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05_逆行殺人

 ……ん。

あくびの後、大きく伸びをする。

あの後結局PCの前で寝落ちしそうになったから、後を桜庭さんと森田さん、合捜班の人達に任せて仮眠室で寝たんだっけ……。

シャワーを浴びながら考える。

由佳さんの情報を基に追跡を試みたけど、犯人の尻尾は掴めなかった。

ここまで映像を追って見つからないって事は。

私達の監視システムを意識して犯行に及んでるって考えた方が良い。

ネットで情報を公開はしてるけど、大半は街中にカメラがある程度にしか考えて無いだろう。

だけどそうじゃない。

屋根がついていない日本全域の動きを見る事が出来る。

カメラがたまたまついてなかったから犯人が映って無かったなんて事はありえない。

細かいマイナーチェンジはしてるけど、基本的には場所と時間さえ分かってしまえば、映像を追跡できるのがこのシステム最大の強み。


 それをいとも簡単にかいくぐるなんて事、このシステムの詳細を知らなきゃ出来る訳が無い。


 翔太さんがLINEで言ってた、黒の御使いのメンバーじゃないけど、それに限りなく近い何か……。

確かに黒の御使いって一括りで言ってるけど、その詳細を知ってるわけじゃない。

メンバー同士で何かあったのか。

翔太さんはその可能性を考えてるんだろう。

シャワー室を出て着替え、モニター室に戻ると、桜庭さんが寝ていた。

コーヒーの缶が辛うじて倒れてないのが奇跡だ。

合捜班の方は女性だから良いものの。

その、何だろう。

昔はもっと女性らしかったと言うか何と言うか。

でもこうやって寝てる所、そう言えば見た事あったなぁとか思い出しながら。


「CEO!」


 大きめに体を揺するとビクッとして起きる桜庭さん。

翔太さん達に休めと言いながら、正直この人が一番忙しい。


「あら、よく眠れたかしら? 華音ちゃん」

「ええ。CEO程じゃありませんけど」

「少し油断しただけよ」

「女としての身だしなみは忘れないで下さいね。そのままただのおばさんにならないで下さいCEO」

「ええありがとう。気を付けるわ」


 声と顔を引きつらせ、シャワー室へ消えていく桜庭さんをよそにモニターを見る。

次に起こるかもしれない殺人に備え、PCP本部周辺区域に対し、合捜班による監視が行われてる。

この状態を続ければ犯罪は起こらない。

だけど、消耗戦にもなる。

警視庁が黒の御使いに対して敷いた厳戒態勢に似てる。

こっちから何か解決の糸口を掴まないと。

今までの情報に何か無いか。

倉田さんからの電話でPCPは事件発覚を知った。

情報から犯人を映像で捕捉、その後行方が分からない。

PCP周辺に逃げた可能性があり、現在その周辺を監視中。

……うーん。

自分の行動に落ち度があっただろうか。


「有村さんの迅速な対応は、むしろ我々が見習わないといけないですよ……」


 合捜班の方から嬉しい回答を頂くけど、目的は事件の解決と予防。

何か無いだろうか。

情報が少ないとは思えない。

うーん……。


「殺人事件発覚の前に、小川の失踪の方が先に発覚したのではなかったかしら?」

「え?」

「華音ちゃんが倉田さんから連絡を貰う前に、私の元へ連絡が来た。その後よね?」


 ……もし同じ犯人だとすれば?

古下さんは殺害されてから三日後に発覚した。

つまり、殺害後3日は何もしてないって事になる。

それで小川の拉致はすぐにばれるように?

何かおかしくないか。

古下さん殺害はあれだけ綿密に動いたのに?


「行方不明者がいないかどうか、調べて貰える? 華音ちゃん」


 翔太さんが入って来るなり言う。


「俺達に見られてる事を前提に行われた殺人。その3日後に小川さんの拉致がすぐに発覚。この2つの事件が繋がってるなら、小川さん拉致は囮に使われてる可能性もある」

「どう言う事かしら? 翔太君」

「既に殺害された被害者がいるかもしれないって事。3日前以前に殺害された別の被害者が」


 3日前に行われた殺人が最初の殺人じゃないって事……だろうか。


「PCPは事件発覚の前に解決できる組織だけど、この組織の仕組みを知られてる前提で動かれた場合は後手に。殺人事件の捜査になっちまう」

「確かにそうですけど……」

「でも、小川さん拉致は明らかにすぐに発覚するような状況が揃ってる」

「それが狙いだったと言う訳かしら?」

「連続殺人は、全てが最後まで遂行する事が目的になる。なら、PCPがあるって前提で動く場合、最後に持って来るべきは何なのか」


 ハッとする。

殺人が起き、3日後に拉致事件。

その数時間後には事件が発覚。

次に殺人事件が発覚。


「事件の発覚、ですよね」

「そう。古下さんの殺人が最後に行われたものだとすれば。そしてその発覚が作為的なものだとすれば」

「通報者が誰なのか、特定した方が良さそうね」

「急ぎます!」


 ……まるで過去にタイムスリップして殺人が行われたような。

逆行殺人とでも言えるような。


「ただ、そう考えた場合、犯人にとっては全ての殺人を遂行した事になる。言わば小川さん拉致で、PCPに殺人遂行が完了した事をお披露目するみたいにな」

「私も、小川様の追跡を協力させて頂きます」

『行方不明者の捜索はもうやってるぜ。それで良いよな翔太』

「ああ健文。頼んだ」

「そう言えば、由佳ちゃんはまだ来ないのかしら」

「由佳は松本大河の所に向かって貰った。この仮説が正しいなら。間違いなく黒の御使い内での何かが原因だ。その情報を握ってそうなのは松本しかいない」


 だとすれば、私にできる事は1つ。

小川捜索にシフトする。

……小川を見つけたら、私はどうするのか。

考えながら。



 行くのは5年振りだ。

あたし以外の人間と、話そうとしなかったから。

事情聴取は必然的にあたしが取る事になった。

刑務所じゃない、特別な留置所。

殺害していた人物は全員凶悪犯罪者だったから極刑は免れたけど、危険人物な事に変わりはない。

以前は久遠正義、館華星が収容されていた施設。


「一部の警察関係者以外に場所を知られない事が条件でな。すまないないつも」

「それは大丈夫です。警察が管理すべきだと思いますから」

「連れて行った事がある人物は、全員PCP所属だがな」


 翔太と華音ちゃんの事だろう。

久遠正義、館華星から接見を許された唯一の人物。

着いた場所は、そう言う人しか入れない場所。

目隠しを外し、正面の突き当りへ歩いて行く。

ライトで照らされた内部は眩し過ぎて、相変わらず慣れない。

突き当りの扉が開き、その人物は座っていた。


「久しぶりですね。鮎川由佳さん。いや、今は吉野由佳さんでしたか」


 松本大河。

かつて黒の御使いの幹部だった男。

あたしの事を沙耶と呼び、沙耶さんの為に全てを捧げた男。

あたしは向かいの椅子に腰かける。


「10年経って、ますます沙耶に似て来たな」

「10年も経てば正気に戻るものですね」

「正気……か。私にとっては今が狂気だがな」


 そう言うと松本は自嘲した。

警視庁襲撃の計画。

それまでの黒の御使いの活動について。

細かい所まで話は聞いた。


「話す事は全部話したと思うが? 5年経って今更そちらから接見を求めて来るとは思わなかったな」

「今まで聞いたのは計画と活動について。でも、今日はメンバー同士のトラブル。或いはメンバー入りの際に何かトラブルが無かったか」

「ほう? 今更必要の無い情報に思えるが?」

「古下則次さんを知ってますか?」

「……学生ながら大切なものを失った。いいや、全てを捨てきれなかった人間か」

「例外が存在してるんですね。やっぱり」

「例外が無い事こそ、世界の例外ではないか?」

「学生だから全てを捨てさせなかったのか、それとも捨てられなかったのかは分かりませんけど」

「それは吉野翔太の意見か?」

「そうです。黒の御使いの間に、あたし達が知らない何かがあったんじゃないかって」

「なるほど」

「教えなさい」

「随分単刀直入だな」

「時間が惜しいから、余裕が無いって捉える事も出来ると思いますけど?」

「であればそんな質問はしないだろう」

「それで。それは古下さんに関係する事なんですか?」

「古下。それに他にも2、3名だが。黒の御使いの介入によって救われた者達だ」


 ……。

救われた……。


「とある人物から恨まれている人物が、それ以外から憎しみを買ってない。そんな事がある筈がないでしょう」

「……別の人物によって復讐が行われ、結果的に救われた」

「そう言う者達の中には、加わりたいと自ら申し出て来る者もいる。古下はその中の1人だった」

「貴方達にとってそれの何が問題だったの?」

「我々組織は信仰心の元に成り立っていない。自分自身がゼロになる事で初めて組織の一員として考えられる。その中に信仰心だけで加入した組員がいればどうなる?」

「……反感を買う」

「警視庁襲撃の作戦前に外した」


 それが黒の御使いの生き残りなんだろう。

それなら久遠が取り逃した理由も、古下さんが大学を除籍になった理由も頷ける。


「それで、具体的に何があったんですか?」

「それ以上の事を管理すると思いますか?」


 ……これ以上は本人に聞くしかないって事だろう。

でも自ら入ったって仮定すれば、小川さんが黒の御使いのメンバーって可能性も再浮上する。

基本的に信頼はされなかったって考えた方が良いだろう。

あたしは立ち上がる。


「1つだけ質問宜しいかな?」

「どうぞ」

「お子さんは元気ですか?」

「ええ。とても天才で、とても生意気に。そしてとても芯が強く育ってます」

「そうか」


 松本は目を閉じ、口元に笑みを浮かべる。


「……そうか」


 もう1度。

松本は言った。

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