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鳥囲まれた不吉第二皇子 ~あなたの側にいれるなら、鳥でもネズミでも騎士でも皇太子妃でも、なんでもいいです~  作者: 夢野少尉


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10.あなたに会う夢

 とうとう、夢にまで見た今日という日がやってきた。

やっとナユタ……人間としてラエル第二皇子に会える日!

 本日、父のシュバルツ侯爵レオンが皇居で皇帝陛下と謁見する!

 あまりにもナユタがラエル第二皇子との面会を要求するので、父のレオンに直接紹介してもらえることになった。

 毎晩、ナユタはリリィ(小鳥)としては会ってるけど、ナユタ(人間)としては初めて会うので、数日前から緊張していた。


 いよいよこの姿で皇子様に会える!

 このために半年間努力したんだ。

 ちゃんと人間としての教育の成果を出さなきゃ……

 かわいい9歳の貴族令嬢に見えるかしら?






※ ※ ※


 一方、ラエル第二皇子は庭園の木の下で座り、皇族で自分以外の3人……皇帝、皇后、第一皇子が頻繁(ひんぱん)に集まっているという噂を聞いて、意気消沈していた。

 皇居では孤独であることを痛感し、空を見上げて、鳥を眺めていた。


(僕には味方がリリィしかいないな……)


 すると、上から葉っぱが一枚ヒラヒラと落ちてきて、思わず頭上の大木を見上げる。

 そこには大きな枝に座った少女がいた。皇子にはその少女に羽が生えているように見えた。


「……天使?」


 あまりに高い枝に座っていて、日光がまぶしく、下から表情までは見えなかった。

 その少女は、3メートル以上はある高さから、ひらりと飛び降りた。


「危ないっっ」


 皇子はびっくりしたが、まるで翼があるかのように、ゆったりと足から降り立った。

 皇子はその少女を見て、目を見開いた。


(……シュバルツ侯爵夫人……ナーシャ様? )


「殿下、 ここにいたんですね! 探しましたよ」

「え?」


(すごく親しげな口調なんだけど……会ったことないよね? )


 皇子はあせりながら、ぺらぺら喋る少女に圧倒された。


「今日、元気がありませんね? 私がいつも通り、話を聞きますから! どうぞ話して下さい。」


 その時、皇子は少女の背後にまわり、後ろから手で思わず少女の口をふさいだ。

 少女は真っ赤になって、その体制のまま視線を皇子に向けた。


(皇子様の手が私の口にっ! )


「君は不敬罪で捕まりたいの? 幼くってもむやみやたらに皇族の話をしちゃダメだよ! あと敬語忘れてる!」

 と、心配そうに皇子に耳元で警告された。


(あ、そうか! 今、私は人間に変化してて、しかも初対面という設定……)


 ナユタは毎日夜にリリィとして、皇子に会っているから、あまりにも馴れ馴れしくしてしまった。


「し、失礼しました」


 ナユタは皇子から離れた。頭を下げて、ワンピースの裾を持ち上げ、淑女の礼をした。


「私はナユタ フォン シュバルツです。 第二皇子ラエル様に御挨拶申し上げます」

「シュバルツ……」


 皇子は、この少女が、シュバルツ侯爵が孤児院から養女として引き取ったという噂の少女だと気づいた。しかし、血はつながっていないはずの少女は、あまりにもシュバルツ侯爵夫人そのものだった。


(……どういうことだ? 遠い親戚だとか? )


「ナユタ令嬢、 シュバルツ侯爵とはぐれたの?」

「は、はい!」

「一人では皇居は広すぎる 。私が一緒に行くよ。 きっと皆探してると思う。はぐれないようにお手をどうぞ 、 シュバルツ侯爵令嬢」


 ラエル皇子は頬を赤く染めながらも、ナユタの目をまっすぐ見ながら、手を差し出した。

 ナユタは硬直しながらも、皇子の手をとった。

 ナユタは、人間として皇子と「手をつなぐ」という夢にまで見た行為に、心臓がうるさく騒ぎ出した。






 皇居の広大な園庭では、シュバルツ侯爵レオンとキリアン、付き添いの騎士やメイド達が、ナユタを探していた。


「小さなレディが園庭の奥で迷われてましたよ」


 ラエルが背中越しにレオンに声をかけた。

 その言葉を聞いて、ナユタは心の中で皇子に反論した。


( 皇子様に会いたかっただけなんだけど……毎日来てるんだから、迷うわけないじゃない )


 レオンは、ラエルに手を引かれている娘を見つけて、安堵(あんど)の表情に変わった。


「これは……ラエル殿下に御挨拶申し上げます。娘のナユタが失礼いたしました。こちらから殿下に娘をご紹介する予定でしたのに」

「お父様 ごめんなさい」


 謝罪はしたが、ナユタは心では全く反省していなかった。


( はー、人間の子供は一人で行動できないとか不便すぎるわ )


「ここは皇居だから、あまりにも広いし遠くへ行ってはいけないよ」


 レオンは、娘ナユタと目線を合わせるためにしゃがんで、ため息をついた。


「皆に心配かけたらダメだろ! 僕のそばにいれば、こんなことには……」


 ぶつぶつ小言を言うキリアンに、ナユタは反論した。


「お兄様のお世話にはなりません」

「これだよ! 母上に似ても似つかない……とにかくまだ一人で行動しちゃダメだ!」


 レオンは、目の前で兄妹喧嘩が繰り広げられて、呆気に取られていた。

 その様子をラエルは眺めていてた。


 心配してくれる父親、口喧嘩をする兄妹……。


 ラエルは悲しそうにシュバルツ家の3人をみつめていた。

 ナユタはその視線に気付き、皇子の元に駆け寄った。


「私は皇子の専属騎士になるのが夢です! 生涯お守りいたします」


 それを皆の前で公表すると、一瞬場の空気が止まった。

 それから、どっと笑いが起こった。


「これはまた大きく出たなー」


 父のレオンが、笑いながらナユタの頭をなでた。


「ナユタは騎士には向いていないよ、諦めるんだな」


兄のキリアンは、そう言って吐き捨てた。


「お兄様より瞬発力と跳躍力ははるかに上ですけど?」

 ナユタは、兄のセリフに応戦する。


 ラエルはそこで思わず吹き出した。


「あのキリアンが妹にかなわないみたいだな」


 ナユタは皇子が笑ってくれたことが、嬉しくて顔が真っ赤になる。

 レオンもラエル皇子の笑顔を、久しぶりに目にして微笑んだ。

 キリアンは一人不機嫌になり、ぶつぶつ不平をもらしていた。

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