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11.皇后と第一皇子

「ずいぶん賑やかね」


 その声を聞いて、その場にいた全員が凍りついた。

 アリシア皇后とへヴァン第一皇子が供を引き連れて、園庭を散策している途中に、シュバルツ侯爵達を目にしたようだった。


「母上、ごぶさたしております」

「偶然通りがかっただけよ。あなたに出会ってしまって、私まで不吉になりそうだわ」


 皇后はラエル皇子に冷たく言いはなった。


(はぁ? 何、このおばさん ! 皇后だっけ? 美人でも性格悪すぎるわ! しかし、ここで反論できないのが人間の世界……)


 ナユタは悪態をつきそうになったが、なんとか人間らしく「我慢」した。

 続けて、シュバルツ侯爵レオンが口を開いた

「皇后陛下に御挨拶いたします」

「シュバルツ侯爵、 こちらの令嬢は?」

「はい 、私の娘のナユタでございます」

「この子が噂の……」

 皇后も風の噂で耳にしていた。シュバルツ侯爵が亡き妻ナーシャ夫人そっくりの幼い娘を養女にした、と……。想像以上にそっくりで、皇后は動揺した。


(全くの他人がこんなに似るものなの? )


 父譲りのシュバルツ家特有の淡い緑の瞳ももっている。


(どういうこと? 完全にシュバルツ家直系の娘みたいじゃない)


 シュバルツ家に直系の娘が存在するとなれば、皇族や貴族の勢力図にも影響する。


(いや……そんなはずは……)


 そんなに侯爵夫人似ている子供が帝国内に長年いれば、孤児だろうが噂になる。東帝国に急に現れた少女……。

「ナユタ、御挨拶なさい」

「皇后陛下、へヴァン殿下、初めてお目にかかります。ナユタ フォン シュバルツと申します」

 ナユタは令嬢らしく覚えたての淑女の礼をぎこちなく披露した。少女は皇后を取り巻く黒い陰影を凝視した。


「シュバルツ侯爵、彼女はナーシャ夫人にそっくりね」


 レオンは、皇后が一番知りたい事実を先に口にした。


「彼女の体にはシュバルツ家の紋章はありませんよ」


 皇后は目を見開き、彼にしどろもどろ応えた。

「ま、まあ、私は別に夫人に似ていると言っただけですわ 」

 皇后は一息ついて、つぶやいた。

「ラエルだって、立場は似たようなものですしね」

 皇后はラエルを一瞥した。ラエルは傷ついた目をして、うつむいた。シュバルツ侯爵レオンが慌ててラエルを擁護しようとしたその時。


「母上、世界には血の繋がりがなくても3人は同じ顔が存在すると言いますよ」


 へヴァン第一皇子が突然割って入ってきた。


「ラエルは僕のたった一人の弟です。それに彼は『養子』ではありません。 皇帝の血を引く正統な皇位継承者の一人です」

「兄上……」

 へヴァンは無表情で、皇后である母に言いきった。ラエルをかばったように見えたが、彼は淡々と自分達の予定を告げた。

「それでは陛下と食事を予定してますので、失礼します」

 皇后と第一皇子とその護衛達は、皇帝陛下が待つ皇居へ去っていった。ラエルは自分以外の皇族三人で会って過ごす時間を設けていることに、ショックを受けていた。


(僕は……側妃の子だからか……)


 レオンは、ラエル皇子に目線を合わせ、しゃがんで話しかけた。

「いいですか? ラエル殿下、 あなたには味方がたくさんいます 。私、キリアン、ナユタ……一人ではありません。 決してご自分を卑下なさいませぬよう健やかにお過ごしください」

 ラエルは拳を握りしめて、表情を変えまいと耐えていた。ナユタはラエルの手を取った。

「一緒に遊びましょうっっ! 私達子供は美味しいものを食べて走れば良いのですっ! 今からおやつをいただきましょうっ ! お兄様、おやつもらってきて」

「なぜ僕が……」

「皇子様のメンタルケアも騎士の役目よ!  ほら殿下、行きましょう!」

 ナユタは無意識にラエルの手を引っ張って、メイド達の元に向かった。

「おやついただけますか?」

「承りました 。園庭のテーブルでお待ち下さい」

 メイド達はかわいらしい主人達に微笑んで、支度をしに下がった。

「皇子様は甘いものお好きですか? 何が好きですか?」

「マドレーヌ……」

「食事は何が好きですか?」

「肉が……」

 矢継早にナユタに質問され、皇子は引き気味になっていた。

「ラエル殿下がお困りになってるだろ!」

 キリアンがナユタに忠告した。

「私はただ将来のご主人様の情報収集をしているだけです!」

 また二人で口論が始まり、父レオンは賑やかで子供らしい光景をあたたかく見守っていた。ラエル皇子は、少なくともナユタに興味を持たれていると意識すると、顔が熱くなった。

「不吉な第二皇子」と揶揄(やゆ)され、人から距離をおかれていると感じている皇子が、ナユタの行動に自然と笑顔になっていた。

 レオンは3人を眺めながら、先ほどの皇后と第一皇子の殺伐とした雰囲気が一掃され、内心安堵していた。

(子供はこうでなくては……)

 賑やかな小さな三人を見つめて、微笑んでいた。この日、キリアンはナユタがラエル皇子に甘い感情を抱いているのでは……と幼いながらも感づいていた。ナユタはナユタで、はしゃぎながらも皇后について奇妙な点を見つけ、疑問がわいていた。


(皇后の後ろにわずかだけど、一瞬黒い影が見えた……あれは? 以前、食堂では気づかなかった。 皇帝陛下やへヴァン第一皇子は気づいてないのかなぁ……人間だし気づいてないか)


 ナユタは、とにかくラエル第二皇子が元気であれば良いと願うだけだった。

 

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