表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/67

16.皇子様の専属騎士

 盛大に騎士選定大会が開かれた。

貴族達が観客として招待され、競技場も国内一の広さを誇っている国立競技場だ。一年に一度のこの大会は、皇室の専属騎士を主に選定する。

今年は皇子2人の専属騎士を1名ずつ、上位2名が選ばれる。3位~10位は、皇室騎士団に配属される予定だ。


 初戦でナユタは同じ女性騎士ペリカと対戦した。ナユタの体の2倍はある重量級の騎士である。ペリカはナユタに覆い被さるように攻撃したが、するりとかわして、相手の背後を取り首筋に剣を当てた。あっという間に勝敗が決まり、会場の観客がどっと沸いた。

 キリアンも圧倒的な強さで、決勝戦まで二人は順調に勝ち進む。

 皇家全員で大会を見守る中、やはり皇后とへヴァン皇子は、ラエル皇子と目も合わせなかった。


「決勝戦は兄妹対決だな」「前代未聞だよ」「まず女性騎士が希少だからな」


 観客は口々にシュバルツ家の兄妹対決に期待を寄せる。

 大歓声の中、決勝戦でキリアンとナユタは対峙した。この時点で皇子二人の専属騎士に叙任することは確定しているが、ナユタにとっては、二位にならなければ意味がない。


「手加減は無用です、お兄様」

「当たり前だろう。妹に負けるわけにはいかない」


 審判の号令と共に試合が始まり、観客が歓声を上げた。最初にキリアンがナユタに剣を振りかざす。ナユタはその攻撃を跳んでかわした後、キリアンに襲いかかった。その一連の動きに観客からどよめきが起きる。一進一退の攻撃が続き、長い試合となった。キリアンはナユタが一瞬体勢を崩したのを見逃さず、彼女の手から剣を弾き飛ばした。


 カシャーーンッ!


 音を立てて、ナユタの剣は地上に落ちて回転して止まる。一瞬、観客も息を飲んだが、キリアンの勝利を理解し、どよめきが起こった。

 ナユタは、参りました、と敗北を認め悔しそうにしていた。キリアンは剣を拾うフリをして、こそこそとナユタに耳打ちで質問した。


「お前、わざと負けただろう? 騎士の誇りはないのか?」

「お兄様がお強いのですよ」


 ナユタはにっこり微笑んで答えた。大会後、聴衆の前で騎士達の叙任式が行われた。

 優勝者のキリアンは、へヴァン第一皇子の前に跪き、皇子がキリアンの肩に剣を置いて、専属騎士に任命した。その後、ナユタもラエル第2皇子に同様の儀式を行った。ナユタは感慨深く、目の前に立つラエル皇子を見つめた。


 この瞬間のために、人間になったのだと。


 幼い頃の夢がかなった瞬間を、ナユタは噛み締めていた。ニタニタ笑いながら、儀式を進めるナユタを見て、父レオンとキリアンは呆気に取られていた。


「あいつは何も変わりそうにないな……」


 キリアンはつぶやいた。ただ、終始ラエルは複雑な表情をしていた。







 夜、いつも通りリリィとお茶をしていると、ラエルは思わずリリィに告げた。


「ナユタが僕の専属騎士になったが、彼女とはずっと今のままの関係でいたかった。これからは主従関係が鮮明になる。一緒に戦争にも参戦するだろう。もう僕のために誰も命を失ってほしくない」


 ラエルは、自身の専属騎士の運命に不安を抱く。しかし、リリィは皇子の話に一生懸命ピィピィと反論する。


『私は皇子がいなかったら、存在しなかったのに』


 そうは言っても、鳥の姿では皇子に伝わらなかった。


 ーーしかし、どうして人間は全ての責任を背負おうとするのだろう。上から見下ろせば、さまざまな生物の死を目にする。肉食動物に襲われ食される草食動物、陸にうちあげられ息絶えた魚の群れ、クモの巣にかかった蝶……きりがない。人間だって死は避けられないのに。人災や事件以外で、そんな摂理が誰かの責任であるはずがない。自分を追い詰める必要はないーー


 リリィは皇子に寄り添うように肩にのった。







 週末、ナユタは義理ではあるが母のナーシャ夫人の肖像画の前にいた。


 ーー義理の母親だけど……私も……あなたに想いを馳せる時が来るのだろうか。その時、 私は何か変わるのだろうかーー


 ナユタはナーシャ夫人の肖像画の前で、しばらく立ちつくしていた。

 明日からは、本格的にラエル皇子の専属見習い騎士としての生活が始まる。


(ラエル殿下専属……)


 ナユタは肖像画の前の廊下で、一人ニヤニヤしていた。目撃したメイド達が、少しひきながら様子を見守っていた。


「お嬢様ってたまにあの笑い方されるわよね」

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ