12.不吉第二皇子の不吉な事件
ナユタは、夜はリリィになって、皇子を訪ね続けていた。ある夜、就寝前のルーティンとなっている小さなお茶会をして、ラエルはベッドに入った。すやすやとラエルが寝て1時間ほど経ってから、テーブル横に置いた止まり木につかまっているリリィも、目をつぶり寝る体制に入った。
すると、窓の外からかすかに音がした。壁を叩くような音。たぶん人間には聞こえないのだろう。リリィは窓辺に移動した。上を見ると壁づたいに、ロープを使って人間が降りてきているのが視界に入った。
(何あれ……全身黒ずくめの服着てる人間が、この部屋を目指して近づいてくる。武器も何種類か携帯してる、これはっ! )
ついに窓が開けられ、刺客が中に飛び込んできた。すると、リリィがくちばしで刺客の目のあたりを何度も攻撃した。
『お前、なんなの! 皇子様に何をしようというの?』
「痛い痛い痛い! なんだ、この鳥!」
刺客は短剣を振り回した。ラエルはこの騒ぎに目を覚まし、飛び起きて部屋の隅に身を寄せ、ガタガタと震えている。リリィはラエルの怯えた姿を見て、刺客への殺意が増す。刺客はラエルを見つけ、短剣を振りかざした。
「殿下!ご覚悟を!」
ラエルは思わず両手を頭の上で交差し、防御の体勢をとった。その瞬間、リリィは激しく羽をバタつかせ、刺客の視界を遮り続けながら、ピィピィ鳴いて仲間を呼ぶ。すると、窓から大量のモモイロノトリが鳴きながら、飛び込んできた。三十羽はいる。
ピィビィピィピィーーーッ! ピィピィ!!
「殿下、何の騒ぎですか?」
人間の護衛はやっと異変に気付き、部屋の扉を乱暴に開けた。皇子は恐怖で声も出ず、涙をためて震えている。
「ちっ!!」
全身黒づくめの男は舌打ちをし、窓から逃走しようとしたが、大量のモモイロノトリに攻撃され、飛び出す体勢を崩した。
「逃がすか!」
護衛は刺客の足を狙い短剣を投げつけたが、そのまま窓から脱走した。この高さから飛び降りて無傷なのか、そのまま闇に消えた。
(そういえば、何故今日は部屋の窓が開いていたの? いつもは閉めているのに)
リリィは事件があったこの部屋に集まった人達の顔を凝視した。
(裏切者がいるような気がする……)
モヤモヤした気持ちでいたら、侍女アリサがラエルを気づかって、他の部屋に案内した。
「今日はあの部屋は調査が入りますから、ここで休んでください。リリィも一緒ですから、安心して下さい」
アリサは空いている部屋にラエルとリリィを通した。しばらくは護衛騎士も部屋内で、側で見守ってくれるようだ。ラエルは、客室のベッドにもぐって、リリィに話しかける。
「リリィ……カッコ良かったよ。リリィに助けられたね」
枕元でリリィは、ラエルに頭をなでられた。リリィは照れて、羽で顔を隠した。その仕草で、ラエルも少し緊張がとけて、目を再び閉じた。なかなか眠れないのだろう。何度も寝返りをうっている。護衛は何人か交代でラエルを見守ってくれていた。リリィは凝視し、一人一人確認する。
(この護衛も悪意はなさそうだわ)
やっと寝息をたてた皇子の側で、リリィも休息をとるのだった。