の胎児だったが、確かに妊娠していたのだ。

 ナーシャはその妊娠判定を聞く当日に亡くなってしまった。

 シュバルツ侯爵は邸宅の執務室で、耐えきれず一人涙し、思わず顔を覆う。


(もう誰かを愛せる気がしない……)


 その時、ある一羽のモモイロノトリがレオンを執務室の窓辺から眺めていた。

 モモイロノトリはレオンを見つめピィピィ鳴いていた

 

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