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変わらぬ世界始まり

兎人(とびと)の幼獣ミカエルとラファエルがロボと出会う。

地球と呼ばれるこの惑星。


そこには人間という種族が居た。


しかし、今それを知って居るのは"人間"では無い。


人間の世の終わり。


それは単なる星の代謝である。


アトランティス、マヤ、エジプトのピラミッド。全て謎と思われていた文明の消失。


それは、星の防衛本能が起こした結果。


幾度も度重ねた人間の横暴。


そして人間は遂にオーバーテクノロジーにより、人工太陽にまで手を伸ばすようになり、故に"星"は諦め人間を他の低知能生命体と強制的に掛け合わせるという知能の平均化と生命体としての淘汰を行った…。


人間は星の意思により舞台を去ったが、その面影は建築物や遺留品として世界に残っていた。


そしてそれらは後の後継者達にとっての謎のお宝として求められるのであったーー。




「兄さん!あったよ!ほら!クルクルする奴!」


ドロドロに塗れているけれど白い毛並みに一尺程の長い耳をひょこひょこと嬉しそうに跳ね上げながらボロボロの扇風機の羽を頭の上に掲げている彼はミカエル。ヒト年齢で8歳の兎人(とびと)の男の子だ。


「お!でかしたミカ!こんなに綺麗なやつなら高く売れるぞ!今日は久々に萎びてないレタスが食べられるかもなぁ!」


ミカエルの呼びかけに飛び上がってはしゃぐこの男の子はミカエルの兄、ラファエル。茶色の毛並みで右目の隻眼で右耳がいつでも半分ペタンとなっているのが特徴。人年齢は13歳だ。


二人の兎人の兄弟は、いつものように廃墟の中を駆け回っていた。ここは「旧世界」と呼ばれるエリアの一つで、かつてヒトが築いた巨大都市の名残だった。風が吹き抜けると、高層ビルの残骸が軋む音が響く。瓦礫と砂に埋もれた街には、かつての人類の痕跡が無数に眠っている。


ミカエルが手に入れた扇風機の羽を丁寧に布で拭きながら、兄のラファエルは微笑む。


「こんなに不思議な物ならライドットおじさんに持っていけば、きっと良い物と交換してくれるさ。」


「レタスだけじゃなくて、甘いニンジンもあるかな?」ミカエルが目を輝かせる。


ラファエルは笑って肩をすくめた。


「それはおじさんの気分次第だな。でも、僕たちにとってはこれだって立派なお宝だ。」


しかしその時、遠くから微かな音が聞こえてきた。カチ、カチ、カチ、と規則的な金属音だ。ミカエルは耳をピンと立て、首をかしげる。


「兄さん、聞こえる?なんか近づいてきてる気がする。」


ラファエルも耳を澄ませる。確かに、その音は次第に大きくなり、近づいてくるようだった。そして同時に、空気が妙に冷たくなった。


「隠れるぞ、ミカ。」


ラファエルはそう言うと、近くの瓦礫の影に身を潜めた。ミカエルも慌ててその後を追う。


音の正体が現れたのは、それから数秒後だった。廃墟の向こうから、背の高い機械のような影がゆっくりと現れる。錆びた鉄でできたその姿は、どこか昔のヒトが作ったロボットのようだったが、目にあたる部分にはぼんやりと赤く光が灯っていた。


「なんだあれ……」


ミカエルが小声でつぶやく。


ラファエルはミカエルの頭を低くするように制止し、さらに低く囁く。


「あれは…。ミカ、絶対にアレに近づくんじゃないぞ。」


ラファエルは憎悪と恐怖によって眉間をひそませながらミカエルを抱き寄せた。


「いっ!痛いよ兄さん!」


ミカエルはいつもは優しいはずの兄の形相とあまりにも強い抱擁に声を上げた。


「しっ!」


ラファエルはミカエルの口に手を当てて声が漏れるのを更に強く制した。


ロボットはゆっくりと歩き、廃墟の間を動き回る。その動きはどこか目的を持っているようで、不意に止まると、地面を舐めるように視線を這わせた。そして、突然低く唸るような音が響いた。


その音は、兄弟の隠れている瓦礫のすぐそばから発せられていた。ラファエルは歯を食いしばりながら、ミカエルをさらに奥へと押しやる。


「ミカ、じっとしてろ。」


しかし、ミカエルは兄の手を掴み返した。その瞳には恐怖と同時に、不思議な決意のようなものが宿っていた。

「まって、兄さん、あれ……僕たちを探してるんじゃないよ。」


ラファエルが驚いてミカエルを見たその瞬間、ロボットの目が二人の隠れている瓦礫の方向にピタリと向いた――。




憎悪を抱くラファエルに対し、ミカエルは不思議な安心感を抱く。二人の間にある違和感の正体とは…?

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