【護麓 明影の日常。】
気温は燃え上がるように熱く。影が見えないほど眩しい日差しに包まれる外を。
エアコンの冷房が効いた豪華な部屋の中にある玉座に堂々と座って、窓から見下すように眺めるお化け――護麓 明影は。
「ふむ。今日も世界は平穏すぎて、つまらぬ。何か、我の興味を引く刺激的な事が起きないだろうか」
今日も何も無くマンネリした時間ばかりで退屈だと、愚痴を零していた。
――護麓 明影。
淡々としながらも何処か柔らかい中性的な声質に。少し薄い赤の体色と横に細長く目尻が垂れ下がり、まつげと暗く濃い赤い瞳が特徴的で。手は平らで少し薄く。腕はフレア状のひらひらとした鰭のようなものが下へと垂れ下がっている。服装は瞳の色よりも更に濃く暗く、ボルドーが混ざった赤い長袖のワンピースで裾先にかけてフレアのように少し広がったモノを身に着けており、左側の首元の少し下辺りには赤系統の翼が二つ、結ばれていない真っ直ぐに長く伸びたリボンが一つ、装飾として付けられている。性格は見て読んで分かる通り、傲慢というのが似合う傲岸不遜な性格をしていて。言動も高圧的かつ挑戦的なモノも多く、また相手や周囲をからかう事が好きという悪趣味な思考を持ち。加え、地位の高い貴族の家柄であるお坊ちゃまというのも相まって。傲慢というのが更に際立ち、悪役系というイメージがより先行してしまい、お世辞にも、いいお化けとは表せない。しかし本人は、そんなことは何一つ、気にしていないどころか、改めることは一切なく。今日のように、傲慢かつ見下した態度で日々を過ごしている。
「ああ、本当に退屈だ。こうなれば、あやつを呼ぶしかないな」
しかし、今日に関しては。流石に退屈過ぎたのか。手と腕を伸ばして、テーブルの上に置いていた携帯電話を手に取り、人間でいう耳に当てるように顔の右横に当てて、ある者へと電話をかける。
「我だ。ちょっと、暇を持て余してな。来てはくれぬか? いや、今すぐに来るがよい」
退屈しのぎに自分の元へ来いと、相手の返事も聞かずに告げて。
―――
電話してから、十分ほど経過した頃。
護麓 明影は不敵な笑みを浮かべて、目の前にいる相手との会話を楽しんでいた。
「やはり、汝を呼んで正解だったようだな」
「そうですか…。私はあまり正解とは思えませんけど……」
「ははっ。確かに、汝にとっては不正解かもしれぬなァ。退屈になると毎度、呼び出されては。 でも、致し方ないことであろう。汝…今は曖依だったか。曖依は、我の後輩なのだから」
目の前にいる相手、後輩の無闇 曖依との会話を。
無闇 曖依とは、今は無きカラフルモンスターワールドの歴史研究スクール時代からの先輩後輩関係であり、今も主に退屈しのぎに護麓 明影からの呼びかけで親交という名の腐れ縁が続いていて。今日もまた護麓 明影からの呼びかけで、無闇 曖依と退屈をしのんでいる。親交を深め合っている。と、護麓 明影は無闇 曖依の気持ちを知りながら、権力を思う存分に使いながら、悪戯の意味も込めて思っている。
「先輩の言う事を聞くのは。後輩の務め。いくら不満を感じようが、致し方ないこと」
「いや、致し方ないことじゃないですよ。それを言うならば、後輩の意見も聞き入れることが先輩の務めなのでは? 」
「ほう? 逆らうか。 随分と、生意気な後輩になったことだ」
「別に生意気になんかなってないですよ。今日は、貴方のお願いで。そう、演じるのを徹底しているだけです」
「ふむ。そうだっただろうか? まぁ、何にせよ。退屈しのぎになるほど面白くはあった。無礼を心から許そう」
「それは、それは、よかったです」
こうして、無闇 曖依と何の意味の無いくだらない会話をして退屈をしのいでいき。 護麓 明影は今日も傲慢に過ごしていった。
―――
午前五時六分。
起床し、護麓 明影の一日が始まる。
起床後、すぐに顔を洗い。スキンケア等で肌を整え。専用のドレッサーの前で化粧をしていき。使用人達の手は一切借りずに朝とお出かけ用の身支度を全て済ませ。万全の状態で、朝食を食べ飲む。
今日の朝食のメニューは甘い紅茶に。ふわふわのフレンチトースト。季節の野菜を多く使用した栄養満点のサラダ。ミディアムレアで焼いたステーキ。塩胡椒を少々振りかけたライスだ。
一品一品、丁寧に味わって完食すれば。すぐさま歯を磨き、午前八時半には今日やるべきことを始める。
午前十時。
今日やるべきことを全て完璧に終わらせ。特に用もないが、使用人達を置いて、外へと出かけて行く。
午前十時半。
カラフル不思議街に訪れ、出店に並んでいる品揃えを横目に見ながら。
今日は何をして退屈をしのごうかと考える。
後輩である無闇 曖依を呼ぶのは当然の事だが。
大抵の遊びは遊び尽くしてしまっており、やるのには新鮮味に欠けている。
何か普通ではない遊びをしたいところ。
そう、考えて。とある商品に目を付ける。
これならば、暫くの間は退屈しのぎになり、暇つぶしにもなると。
午前十一半。
目を付けた商品を買い、自宅へと帰り。
自室に入ってすぐさま、携帯電話を利用して、無闇 曖依へ午後一時半頃に来るようにと指示する。
午後十二時。
昼食を取る。
今日の昼食のメニューはオレンジの香りがする甘い紅茶に。苺とバニラアイスのクレープ。チャーハン。揚げ餃子だ。 ゆっくりと丁寧に味わいながら完食していく。
午後一時半。
無闇が到着し。カラフル不思議街で買った商品を使用して。早速、今日の退屈しのぎを始める。
今日の退屈しのぎは、買った商品である協力して敵を退治していき物語を進めていくアクションゲームをプレイすることだ。
協力がカギにとなるゲームなのだが、護麓 明影はゲームの中でも傲慢さを出し、自分勝手に動き回り、ゲーム性を破綻させていき。予期せぬバグを起こし、一時は攻略難易度が上がるなど大変な状況に陥る。 その際、無闇 曖依が機転と説得を利かしてなんとか、無事に最後までクリアすることができた。
午後五時。
退屈しのぎもでき、無闇 曖依も自宅へ帰り、夕食の時間を迎える。
今日の夕食は角砂糖を十個入れたとても甘いレモンティーに。半熟卵と粉チーズが乗っかったミートソースパスタ。ローストビーフのサラダだ。
午後六時。
夕食を済ました後は、朝と同じくすぐさま歯磨きをして、歯磨きも終われば、お風呂へと入り、寝るための身支度をし。 寝る前に少し、ベッドの上に腰掛ける形で難解な小説を黙読する。
午後八時。
小説も読み終わり、ベッドの上に静かに寝転び、模様がお洒落な毛布をゆっくりとかけて、就寝する。 特に何の夢も見ず、睡眠をしっかりと取って、朝を迎え。起床後、すぐに顔を洗いに行く――。
これが、護麓 明影の日常であり。基本的な一日の過ごし方だ。
好物である甘い紅茶関係はメニューに入って無くとも、一杯は必ず忘れずに飲むこと。 無闇 曖依で退屈しのぎや暇つぶしを行うことを決めている。 普段から周囲を振り回し、傲慢な言動や態度が目立つ護麓 明影だが。 自分らしく生きているという点では、憧れる者もおり、自分の言動や態度による大きな事件は起こしていない。 また傲慢であるからこそ、誰かを特別扱いすることは少なく。自分自身にヘイトを集めさせて、相手を護ることができるなど。自分の事ばかりを考えているわけではない。
「我は我らしく、その場を楽しんでいるだけだ。退屈ばかりのマンネリした日常は御免だからな」
不敵に笑い。煽るように告げて。自分の人生を誰よりも楽しむ努力を積み重ね、起こしていく。 堂々と自分に自信を持ち。堂々と前へと出て。周囲を自分の色に染めて助ける。それが、護麓 明影。
相手をからかう事が多いけれど、それは決して悪意ではない。
悪意だったら、護麓 明影は護る事や助けることはしないだろう。
悪意で接しているのならば、後輩である無闇 曖依のことを可愛がることも。事情を察知して協力もしないはずだ。 何より、退屈をしのぐ相手として。暇つぶしをする相手として、選ばない。
この先にどんな事があろうが。自分という存在を揺らぐことは決してしない。
どんなに邪魔をされたとしても、変えることなど。後ろを歩くことなど。選ばないのだ。
そうやって、明るくも影のある世界を生き抜き。
護麓 明影の日常が今日も始まっていく。明るく守って護り抜き。自身を貫き通し。影で相手を支えて。