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01_隣人

お久し振りです。

前回のザイカオクサツから10年後の話です。

どんな感じになってるかとかを見て貰えたら嬉しいかなって思ってます。

不定期更新ですが、宜しくお願いします。

それではどうぞ!

 僕、玖芦くろに両親がいない事は職員の方から聞かされていた。

生まれたばかりの僕は乳児院に預けられ、そこから今の施設に来た事を。

それ以上の事は分からないと言われた。

事実か嘘かは分からない。

ただ、施設の皆、職員の方に感謝している事に変わりはない。

自分が誰かを知るために、どうしたら良いだろうか。

それを考えながら、勉強は欠かさずやった。

優秀な成績だ、天才だ、などと職員の方に褒められて、とても嬉しかった。

今でもそう言われる事が嬉しくて、それがモチベーションになっている。

8歳の時に、僕を引き取りたいと言ってくださる男性の方が現れた。

妻を亡くし、子供が欲しかったねと言う妻の願いを叶えたいと仰る男性。

養護施設だと調べられる情報の数に限界があると思っていたため、僕はお願いしますと快諾した。

探偵のような調査のプロから占い師や霊媒師と言ったオカルトめいたものまで試したが、情報を得る事は出来なかった。

義父には僕の生い立ちを知りたいと正直に告げると、笑顔で協力してくれた。

代わりに成績を求められたが、いつもやっている事をそのまま実践するだけで問題無かった。

そんな中、義父が僕が生まれて間もない頃に起こった二大事件を教えてくれた。

そのために奮起した人たちの事。

犯罪者を裁いた犯罪者の事。

遺族の代わりに犯罪者を裁いた事。

犯罪について興味が湧き、調べてみたが10年前の情報が詳しく載っている筈も無かった。

ただ、犯罪についての興味が湧いたのは事実だった。

どうして人は犯罪を犯すのか。

施設の友達同士の喧嘩も、正直あまり好きではなかった。

平和が一番良いのに。

だから知りたいと思ったのかもしれない。

そして、出来る事なら止めたいと。

そんな正義の味方みたいな組織があれば、そこで働きたいって思える位には興味を持った。


「ピー・シー・ピー? ですか? お義父さん」

「ああそうだ玖芦。」


 ある日の食事中、転勤となった義父が僕に教えてくれた。

警察と連携して犯罪を防ぐために動いている組織、PCPの事。

引っ越し先の近所にその組織の本部があるらしい。

何でも、いくつもの事件を解決した実績を持った組織。

普段は企業に潜む犯罪を監視しているが、事件が起こる前に未然に犯罪を防いでしまう。

文字通り現代における平和のための組織だった。

見学させて貰えるならさせて欲しいと、その時の僕は目が輝いていたに違いない。

学校の皆に別れを告げ、新居へ向かう僕は期待でいっぱいだった。

僕の事を調べて貰えたら…。

なんて期待も少し抱いて。



 男は思いつめたような表情で夜の道を歩いていた。

夏だというのにニット帽、軍手、長袖長ズボンと不釣り合いの服装。


「止めた方が良い。西沢良和さん」


 男はビクッとして立ち止まり、ゆっくりと振り返った。


「今から横山肇さんの殺害を実行するつもりだろう。考え直した方が良い」



 西沢さんは震えていた。

それもそうだろう。

どうしてここに?

って思ってるだろうから。

尚も俺は続ける。

犯罪は何も救ってはくれない。


「な、何を言ってるんですか? ぼ、僕が殺人を? バカ言わないで下さいよ」


 横山さんに騙され、多額の借金を背負わされた事。

それを恨んでる事は企業視察の際、西沢さんの同僚から教えて貰った情報。

横山さんの自宅マンション前で、睨みながら見上げる姿、そしてサバイバルナイフやニット帽の購入履歴。

ここから導かれる答えは一つ。


「な……何者だお前!」


 吉野翔太、PCPだ。

俺はあんたが犯罪を犯すのを止めたい。


「今ならまだ罪が軽い。踏みとどまってくれ。あんた自身が迷ってたのは表情と歩くスピードから分かる」

「な……何でそこまでして……」

「横山さんには別の人間が向かってる。気付くのが遅くなって申し訳ない」

「は……はは……」

「詐欺罪で立件は出来るはずだ。あんたも情状酌量の余地がある。ここで踏みとどまってほしい」


 へたり込む西沢さんを確認し、ホッと肩を撫で下ろす。

抵抗の意思が無い事を確認し、サバイバルナイフを回収。

今日も1つ、殺人を防ぐ事に成功する。

それが俺、吉野翔太が所属するPCPの仕事だ。



 フゥー……。

長い溜息をつく。

いつになってもこの瞬間だけは慣れない。

逆上して襲われる場合もあるから。


「大丈夫ですよ由佳さん。優子さんもついてるじゃないですか」


 あたし、吉野由佳の両肩を叩くのは有村華音ちゃん。

そりゃあそうだけど、心配なものは心配だ。


「そんなに心配なら格闘技でも習ってみたら? って前から言っている筈だけれど?」


 扉を開けて入って来るのは桜庭楓さん。


「今はyoutubeの影響で格闘技を始めている女性、増えているらしいわよ? って」


 そう言う楓さんだって安心した表情なのは変わらない。

森田さん(楓さんの執事)の車が迎えに行き、翔太と西沢さんが乗り込む映像を確認する。


「まだ翔太さんに未練があるんですか貴女は。もう既婚者です」

「そう言う貴女も同性愛者と疑ってしまうわよ」


 ブチギレ気味の楓さん。

この2人は前からこんな感じだ。

それなのに何故か連携が取れているから不思議だ。


『とりあえず終わったぞ』


 翔太からの連絡に『おつかれ』と告げる。


『合捜班(PCP-警察合同捜査班の略)に引き渡してから戻る』

「早く帰って来いよ爺!」


 後ろからマイクを引っ掴む勢いで叫ぶ子供。


『うるさいぞ由翔ゆうと。おとなしく待ってろ』


 笑いながら通信を切る由翔。

学生の時に産まれたあたし達の子供だ。


「この口の悪さは誰に似たんですかね」


 由翔を撫でながらため息をつく華音ちゃん。


「華音姉ちゃん止めろよー」


 嫌がる由翔を見る。

小さい頃の翔太にそっくりだ。

あたし達が忙しくなる時もしょっちゅうある為、託児所に預けずにここに連れて来てる。

生まれた時からモニターやPCにある膨大なデータ量を見てか、異常な程に記憶力が良い。

だからって訳じゃないけど、物言いが横柄。

と言うか口が悪い。

まあ、優子さんか翔太に似ちゃったんだろうけど、口が裂けても言えない。


「またうちでヴァイオリン弾いてー」

「あら、私には何もないの? 由翔君」

「楓は色気と金だけじゃん」

「……何で翔太君に似なかったのかしらね」


 笑顔で静かにブチギレる楓さんはちょっと面白い。

とりあえず一区切りついたから、翔太が戻ったら帰るとしよう。

夜間は合捜班の人が交代でモニター監視をしてくれる。

企業の情報、不審な売買。

事故現場。

様々な方向から監視が行われる。


「俺も監視やりたい婆!」


 誰が婆や!

両頬を軽くペシッと叩き、手を引いて立ち上がる。

「後の作業は私がやっておきますね。由佳さん」



 由翔君の能力には驚かされた。

私達が事件について話し合ってる時に、監視システムから離れた事があった(もちろん部屋から出てはいないから、由翔君を部屋で1人きりにしたわけではないけれど)。

その隙をついて、由翔君は1人でこの膨大な情報を目で追い、翔太君に指示を出していたのだ。

そして、それがきっかけで犯罪を防ぐ事に成功。

幼少期に遊び感覚でPCの膨大なデータ量の映像を見ていたからか、とんでもない記憶力を持っている。

それにあの頭の回転の速さ。

翔太君以外の、しかも男の子に鳥肌が立つなんて思ってもいなかった。

口は悪いけれど、翔太君の子だと本当に思った。


「それはそうとどうしたんですか? CEO」


 私、桜庭楓をそう呼ぶのは華音ちゃんだけだ。

皮肉なのかは分からないけれど、この距離感で良いだろう。


「そうですか……。 横山さんの方も完了したみたいです。立件も明日には出来ると」

『では、そちらに戻ります』

「はい。お疲れ様です」


 通信を切り、伸びをする華音ちゃん。

こうして、今日も1つの事件が起こる事無く解決した。

犯罪検挙数は目に見えて減少している。

これは私達が防いでいるからではないだろう。

どちらかと言えば企業内の犯罪を解決してから、犯罪は減少したように思う。

心の闇は企業から。

と言う訳ではないけれど、目に見えた効果があるのだからそう考える以外に無い。

だから考え方をシフトする事にした。

企業の財閥への参入を積極的に行い、企業内から犯罪を無くす。

もとい、全員がストレスフリーに働ける環境を作る。

言い換えるのであれば、置いてけぼりを作らない。

怪我の功名とは違うけれど、思わぬ副産物と言った形でPCPの運営が行われている。

とは言っても、私がやっている事と言えば社長との交渉やパーティ参加での交流位だ。

ここでの事務作業はほぼ華音ちゃんが行っている。


「それにしても珍しいですね。ここに来るのは」

「私だって自分が作った組織位、見に来るわ」

「由翔君の事が気になるから、ですよね」

「…どうしてそう思うのかしら?」

「完璧に使いこなすのに軽く3年は必要なこのシステムを、たった1人で扱う場面を見たら気になるのも無理はないですが。あの日からここに来る頻度が増えましたよね明らかに」

「10年前は黒の御使いと久遠の行方さえ追う事が出来れば良かったけれど、今は違うわ」

「基準すらわからないから決めないといけない。そもそも使い方も情報も教えてなかったのに」


 そう。

私はワクワクしているのだ。

翔太君以来の震え。

いずれここで働く姿を想像して。

そんな私のスマホが鳴る。

こんな時間に誰だろうか。

時刻は20時を回っている。

それは病院からだった。


「もしもし。桜庭ですが」

『中央病院の者です。小川様が……』

「小川?」

『小川高久様が、行方不明に!』


 何ですって?

急いで向かうと告げ、私はPCPを後にした。



 桜庭さんが急いで部屋を出て行った。

何か急用ができたんだろう。

それに私は安堵する。

未だに好きになれないあの人は。

意味も無く張り詰めた空気を感じるから。

あの事件から10年。

館華さんが死刑判決を受けてからもうそんなに経つのかと他人事のように思う。

今でも昨日の事のように思い出す。

だから私は私なりの形でPCPに関わろうと決心した。

いつもなら、翔太さんが今日やってた役割は私が担うべき役割だ。

だけど今日は合捜班に協力をお願いされ、事情聴取に向かってたから翔太さんが代わりに引き受けてくれたのだ。

交渉、いわゆるネゴシエート。

事件解決に必要な部分を私が担ってる。

それ以外は基本的に事務作業、由佳さんの手伝いが私の役割だ。

起きた犯罪に対して、私はいても意味は無いけど、殺人が起こる前なら私が。

要はネゴシエートの介入余地がある。

役に立ちたいって願い続けたからなんて安直に思わないけど、思わなければこんな今は無かった。

あの時背中を押してくれた倉田さんや由佳さんに感謝だ。

こうして兄さんのような人を救う事が出来る事に。

自分自身に誇りが持てる。

そんな事を考えながら、私は企業内の気になる情報、事件を表にまとめる。

どんな些細な事でも。

これは桜庭さんが報告とって会社の人が身構えるようなものではなく、世間話の中で出た情報をまとめてる。

出来る限り見やすく。

本質は気楽な環境でしか生まれないとは桜庭さんの言葉だ。

ただ言い方は悪いけど、単調作業だから考え事が多くなる。

昔から考え事が多かったから向いてたのかもしれないけど。

PCP本部の電話が鳴る。

ここにかかって来る電話は、合捜班からが圧倒的に多い。

昔は企業からもかかって来てたけど、それは全部桜庭さんが引き受ける事にしたのだ。

翔太さん達が事件について完全に集中できる環境を作るために。

私は作業を中断し、受話器を取る。


「はい。PCPです」

『もしもし、倉田だ』

「倉田さん? どうかされましたか?」

『華音君か。今1人か?』

「翔太さんも由佳さんも帰られましたよ。桜庭さんも急用でたった今どこかへ」

『男の惨殺死体が発見された。被害者の名前は古下則次』

「……PCPに連絡したって事は、モニターで追ってほしいって事ですよね」

『そうだ。頼めるか?』

「分かりました」

『詳細はもうメールで送ってある』


 電話を切り、現場周辺の映像を抽出し、拡大して補正をかける、手慣れた作業だ。

これだ。

3日前のこの時間。

……倒れた男を滅多打ちにしてる映像が映る。

周りに家は建っていない。

この分だと目撃者もいないだろう。

翔太さんと由佳さん(PCPのグループLINE)に詳細を連絡し、犯人と思われる人物の行動を巻き戻す。

同時に古下則次に関する情報を企業情報から検索。

財閥傘下ならここから何かしらの情報が拾える筈。

引っかからなかった場合、それ以外の企業か、或いは他の動機か。

それ位に絞る事は出来る。

しかし巻き戻してみた映像は、別の建物に入る映像を最後に追跡が不可能だった。

別の建物への渡り廊下が設置されている店であり、同じ服装の人物はいなかった。

多分、コインロッカーか何かに入れてた別の服に着替えたんだろう。


 用意周到。


 まず思ったのがそれだ。

こんなに用意周到な犯罪者は久遠、黒の御使い以来だ。

……何かが起ころうとしてる?

漠然としたイヤナヨカンが過ぎる。

あの時みたいな大きな事件が……?

頭を振る。

そんな事をさせない為にこの組織があるんだ。



 由佳と由翔と合流し、家に着く。

PCP本部にすぐに行けるよう、卒業と同時に引っ越した俺達の新しい家だ。

と言ってもマンションの1室だ。

入口がオートロック式の物件を選んだ。

俺も由佳も命を狙われた事があるし、由翔を危ない目に合わせるわけにはいかない。

心配し過ぎかもしれないけど、最終的にし過ぎな位が丁度良いだろうって事で決めた。


「なー爺。うまくやったのか?」

「やったって言ってんだろうが全く」

「だってうちにいる時の爺見てると信用できねーんだもん」

「由翔。あんたその呼び方どうにかなんないの?」

「優子おばさんだって爺婆って呼んでたって言ってたじゃんか」

「はぁ~……」


 何でそう言う余計な事は話すかね姉ちゃんは。

あんたも呼んでたんでしょって言いたげにこっちを睨む由佳はさておき、部屋の鍵を開ける。


「あのー……」


 声の方へ振り向くと、親子らしき2人が立っていた。


「あ、すみませんうるさくて」

「いえいえ、昼に伺わせて頂いたのですが、留守だったものでして」

「こんにちは。蒔世まきせ玖芦と申します」


 蒔世さんの息子さんが丁寧にお辞儀する。

俺達は慌てて礼をする。


「ご丁寧にどうも。吉野翔太と申します。こちらが妻の由佳と、息子の由翔です」

「宜しくお願いします」

「宜しく玖芦君!」

「どうも。この度隣に引っ越して来ました蒔世亮介と申します」


 そう言えば引っ越しのトラックが何かやってたな。

なんて思った矢先、蒔世さんの言葉に目を見開いた。


「PCP、ご存じですよね?」 

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