絶対絶命の種
世界の終わりそれは突如として起こり、事実としてあったこと。それは誰もが望まないがある世界。
人間は淘汰により世界を去るーー。
人間が生み出した小さな人工太陽は、星の癌。
星もまた一つの命。あらゆる術を使い己の命を延命しようと懸命であった。
それは選択と可能性。人間が用いたその技術でさえも紙一重の選択。数多ある害悪ある世界の中でこの星は生きる事を許された。
しかし、それこそは人間の世の終わり。
だが、さる運命こそは人間の滅びではなく生きる者の物語の続きなのだーー。
低く唸る金属音が二人の直ぐ側で鳴り響く中、錆びついたロボの巨眼が兎人をとらえる。
「セキ、ュリィ。セ、キュリティ。野生、生生物を、け、けけ知。除。は排、除。」
「ヤバい!ミカエル!」
ラファエルは咄嗟にミカエルに覆いかぶさったと同時に、過去にも同様な経験があった事を走馬灯のように思い出すーー。
あれはまだラファエル達が奴隷から解放される前、奴隷キャラバンの先遣として派遣されていた時のことであった。
兎人は聴力の強さと警戒心の強さ故に、とても危険なエリアへの派遣を強要されることが多かった。
当時、8歳であったラファエルは母と共に今回とは別エリアの特級危険エリアの廃墟を探索していた。
「この先、ビーストの気配はありません…!」ラファエルの母、ユミルはキャラバン隊に向けて周囲を警戒しながら囁く。
その言葉にキャラバン隊はゆっくりと前進した。
「お母さん…?」
ラファエルはいち早く異変に気付いていたが、その小さな言葉は誰にも届くことはなかった。
ふぉーーん。
聞き覚えのない高音。
そこには、本来警戒するべきものとは違った敵が斜め上空にギョロりと赤い光を照らす。
赤い目が更に強くビカッと光る。
ラファエルは立ち尽くすしかなかった。突然視界は暗く途切れ、右耳と左目に激痛が走った。
かろうじて開いた赤く染まる右の視界。
ラファエルの母、ユミルは巨大なロボットからの光線により左肩口から右脇後にかけて大きく抉られていた。
「お、かぁさん?…。」
「お…、いで、…ラファ。ミ…エルを、お願い。私の可愛いラ…ふ」
命を振り絞って声を出し、力の限りラファエルの頭を抱きユミルは息を引き取った。
ーーある日の惨劇と懐かしい母の面影を脳裏に再生させたラファエルは少し甘く緩んでいた。
「…さん!ーさん?兄さん!!」
弟に大きく揺さぶられはっと気を取り戻すラファエル。ミカエルの背後にはどんどんと影が大きくなっているのが確認できた。
「うーん。ここは?ってそうか…!」どうやら回避の際に頭をぶつけ気を失っていたらしい。
「これじゃ、あべこべだよな。お母さん。今度は僕が命をかけて守らなくちゃいけないのに!!」そう言うとラファエルは拳を握り額の血を腕で拭った。
ミカエルはそんな兄を肩で支えようとしたが、ラファエルは彼の肩をぐっと払いのけた。
「逃げろ、ミカ。絶対に振り向くな、何があっても絶対だ!」
ラファエルはそう言うと対峙したロボットに拳を突き上げるのであった。