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09_トラウマ

 優子さん(お姉さんは付けなくて良いと言われた)の料理を食べながら、翔太おじさんが義父さんについての話を僕に話してくれた。

僕は何が何だか分からず混乱した。

当然だと思う。

義父が犯罪者だったなんて。

そんな素振り、微塵も見せてなかった。

僕の事を考えて行動してくれてた。

結果として成果は無かったけど、それ以上に義父に感謝しかなかった。

人には表と裏がある。

決して見せたくない心の闇。

それを僕は知らなかった。

そんな混乱の最中も、由翔君は僕の傍にいてくれた。

ようやく落ち着き、頭で情報を受け入れる事が出来た状態だ。


「義父さんが犯罪者だったなんて……」


 そう呟かずにはいられなかった。

義父がまさか。

……いや、それだけじゃないかもしれない。

義父さんが犯罪を犯した動機は、安全地帯から人を地獄に叩き落している人物らへの制裁。

ネットで言う荒らしの駆除と変わり無い。

何が違うんだろうと言う疑問が全く無かった訳じゃなかった。

扉が開き、ビクッとする。


「玖芦君。落ち着いた?」


 ……僕は何を考えているんだ。

犯罪はあってはならない。

例えどんな理由があったとしても。


「うん……何とかね」

「僕は、そんな事どうでも良いって思ってるから」

「……え?」


 思わず聞き返してしまう。

思っても無かった事を言われたから。


「PCPの人達は、皆何かを抱えてるんだ。でも、そんな事はどうでも良いんだ。皆が犯罪を無くす為に動いてるんだ。イマの仕事にカコは関係無いよ」

「……僕の義父さんの話を聞いても、由翔君は何も思わないの?」

「何も思わない訳無いよ。でも、どうでも良いんだ」

「……ふふ。何それ」

「笑うなよー。犯罪はダメだけど、その事実が玖芦君に何か影響するなんて思わないよ。だから何も思わない訳無いけど、どうでも良いんだ」


 得意げに頷く由翔君。

要は義父さんの犯罪について思う所はあるけど、だからってその事実が僕と話すのに必要ではない。

と言う事だろう。

本当に8歳の子と話してるのか分からなくなる位に達観している由翔君。


「それに、玖芦君がしばらくここにいてくれるんだから、俺は嬉しいよ!」


 ……うん。

僕は曖昧に頷く。

おじさんが言ってた言葉が脳裏を過ぎる。


「私の事を理解できる、たった1人の子供である可能性と言う事ですよ」


 義父さんの言葉。

この意味が分からない。

僕は犯罪を無くせればって思ってる事は義父さんに伝えた。

それなのに?

……どう言う事だろう。

頭を振る。

一刻も早く義父さんが捕まる事を願う。

これ以上罪を重ねる前に。

僕自身も何かできないか。


「ねえ、由翔君」

「なに? 玖芦君」


 僕は由翔君に話してみる事にした。



 玖芦君に蒔世さんの事を話したと、翔太から電話で聞いた。

翔太は家からモニターすると言ってたから、あたしはPCP本部へ車を走らせる。

……犯罪を無くしたいのか、翔太を助けたいのか。

たまに分からなくなる。

犯罪者に関われない。

……いや、怖がってるんだろう。

再び拒絶されるのを。

華音ちゃんがいるとは言え、願えば華音ちゃんと一緒に交渉人の立場を受ける事だって出来た。

本来、あたしがやってる事は指示を出す役割の翔太がやるべき事。

要はあたしはいなくても同じ。

ため息をつく。

悪い癖だ。

またネガティブな思考に駆られる。

コール音にビクッとする。

楓さんからだ。


『由佳ちゃん。今こっちに向かっているかしら?』

「はい。何か進展ありました?」

『小川が落ち着いたから、話を聞いてきて頂けないかしら』

「……なるほど」

『状況が状況でしょう?』


 犯罪者に拒絶された事による恐怖が蘇る。

深呼吸する。

……華音ちゃんに行かせる訳にはいかない。

長い時間、どこかで分からなくなってた感情に結論を付ける為に。

恐怖の克服の為に。



 電話を切り、モニターに視線を向けながら、由佳ちゃんに悪い事をしている事を自覚する。

由佳ちゃんは以前の事件で、犯罪者と話をしようとして拒絶された事は翔太君から聞いた。

それ以来、自分から犯罪者に関わるような事はしていなかった。

巻き込まれる事はあっても、自分から関わる事は一切せず。

けれど、私が行った所で交渉には向かない。

企業間の会合ならまだしも、犯罪者との交渉は勝手が全くと言って良い程に違う。


『長く付き合えば付き合うほどに、全員が犯罪に関わる過去を背負ってるのが分かるな』


 榎田さんが音声通話で話しかけて来る。

犯罪を無くしたいなんて夢のような話。

それを本気で実現しようとするのはどう言う人物か。


『でも桜庭さん。あんただけそれっぽい過去を聞かないんだよな』

「……」

『無理に聞く気は無いけど、このPCPの創始者、だろ?』

「今は蒔世亮介を追うのが先よ」

『分かってますよ。CEO』


 無理矢理に会話を打ち切る。

……資産家令嬢として、見たくないような世界を見て来た。

企業に目を付けたのだって、無意識だけれど恐らくはそれが理由。

企業と言う概念をクリーンにする為。

けれどお金だけでは何も解決にならない事は、翔太君達と行動を共にして来て一目瞭然だ。

お金で犯罪は止められないし、ましてや解決も出来ない。

1億円あげるから犯罪を犯したかどうか自供してと言って、自供する人間はいないように。

……無駄な思考はもう止めるべきだ。

深呼吸し、モニターに再度集中する。

蒔世がどこに潜伏するだろうか。

考えられるのは下水道を利用して逃げる方法。

ここは倉田さんの指示で合捜班が既に包囲網が敷かれている。

扉が開く。


「もう良いのかしら? 華音ちゃん」

「一刻も早い事件解決が先です。CEO」


 華音ちゃんは席につき、モニターを見上げる。

……由佳ちゃんが素早く立ち直らせたらしい。

本当に彼女には驚かされる。

けれど、小川に会わせる訳にはいかない。

後は由佳ちゃん次第。

お願いと、心の中で呟く。



「なー爺。頼むよ!」

「お前なぁ……」


 由佳に断って仕事部屋を使おうと思ったら由翔と玖芦君に勝手に入って来られ、玖芦君の親を調べてくれと駄々をこねる由翔。

どうしたものかと思って今に至る。


「何で今のタイミングなんだよ」

「爺が言ってたじゃん。『私の事を理解できる、たった1人の子供である可能性と言う事ですよ』ってさ。それって玖芦君を引き取った後に何かが分かったって事じゃねーのかよ」

「お忙しいとは思いますが、関連性が無いとも思えないんです」

「だから玖芦君の親探しに協力したって考えれば納得できるだろ?」


 ……。

正確に言えば別の目的に親探しをカムフラージュした、だけど。

わざわざ俺に言う理由が理解できなかった。

そう言う意味では由翔達の意見も理解できなくはない。

この状況で別の捜査をする事は、少なくないリスクがある。

でも、蒔世さんの捜索は楓と華音ちゃん、健文もいるから何かあれば連絡が来るだろう。


「今日だけだ。それ以降の時間は割けないぞ」

「サンキュー爺!」

「こういう時位父さんなり呼んでみろ」

「あ、ありがとうございます!」


 ただ、駄々をこねながら言ってた由翔の話を聞いた限り、新聞に載ってるような事件に関わった人物ではなさそうだ。

そんな事件を調べるなんて出来るんだろうか。

……いや、違う。

玖芦君が生まれる前位の頃で情報規制が敷かれた事件は、主に秀介と久遠、黒の御使いが関わった事件だ。

他にあるかもしれないけど、まずは知ってる限りで調べてみる。

関わった事件で結婚してる人……までは流石に覚えてない。

過去の資料から探す。

成瀬夫妻……に子供がいる話は聞かない。

以前に楓が会いに行った時に聞いたらしいから、間違い無いだろう。

後は子供がいた話なんて……。

目に留まるある人物の名前。


 久遠正義。


 今の今まで忘れてたけど、あいつと初めて会った時、あいつは夫婦だった。

……子供がいたなんて話は久遠からは全く聞いてない。

玖芦君の年齢を考えれば、館華星との子供ではないだろう。

久遠詩鶴との間に子供がいた話も聞いてない。

他に夫婦だった容疑者がいたかを、資料を通して見て行く。

ただ、玖芦って名前に違和感がある。

玖芦。

黒。

つながりがあると思うのは考え過ぎだろうか。

自分の子供に黒と間違えられかねない名前をつけたがるだろうか。


「この久遠正義って奴が、二大事件の1つの主犯なんだろ?」

「この方が何か?」


 画面を覗き込んでくる由翔達に『何でもないよ』と言い、資料を漁る。

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