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18.ラエル皇子と視察デート

「一体、どちらを『皇太子』に指名されるおつもりですか?」


 皇后アリシアは皇帝陛下テオに後継者をどう考えているか迫った。


「陛下はよくへヴァンと二人きりで話をされていますが、次代の皇帝として帝王学を伝授されているのでしょう?」


 テオは何も応えず、紅茶を口にしていた。


「正統な後継者は当然へヴァンでしょう?  正皇后の私との一人息子ですよっっ! 側妃の子ラエルと後継者を迷う意味がわかりませんっ」


 アリシアは興奮して、握った拳が震えている。テオはその様子を見て、ゆっくり返答する。


「へヴァンは私の目から見てよくわからない」

「なんですって?」

「お前にはあいつが国を治める器量があると思うか?」

「もちろんです ! 早く皇位継承者を明らかにして下さい! いらぬ混乱を招いてしまいます」

「それは君の言う通りだと思う。私も早くはっきりさせたい」


 皇帝テオは皇后アリシアの瞳を見つめた。

「君次第だな……」

「何ですって?」

「君の動向で、皇位継承者が決まる」

「……では、私の希望は、皇太子はへヴァンです。そう受け取ってもよろしいのですね?」

 皇后アリシアは、満足したかのように、皇帝の部屋を勢い良く退室した。


(彼女は……あの日から変わってしまった。まるで別人だ)


 皇帝テオは考えを巡らせる。


(今回のラエル毒殺未遂は内密に処理したが、また皇后は何か行動を起こすだろう……全て私のせいだが)


 テオは大きなため息をついた。


(しかし、あのシュバルツ家の見習い騎士は、監視役の庭師の存在まで気づいた。さすが侯爵の目に留まった少女だな。へヴァン並みに勘が良いというか……)


「ヘッセンはいるか?」

 ベルを鳴らし、執事ヘッセンを呼んだ

「お呼びでございますか?」

 外で待機していた執事が頭を下げて、部屋に入ってきた。

「へヴァンを呼んでくれるか。その後、しばらく二人きりで話したいので、また外で待機しておいてくれ」

 テオの執務室の窓辺から、リリィは皇帝皇后両陛下のこのやり取りを一部始終偵察していた。皇帝陛下と皇后の仲は、あまり良くは見えなかった。


 ーー家門で決めた婚姻だったのかなぁ……側妃であるラエル皇子のお母様マリアン妃とは愛し合われていたのかしら? ーー


 リリィは、人間の愛憎が問題を複雑にしているように思えた。とりあえず、夜も更けてきたので、リリィはラエル皇子の部屋へ向かった。




 翌日、ラエル皇子は町へ視察に行く予定にしていた。民衆に気づかれないように、粗末な馬車に乗った。服も平民が着るような質素な服で変装している。

そのため、精鋭な騎士を数人連れていくだけだった。ナユタや騎士達も平民の服を着て、皇子を護衛した。精鋭騎士2人は馬に乗り、ラエルとナユタが乗る馬車を護衛した。


「見習いの私が馬車に乗って良いのですか?」

「当たり前だが、馬車の外の方が重要な任務だ。ベテラン騎士に任せた方が良い。これはナユタ卿に限った話ではないから、遠慮しなくて良い」

「は、はい、承知しました」


 ナユタは、狭い馬車で殿下と二人きりという事実に顔を赤らめた。


「よく町には視察で出られるのですか?」


 沈黙が耐えきれず、ナユタはラエルに質問した。


「直接自分自身で市民の暮らしに触れ、内情を知らなくてはならない。貴族達の報告だけでは、虚勢を張っている場合もある。

 こうして、領地をまわり、抜き打ちで視察している。こうした視察のおかげで、暴動の火種をみつけたり、貴族の不正な税の取立も発見したことがある。大事な任務だよ」


 ラエルは瞳を輝かせて、外の景色を眺めながら応えた。ナユタは皇子が仕事をしている時の眩しい顔が好きだった。

市民からは、最近税金が下がって、少し楽になったとか、毛布の支給もあり助かったと、明るい雰囲気になっていた。

今の陛下は国民の目線に立ってくれるので、皆口々に誉め称えた。

 その代わり、貴族の反抗が少なからずあった 。 自分達の利益を国民に還元しているからだ。その不満が貴族第一の政策を推奨する皇后との癒着に発展していた。

社会情勢を憂い、ラエルが暗い表情をしていると、ナユタが突然襟元を掴んだ。


「え? えぇ? 何?」


 ラエルが戸惑っていると、彼女は皇子の首元をきつく絞めている第一ボタンを外した。


「殿下、平民に変装するなら、もっと着崩さなくてはなりません」


 そう言って、短いネクタイを引っ張って首周りをゆるくした。髪も手でグシャグシャにされた後、軽く手櫛で整えた。


「これで、町で遊んでいる青年に見えますよ」


 ナユタは輝く笑顔で、ラエルに得意気に言いはなった。ラエルは馬車の外を楽しそうに眺める彼女の横顔を見つめながら、心臓が跳ねる音を静めようと、胸に手をあてて、懸命に平静を装った。






 ラエルの市内視察一行は、地元のレストランに入った。席が少し離れて二つずつしか空いてないので、そこに二人ずつ座る。ナユタは、皇子と強引に一緒に座った。


「デートみたいですね」


 ナユタが顔を赤くして、顔を両手で覆いながらつぶやいた。


「全く違う」


 皇子は照れたのか無愛想に即答した。

(はー、乙女の夢を壊すのよね……)

 ナユタはふと皇子の顔を見つめた。

(神々の作品よ……まぶしくて目がつぶれそう……神様ありがとう)

 皇子は真っ赤になって、

「お前なぁ……声に出ているぞ」

 と、つっこみを入れた。


 2人の元に食事が運ばれてきた。

「見たことない食材が入ってるな」

 店のウェイターにたずねると、西帝国から輸入された食材だと言う。ジャガイモに似ているが、少し甘かった。

最近は情勢が落ち着いているから、貿易も活気があるな……皇子はそんなことを考えていた。ナユタはそんな皇子に視線を向ける。


(はぁ……仕事している殿下……)


 ナユタの回りには、花がまっていた。


 次の瞬間、彼女は急に背後に緊張が走った。テーブルの上に置かれたラエル皇子の手を握り、目配せをする。仲間にも耳打ちをし、店主に料金を払い、裏口に案内してもらって、こっそり店を出た。


(誰……? 数人の殺気が近づいてくる! )







 数分後、その店に団体で数名の強面の男性客が入ってきた。客を一人一人顔を覗き込んで、物色している。


「いないなぁ……」


その内の一人が、店主にたずねた。


「おやじ、男3人女1人の4人組来なかったか? 男は金髪と茶髪2人、女はピンクの髪」

「……それでしたら、さっき裏口から出ていきましたよ」


 顔に傷があるリーダーっぽい強面(こわもて)が叫んだ!


「やられたっっ! 裏から逃げたぞっっ! 追えっ!」







 皇子とナユタ、騎士2人は店から走りながら、離れていた。

「ナユタ、助かったよ! よく刺客が迫ってるのがわかったね」

「まあ、野生の勘ですね」


(逆にあんな近くの殺気がわからないのか……人間は不便すぎるわ)


「っっ!!」


 この先にも待ち伏せされている気がした。挟み撃ちなら、避けようがない。今回は、殺気と恐怖が感じ取れた。


 ーー次は逃げることができない状況かも……

 翼がないから、挟み撃ちに合っちゃう!

 もう、本当に人間って不便!! ーー



「そこまでだな」


 前から、大男と子供を人質に取った刺客が現れた。後ろからは先ほど店で巻いた刺客も追い付いた。ラエル達4人は10人の刺客に取り囲まれた。


「きゃああーー!」

「危ないっ!」

「逃げろ逃げろっ!」


 市民広場なので、大勢の市民が叫びながら、逃げ惑い、大混乱に陥った。刺客の1人は大きな声で泣いている3歳くらいの男の子を人質に取っていた。母親が泣きながら、子供の名前を叫んだ。


「マオ、マオ!!……どうか離してください!」

「ママ、た、助けて……助けてっ!」


 首をつかまれ剣先を向けられていた。


「なあ、かわいそうだなぁ? かわいそうだろ?」


 男の子の頬に刺客がキスをしながら、皇子を一瞥(いちべつ)し、にたりと笑った。


「この国の皇子様は、きっときっと君を助けてくれるよ。 正義の味方だからね」

「さあ、皇子と騎士の皆様、剣を捨ててもらいましょうか」


 皇子と騎士2人は顔を見合わせた。


「剣を捨てたら、その子は離すんだな?」

「お、皇子……平民の子のために、まさか剣を……?」


 騎士が目を見開いて、皇子を凝視した。

 取り巻いている平民全員が耳を疑った。

 静寂がその場を包み込む。

 その瞬間!


「さあ、さっさと剣を……えぇ?」


 刺客の男の子を抱えてるはずの腕が軽くなった。


「はい、 もうママから離れちゃダメだよ」


 ナユタが男の子を抱っこして、母親に渡した。あまりにも光速の救出劇に、敵も味方も呆気に取られた。子供を奪われた刺客は、羞恥で顔を徐々に高揚させて命令した。


「やっちまえ!! こっちは倍以上の人数いるんだ!」


 10人が一斉に4人に襲いかかった。


「お嬢さん、お前の相手は俺だ!」


 2メートルはゆうに超える怪獣みたいな大男が、ナユタを捕らえようとする!ナユタは俊敏に攻撃をかわす。


(殿下は3人相手でも大丈夫、 心配なのは、味方の騎士2人……! )

 

 

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