ここはいせかい。
「鏡が無くて分からないけれど。私はいったいどこのご令嬢に転生したのかしら」
ぶつぶつとつぶやきながら、考え込むお嬢様。
「ねぇ。私に見覚えない?」
「ありません」
「ないです」
即座に首を振る二人に「そうなの……」と少し残念そうにするお嬢様。
「すみません。こんなところでお嬢様を目にする機会なんて、そうそうないもので」
「そうなの。そうよね。お嬢様だものね」
ムラノの言葉に納得したのか、頷くお嬢様。
「どこか、私みたいな人間が居そうな場所か、なにか分かりそうな場所はない?」
「ないです」
「えっ」
「ないです」
ちら、とムラノが横のおばあさんを見ると、おばあさんもうんうんと頷いている。
「ない?」
「はい」
「どうして」
「以西海ですので」
「異世界にはお嬢様が居ないの?」
「???? 居ますけど」
あなたとか。という目で見ると、『どこにいるの?』という感じで辺りを見回すお嬢様。
もしかして、世間知らずなのだろうか。お嬢様だけに。と思い直し、
「ここは以西海。漁業場ばかりの漁村近くですから」
「え?」と言うお嬢様に
「ここは、西の海と書いて、以西海です」
と教えてさしあげた。