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04_追跡

 優子さんの電話で、翔太は急いでPCP本部へ戻って行った。

あたしはこの時間は基本的に自宅で仕事をする事が多い。

そう言う風にして貰ったのは、由翔が心配だから。

夫婦の寝室の他に、あたし専用の仕事部屋を作って貰った。

扉を閉め、鍵を掛ける。

電気をつけると、壁に設置されたモニターが4台。

Uの字の机にはマイクやワイヤレスのキーボード。

そして室内に異常が起きれば鳴るようになってる防犯ベルのランプ。

勿論PCPの経費で楓さんが用意してくれたもの。

PC用のメガネをかけ、電源を入れると5秒でパスワード画面に移行。

顔と指紋がすぐに読み込まれ、PCP監視システムが起動する。

テレビ電話に接続すれば、華音ちゃんと楓さんに榎田さん、森田さんがいた。


「ごめんね気付くのが遅くなっちゃって!」

『由佳さん!』

『久し振りだな由佳さん』

「翔太もすぐにそっちにつく筈だから!」

『あれから状況が変わりましたので簡単に現状を説明します。殺害されたのは古下則次さん。死亡推定時刻は3日前の20時頃。犯人はデパートらしき建物に入ってからの消息が掴めていません。更に殺害された古下さんは警察の調べで黒の御使いの元メンバーである事が分かりました。この事から、犯人も黒の御使いの元メンバーである可能性が高く、デパートから下水道を通って逃走した可能性も視野に入れて、犯人と被害者両方の映像を追っています』

「ありがとう。華音ちゃん」

『それと私は別件で行方不明になった小川高久の消息を追っているわ。この事件と何らかの関係があるって思うから』


 え?

ちょっとそれって今ここで……。


『大丈夫です。由佳さん。その節は重ねてありがとうございました』

「そっか……」

『多分、最初に言わないでおこうって言ったの、由佳さんですよね?』

「何で分かったの!?」

『冗談のつもりだったんですけど、ホントだったんですね……』

「あ、あはは……」


 よく見ると華音ちゃんの目元が少し赤かった。

……。

その辺の話は後でゆっくり聞かせて貰おう。

深呼吸し、頭を切り替える。

まずは……。

事件現場の映像をアップ。

キャリブレーションモードで画像を鮮明に。

犯人らしき人影をかたどる。

映像を巻き戻しながら、人に当てていく。

見つけた。

適合率98%。


「大体1時間位前に別の服装。茶色っぽい長袖と黒の帽子を被った男性がいるわ。多分この人」

『な……! 何でわかるんですか?』

「人の歩き方ってさほど変わらないものでしょ? だから」

『犯人をかたどって映像と合わせた……って所かしら?』

「あたしがやった事を解説しないで頂けませんか楓さん! 成形認証をかけたのよ!」

『なるほど……あ、この人ですか。確かに大きめのリュックを背負ってます』

『被害者は大体30分位前に駅に着いたみたいだな』

「榎田さんは合捜班の方と連携して被害者の自宅からの足取りをお願いします。華音ちゃんと森田さんは手分けして犯人のその後の足取りをお願いします。あたしはドローンを使います」


 スマホを取り出す。

犯罪を防ぐために必要なのは速度。

これ以上の犯罪を起こさせない為に。



 急いでPCPに向かおうと思ったら、姉ちゃんがマンション入り口にいたから驚いた。

アイアンクローされ、助手席に座って数十分。

今に至る。

由佳からの電話だ。


「どうした?」

『ごめん予定変更。本部じゃなくて今から言うデパートに向かって貰っても良い?』

「分かった。簡単に状況の説明を頼む」


 俺は言いながらスマホをダッシュボードに内蔵されたモニター横にセットする。

モニターが起動し、簡易ノートパソコンとなる。


「姉ちゃん悪い。このデパートに向かってくれ」

「ったく。心配して来てみれば」

「引っ越してきたお隣さんと食事してたんだしょうがないだろ」

『状況を説明するわよ』


 ……。

PCP本部にも充電器を用意しておこうと思った。

日々の仕事で疲れたから犯罪を防げなかったなんてふざけてるにも程があるから。

華音ちゃんが小川さんの事を知ってるのは、何も言って来なかったから敢えて聞かないでおく。


『ドローンを飛ばしてデパート周辺の情報を探しとくから、警察から事情を聞いて教えて』

「分かった」


 黒の御使い……。

何故今動いた?

10年経たないと動けなかったか。

或いは今動く事に意味があったか。

両小指を絡め、手を口元に当てて考える。

ここ最近で何か変わった事は無かったか。

犯人が黒の御使いの元メンバーだとしても。

何か理由がある筈。


「由佳。最近何か変わった事件は無かったか?」

『変わった? ……特に無かったと思うけど』


 だよな……。

一応日本全域で情報を集めてる。

変わった事件があれば流石にPCPの誰かが気付く筈。

だとしたら……。


「松本大河」

『え?』

「脱獄した可能性は無いよな?」


 俺は拓さんに電話する。

松本が専用施設に服役してるかどうか。


『服役中と確認した』


 この線も無し……。

そもそも松本が犯人なら、小川さんを連れ去る意味が無い。

松本達は少なくとも古沢桔梗に用があった筈だ。

ただ、楓が言うように無関係だとも思えない。

考えてる内に問題のデパートに着く。

黄色のテープを警官に断って潜り、問題のロッカーへ。

犯行時に来ていたものが一式入ってた。


「現状、髪の毛がニット帽から検出されていないので、何も痕跡が見つからない可能性が高いです」


 まるでPCPのシステムがある事前提で行われたかのような犯行。

確かに黒の御使いの元メンバーなら出来そうではある。

だとすれば、逃亡先をデパートにした理由は多分。

俺は地下駐車場へ向かう。


「なるほどね。地下にならマンホールがあるって事ね」

「そう言う事。監視システムの欠点だからな……あった」


 蓋がずれたマンホール。

前から空いてた訳じゃなさそうだ。

姉ちゃんが鑑識を呼びに行ってくれてる間に、グループLINEで連絡。

鑑識の人にマンホールの蓋をどけて貰い、手袋をして中へ入る。

どっち方面かさえ分かれば、華音ちゃん達が犯人の消息を追いやすい。

足跡を見つける。

反対側も確認するけど、一応ついてない。

罠……って事も無さそうだ。

現場を荒らさないよう、最小限の確認だけ済ませ、後を鑑識にお願いする。


『デパート周辺に、不審物は無かったわ』

「サンキュー。下水道からの逃亡方向はここからPCP本部方面だった」

『OK』


 ……妙だ。

PCPを意識したような犯行手順にもかかわらず、何故逃走経路がPCPに近付いてるのか。

本部を狙ってる?

いや、あそこは簡単には入れない。

大学に仮拠点を設けてた時はセキュリティまで導入できなかったから、簡単に侵入を許してしまってたけど今は違う。

そもそも侵入できたとしても意味が無い。

盗み出せないようにPC関連の情報は許可した人間以外が障ればデータが消えるようになってる。

犯人が触った時点でただの箱と化す。

PCPへの侵入が目的じゃないとすれば。

犯人は逃亡してるのではなく、拠点。

つまり自宅に帰ってる可能性が高い。

犯人は近所にいるかもしれないって事か……。


『だったら、本部周辺を中心にモニターするわ』

「ああ。うまくすれば犯人を捕まえられる」

『今日はもう2人は休んで良いわ』

「『え?』」


 楓の言葉に夫婦で素っ頓狂な返事を返してしまう。


『貴方達昨日もあまり寝てないでしょう? それで今日もこんなに遅くまで。もう2時を回っているわ。今日は私達でモニターするから休んで頂戴』

「でもなぁ楓……」

『CEO命令よ。分かったわね? 吉野翔太PCP本部室長?』

「……了解。桜庭楓CEO」


 家に帰って呼び出されたのに帰って休めって横暴だ。

とは言いつつも正直眠い。

来客が来た為風呂も入ってない。

帰って寝るか……。


「懇ろの余裕は無かったか」


 言い方がおっさんだっつーの姉ちゃんは……。

とりあえず車に乗り込み、状況を整理する。

犯人は分からなかったけど、近所に犯人がいる可能性がある事は分かった。

後は小川さんを連れ去った理由か……。

1ヵ月程前に意識を取り戻した。

……これか?

変わった事。

でも、黒の御使いには関係……。

ハッとする。

小川さんも黒の御使いのメンバーだった?

いや、それはおかしい。

黒の御使いはネット記事によって晒され、全てを奪われた者と、全てを差し出して奪った者の集団だった筈。

小川さんは当時ヘリに乗って来た。

全財産を奪われた、或いは差し出したなら、ヘリでは来れない。

……いや、違う。

黒の御使いの所有物だったとしたら?

ここまで考えて、この可能性は無いと頭を振る。

それなら華音ちゃんの近くで流れた噂話の必要が無い。

ただ、限り無く近い何かがある筈。

ん?

事件の時系列を思い出す。

発覚した殺人事件は3日前に起こった。

その後に小川さん拉致が楓に知らされた。

……小川さんが意識を取り戻した事がきっかけで回り出した事件?

マンションにつき、姉ちゃんと別れて部屋に戻る。

この仮説が正しいとすれば。

黒の御使いに関わる重要な情報がある筈。

それを確認できるのは由佳しかいない。


「おかえり」


 仕事部屋から出てきた由佳も、眠そうだ。

でも、早い内に動かなければならないだろう。


「由佳。起きたら松本大河から話を聞いてきて欲しい」

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