双子の二人
プロローグ
生まれた時から小学校までの私達はそっくりだった。
だって、双子だったから。顔が同じ。洋服も同じ。これで見分けがつくのかな?って思ってたけど、ちょっとだけ声の高低差があったから、親や親しい友人はそこで区別をしてたみたい。
だけど、これって馬鹿らしいと思わない?
私と妹の麻美は違う。違うのにわざわざニコイチにしなくてもいいんじゃない?っていつも思ってた。だけど、中学に入ってみれば、同じ制服に同じジャージ。校則が厳しいから出来る髪型も必然的に一緒で、全然知らないクラスメイトとも同じになった気分。個の見分けがつきづらい。
そういうのが苦しくなった時に、視力検査で引っかかって眼鏡を作った。私が眼鏡をかけた事により、麻美との区別がつきやすくなった。先生は助かったと思う。私も少しだけ、気が楽になった。
そうして、受験勉強を頑張った。麻美と違う高校に行きたかったから。ママは反対してた。まぁ、理由は分かる。学校で行われる行事や面談があるから、同じ学校の方が都合がいい。だけど、そんなのはママの都合であって、私の都合じゃない。進学校ならいいでしょう?って無理矢理押し通した。
そうして、晴れて高校入学。県立高校の入学式は同じ日だから、私の方には来なくていい、って言った。だけど、パパが来てくれた。麻美の入学式にはママが行ったみたい。わざわざ来なくてもいいのに、って言ったら、パパが「政美の晴れ舞台だから」って。そう、今日は私だけの入学式。漸く着られた麻美と違う制服に心が躍った。
Ⅰ
「政美ちゃん、教科書見せて~?」
入学式から帰ったら、既に帰宅していた麻美が早速私の部屋に来た。私の返事を聞く前に鞄を開けて教科書を取り出す。パラパラめくって驚いた声を出す。
「何、これ~!私のと全然違う!英語なんか、辞書か何か?」
…偏差値レベルが違うから、って言いたかったけど言わなかった。ちょっとおバカさんでも構わない。麻美は可愛いんだから。今日も寝る前にした三つ編みでゆるくウェーブをかけたセミロングの髪を色付きピンをクロスにさせてとめている。校則が緩いからようやくオシャレが出来るんだ、って嬉しそう。私はそういうの興味ない。だから、高校入学前にバッサリ切ってベリーショートにした。可愛い格好が大好きなママが「政美ちゃん、男の子みたい…」って泣いてたけど、風呂上がりのドライヤーがすぐに終わるから、個人的には大満足。パッと見で、麻美との区別もつきやすい。だけど、ママったら、また麻美とお揃いの可愛い部屋着を買ってきた。まぁ、着心地はいいからいいんだけどさ…。
「ママ、これからは洋服も自分で買いたいからお金頂戴」って言ったらビックリしてた。パパが「二人共もう高校生なんだから、友達と出掛けて買いたい時もあるだろう?お前ももう少し子離れしないと」って援護射撃してくれて助かった。
眼鏡越しに見る家族は平和でいい。きっとうちは幸せな家族なんだと思う。穏やかで一流企業勤めのパパは読書好き。私はパパの書斎から本を借りて読むのが好き。優しくて料理上手なママはちょっと少女趣味に走り過ぎな所もあるけど、カントリーテイストにまとめられた家は居心地もいい。
そうして、ちょっとおつむは弱いけど、可愛くて友達の多い麻美。私とは違う。中学までは麻美と一緒だったから、私も友達と一緒にいる気になっていた。でも、ずっと一緒にいると分かる。私は、麻美のおまけだった。バレンタインのお約束の友チョコ交換だって、私一人だったら、きっとやってない。やりたい麻美と乗り気なママと一緒に作るだけのイベントで、作ったから仕方なく交換してもらっていた気がする。私は、本当は一人の時間が好き。一人でじっくりと読書をしたり、ちょっとしたイラストを描いてる方がずっと楽しい。
だから、県の外れの進学校までの電車通学の時間が好き。早起きはちょっと辛いけど、乗り換えが無いから、使用駅の始発電車で席をキープ出来さえすれば、小一時間の読書タイム。人がどんな風に読書をするのかは知らないけれど、私は出版社毎のシリーズを順番に読破していくのが好き。同じミステリでも、出版社によって系統が違う。大手のK社は大化けするキワモノを出してくる。T社の推理文庫はじっくりと読ませる物が多い。きっと編集者が玄人なんだろうな…。そんな事を思いながら、今日もページをめくる。受験勉強から解放されての読書は実に気分がいい。隣でうるさく「ねぇ、この話の犯人誰?」ってうるさく聞いてくる麻美もいないし。平和な高校生活だった。
Ⅱ
「つっまんないの~。」
朝から机に突っ伏してぼやいていたら、「どうしたの?」って声を掛けられた。顔を上げたら、中学から一緒のともちゃんがいた。
「だって、この学校には政美ちゃんがいないんだもん…。」
「まだそんな事言ってるの?だったら、麻美も受験勉強頑張れば良かったじゃない。」
「ええ~!無理無理!ムリだよぉ~!受験勉強してる政美ちゃんは鬼気迫る感じだったもん。「分かんないから教えて」なんて、言える雰囲気じゃなかったもん…。」
「そんな事言ったって、帰る家は同じなんだからいつでも一緒じゃない。」
「政美ちゃんの学校は遠いから、朝早くて、夜遅いんだもん…。うちと違って、宿題も沢山出てるから、帰ってきてご飯食べても、すぐお部屋にこもっちゃうしさ…。一緒にゲームしよ、って言えないんだ~。このアプリゲーム、政美ちゃんとバディ組んでやれたら最高なのにさ。見てよ、お揃いコーデに出来るんだよ?最高じゃない?」
画面を開いて見せていると、「お!皆川もやってんの?」と声を掛けられた。クラス一のイケメンと言われてる貴志君だった。
「俺もさ、やってんの!ほら、見て!リリース当時からやってるから、最高ランクよ。」
「ホントだ、すご~い!」
「兄貴と一緒にやってるから、少しだけ課金もさせてもらって今の所、レアキャラもフルコンプ!限定衣装もあるぜ。」
「ああっ!リリイベでのみ配布されたやつ!」
「いいだろ?リリース当初は人気なくてあんまやってる奴いなかったから、古参の証拠!」
にっこり笑って言われた。羨ましい…。そこで、チャイムが鳴った。
「やべっ!先生来る前にスマホしまわねーと!」
私達は慌てて、スマホを鞄にしまう。すぐに教室のドアが開いて、先生が入って来た。出欠確認が始まる。「ハイ」「はい」「うぃーす」「ハイ」「います~」色んな返事。この学校は、結構みんな不真面目。授業中も私語がうるさくて、先生の言ってる事がよく聞こえないし、分かんない。一回、数学が分からなくて先生に聞きに行ったら、周りから「皆川さんってば、まっじめ~」と茶化されて、それ以来行くのをやめた。変に真面目と思われて、ハブられたくない。
政美ちゃんがいてくれたら「分からない事を聞いて何が悪い?分からないままの方が私は気分が悪い」って、一緒に行ってくれたのにな…。政美ちゃんと離れて気付く。いつも、私は強い政美ちゃんに守ってもらっていたんだ、って。小学校で上履きが無くなった時も、政美ちゃんが学校中を探してくれた。焼却炉近くに落ちてたのを見付けた政美ちゃんは、そこから聞き込みを始めた。テレビアニメの少年探偵みたいでカッコ良かった。皆が面白がって協力してくれて、政美ちゃんは私の上履きを隠した犯人を突き止めた。一学年上の男子だった。
「うっせぇな。確かに俺がやったよ。悪かった…。でも、俺、麻美ちゃんが好きで…」と言いかけた相手に「好きな女子をいじめるしか出来ない男に妹はやらん!それに、そうやって口先だけで謝って許されると思うな!」と啖呵を切って、クラスの女子の歓声を一身に浴びていた。政美ちゃんは強い。同じ格好をしていても私とは違う。そんな政美ちゃんと双子な事が私は嬉しかった。同じ顔で同じ服。強くて賢いもう一人の理想の私。
だから、政美ちゃんが違う高校に進んだ事がショックだった。だけど、仕方ない。頭の出来が違うから。真ん中より下の私と上から数えた方が早い政美ちゃんではレベルが違う。中学までは学区で区切られるから、当たり前のように一緒だったけど、高校からは違う。行きたくなければ最悪中卒でもいいのが世の中だから。だけどやっぱり、高校生になってアオハルしたいじゃん?だから、制服が可愛い所を選んだ。中学まではブレザーだったから、セーラー服。これってやっぱ、制服じゃないと着られないよね?某リズムゲームのキャラの制服のモデルになったとまことしやかにささやかれているちょっとリボンの形が独特なのが、うちの制服だ。すごくカワイイ。通学中、電車に乗ったり、街中を歩いてたりする時に、知らない男子に声を掛けられる事も多い。ちょっとモテてる気分。だけど、上履き事件を思い出すから、知らない男子は怖い。だから無視してる。通学はともちゃんと一緒だから心強い。本当は家から学校まで政美ちゃんとずっと一緒が良かったんだけどな…。
Ⅲ
サイン、コサイン、タンジェント。古文、漢文、いい気分。
高校の授業は楽しい。中学までの授業は表面をなぞるだけの入門編って感じだったのが、少し深掘りされてく感じがするから。物理はちょっと難しいけど、数学同様にピシリと一本の線があって、それが分かると少しだけ、この世の真理に触れたような気がして嬉しくなる。学問は美しい。
そうして、この学校に入って良かった。こんな事を言っても私を笑う人はいない。
「分かる~!オイラーの公式って美しいよな。痺れるわ~。フィボナッチ数列も大好き♪」
私よりこじらせている人もたくさんいて、知らずに笑みが零れる。彼らはみんな大真面目。好きな事を追及してたらハマってしまい、周りに理解者がいなかった人が多いが、この学校では仲間がいる。理解してもらえるようになって嬉しい、というのが大半だ。知る事を楽しいと思う生徒が多いので、先生も熱が入りがち。それで休み時間が減る事も多いが、それもまた楽しい。中学までは、授業中に喋ってる人達や、テスト勉強をしてると邪魔しにくる人達がいて辟易したけど、ここではそれが無い。思うに、勉強がつまんなくて他人の足を引っ張るしかする事がない人達だったのだろう。そういう意味では、進学校は自分がやりたい事ばかりで忙しい人達ばかりだから、いじめとかがないのが楽だ。私もそうだけど、多分、他者にあまり関心がない人が多い。自分の世界にいるのが楽しい。そうして、たまにその世界を見せっこして情報交換してアップデートをしていく関係。
現代社会もこれまではただ、社会の仕組みを学ぶだけだった。でも、ここではディベートが盛んだ。面白かったのは「戦争反対」と「戦争賛成」について討論した事だ。これまでは、「戦争は多くの命を奪うから、してはいけません」としか教えられてこなかった。それを「戦争賛成」の立場で意見を言うのだ。何故、この世から戦争がなくならないのかを考えさせられた。テストは記述方式で、事細かく採点される。書いたものに、先生が私見を書き込んでくれるのも読んでいて楽しい。一回、皆に同じ事を書いているのかと思って友達に見せてもらったら全然違った。先生って、大変な職業だな、って思って尊敬した。
そんな風にして、地元の市中心にしか生きてこなかった自分の世界を少しずつ広げていった。世界は、好奇心をくすぐる物で溢れている。
Ⅳ
「皆川。良かったら帰りにハンバーガーでも食いながら、一緒にゲームしない?」
帰り支度をしていたら、貴志君に声を掛けられた。
「えっと…。今日はともちゃんとCD見に行く約束してるから…。」
「そっか…、残念。じゃ、今度都合のつく時にでも一回、一緒にやろ。とりあえず今日はフレンド申請だけしていい?」
「あ…。うん。よろしく。」
アプリを開いて、ID登録。フレンドに「ユーマ」が追加された。
「ユーマ?」
「あ?うん。だって、俺、貴志悠馬だから…。」
「…そうなんだ…。」
「皆川、ひっでぇ!俺の自己紹介全然聞いてなかったな?」
「えぇ~。自分の番が回ってきたら何を言おうか考えてて、他の人のを聞いてる余裕が無かったんだよ…。」
しどろもどろで答えると、ともちゃんが「麻美、帰ろ」とやって来た。
「バイバイ。」
「おう!また明日。青木も気をつけて帰ってな。」
「うん。じゃ~ね!」
手を振って、貴志君と別れる。教室を出る時に「カワイコぶっちゃって…」って言う小さな声が聞こえた。胸がチクリと痛くなる。こんな時、政美ちゃんが傍にいてくれたら良かったのに…。
「――麻美!」
下駄箱で名前を呼ばれて、ハッとした。
「あ…。ゴメン、ともちゃん。考え事してた。」
「また、政美ちゃん?」
「うん…。私はさ、政美ちゃんがいないと全然ダメなの。でも、政美ちゃんにとっての私は、いなくても大丈夫な存在なんだろうな、と思うと…ちょっと凹む。」
「そんな事無いでしょ?政美ちゃんだって、麻美の事好きでしょ?」
「そうかなぁ?思えば昔から、私が「政美ちゃん政美ちゃん」言って、いろんな事に付き合わせてた気がするよ。私は、ヘアアレンジとかするのが楽しいから、雑誌見て『カワイイ!』と思ったら、ママに言って、麻美ちゃんの髪の毛でやってもらって、それを見て自分でも出来るようにしてた。お菓子を作るのも政美ちゃんと一緒がいい、っていつも付き合わせてたけど、本当は政美ちゃんはそういうの好きじゃないかもしれない…。政美ちゃんはパパの書斎の本棚を漁ってる時が一番楽しそうだもん。パパと二人で、私には良く分かんない話をしてる。」
「でたよ~!こじらせてる~ぅ!」
「だって、私達双子なんだよ。気になるじゃん。あ~あ!昔は何でも政美ちゃんとおんなじだったのに、どっこで差がついちゃったんだろうなぁ…。」
「そんな事言ってもさ、この高校で同中から来てるのうちら二人だけじゃん。麻美が双子だって、この高校の生徒は私以外知らないんだよ。もっと、自分を出していきなよ!」
「自分を出す、ってどうやって?」
「麻美のやりたい事をやってみればいーじゃん。さっきの貴志君とはどうなのよ?ゲームの話で気が合うなら、付き合っちゃえば?」
「つ、付き合うとか…。そんなの飛躍しすぎだよ!ゲームの話してただけだし!」
「そ~ぉ?でもさ、うちら、花のJKになったんだよ?カレシだって欲しいと思わない?アオハルしたいじゃん!貴志君、カッコイイじゃん!麻美だってカワイイし、お似合いだと思うけどなぁ~?」
「そういうんじゃない!それに、さっき聞こえた。「カワイコぶっちゃって…」って。そういう風に…他の女子に目を付けられる方が私はヤダから、彼氏なんかいらない。彼氏なんかより、こうやってともちゃんと帰りにお店に寄ったりする方がずっと楽しいもん!ともちゃんと一緒がいい。」
「やだ~、何この子!カワイイ!」
そう言って、私をぎゅっとしてくるともちゃん。ともちゃんは政美ちゃんの次に好き。私の傍にいて、私を守ってくれるお友達。
だけど、女の友情は脆い、って知った。二週間後、ともちゃんに彼氏が出来た。
「ゴメンね~、麻美!今日からはカレシと一緒に帰るから!朝は一緒に行けるけど、帰りはバラバラで帰ろ」って言われた。凹んだ。ともちゃんは、私よりも彼氏の方が大事なんだ…。でも、そうだよね。アオハルしたいって言ってたし。駄々をこねてもダメだって知ってるから「うん、いいよ。彼氏によろしく。また、明日ね!」って明るく言って一人で帰った。途中で本屋に寄った。集めてる少女漫画の新刊の発売日だったから。少女漫画ではさ、平凡な女の子の元に、カッコイイ彼氏が現れるけど、現実ではそんなのそうそうないよね。私の知ってる一番「カッコイイ」のは政美ちゃんだしね。そんな事を思いながら、ぼんやりと新刊をチェックしてたら、どしん!と誰かがぶつかった。
「あ…。ごめんなさい…」
咄嗟に謝ったけど、謝った後に『ぶつかったのはそっちなんだから、そっちが謝るのが筋じゃない?』って思ったけど、言えなかった。もういなくなってたし。とりあえず、集めてる漫画の新刊を買ったら、書店を出る時にブザーが鳴った。
『なんだろう?』って思って、そのまま通り過ぎようとしたら、すごい勢いで店員さんがやってきた。
「ちょっとこちらまで来てください」って。なんだろう?
店員さんがいきなり、私のサブバックを覗くからビックリしたら、中から知らない本が出て来て、もっとビックリした。
「お客様。こちら、未会計品のようなんですけど…」って言うけど、身に覚えがなかったので頭を振った。膝がガクガクして、上手く言葉が出てこない…。
「あ、あの…。わ、わ、私、知りません…。」
かろうじて、言葉を絞り出す。
「まぁ、いいから、ちょっとバックヤードまで来てくれる?」
そう言って、強引に腕を引っ張られた時に「店員さん!その子、違います!俺、さっき、他のヤツがその子のバッグに何か入れたの見ました。嘘だと思うなら、監視カメラを調べて下さい」って声がした。ビックリして声のする方向を見たら、貴志君がいた。
店員さんが不審そうな顔をしたけど、「そこまで言うなら…」って、私達とバックヤードに入って、監視カメラの映像をチェックしてくれた。心臓が口から出そうで、足が震える私の手を貴志君が「大丈夫だよ」って握っててくれた。
果たして…、映像が残ってた。二人組がぶつかった時に、私のサブバッグに何かを入れた不審な動きがバッチリ映ってた。
「これは…。確認もせずに大変、申し訳ないことをしたな…。ごめんね、お嬢さん。思えば、お嬢さんはさっき、ちゃんと会計してたもんね。万引きをするようなコじゃないって思って、もっと丁寧に話を聞けばよかった。申し訳ない…。最近、万引きが多いから「またか!」と思って、手荒な対応をしてしまって、本当に申し訳なかった…。」
パパと同じ位の歳の店長さんに深々と頭を下げられた。
「だ、だいじょうぶです…。」
誤解が解けてほっとしたけど、怖かった。なんで私がこんな目に…。
「おっさん!JKがこんなにビビってんだぞ。口だけで済ますなよ!さっきの現場、俺以外にも見てる奴がいた。「冤罪でした」って学校にも言っておいてもらわないと、こいつ…、皆川が明日から言われもない万引きのせいでウワサされるかもしんねーだろ!」
「そ、そうだね!とりあえず、学校には電話で報告しておくよ。あと…。売れ残った雑誌の付録で悪いけど、お詫びの気持ちで受け取って。本当にごめんね。」
そう言うと、小さい段ボールの箱をいくつかくれた。〇〇ポーチ、とかって書いてあるのが見えたけど良く覚えてない。安心したら、腰が抜けちゃって立てなかったから。
ママに電話して、車で迎えに来てもらった。店長さんがママに平謝りしてた。ママは、貴志君に沢山お礼を言ってた。貴志君が「じゃあな」って言って帰って行った後、車の中でママに聞かれた。
「あの男の子、麻美ちゃんの彼氏?」
「ち、違うよ!クラスは一緒だけど、そんなんじゃない!今日、たまたま助けてもらっただけ!」
「そうなの?じゃ、お礼をしないとね。帰ったら、ママと一緒にクッキーでも作りましょ♪」
「そ、そういうのは、今度でいい!」
ハンドルを握るママは楽しそうだけど、私はそれどころじゃなかった。
暗くなってから帰った来た政美ちゃんに、今日の一部始終を詳しく話した。
「ふぅん…。そんな事があったんだ。麻美、大丈夫?」
「うん…。でも、明日はちょっと学校に行きたくないな…。」
ぽつりと出た本音。
「そう…。明日は休んで、おうちにいたら?」
「でも…。ママがなんて言うかなぁ…。」
「大丈夫。私がママに言っておく。」
そう言うと、政美ちゃんは私の頭をそっと撫でて、リビングへと向かった。しっかり者の政美ちゃんが私は大好き。あんな風に私もなりたい。
そんな事を考えてたウトウトしてたら、政美ちゃんが戻ってくる前に私は政美ちゃんのベッドで眠ってた。
Ⅴ
「今日は学校を休みます。」
ママに電話を入れてもらったから、一安心。
制服を来て電車に乗る。久し振りに会う友達に「昨日、本屋で酷い目に遭った」と伝えて、反応を見る。
「マジで?そんな事になってたの!うわ~、すごい!貴志君、王子様みたいじゃん!いいじゃん!守ってくれるカレシ!私だったら、惚れちゃうわ~。もう付き合っちゃえば?」
ニヤニヤしながらそんな事を言う友達に少しの嫌悪感。でも、話を合わせる。
学校に着いたら、既にちょっとした騒ぎになっていた。
「お!皆川じゃん!昨日、大変だったみたいだな!」
「ちょっと~、あそこの本屋サイアク~!皆で買うのボイコットしない?」
「それは困る!俺の週ジャン!」
「私の模型ディアゴも既に予約済だよ~!」
そんな中、「まぁまあ、誤解も解けたし、ちゃんと謝ってもらったんだし、もう大丈夫だよな?皆川」って言ってくる馴れ馴れしい男がいた。
「でた!王子様じゃん!」
ともちゃんが小声で言ってくる。
「き、昨日はありがと。」
小さく言って、うつむきがちに席に座る。チャイムが鳴って、先生が入って来る。出欠確認も騒がしい。そんな中、「あ~、昨日はうちの生徒が万引きの冤罪をかけられたようだが、最近は万引き被害が多くて書店も困っているという。疑われるような行動や、紛らわしい行動は控えるように」という話があった。何それ!こっちが悪いみたいじゃん!ムカムカした。
授業時間も騒がしい。先生が板書をしてる時に、小さな紙飛行機が飛んできた。飛んできた方向を見ると窓際の貴志君がウインクをした。こっそり開くと「今日の帰り、奢るからなんか食べて帰ろ」と書いてあった。丁度いいや、と思った。
長かった授業が終わって、帰りのHRが終わった。
「じゃあね~、麻美!ごゆっくり。」
ニコニコしながら、手を振ってともちゃんが帰って行った。私はさっさと教室を出て、下駄箱に向かった。後ろから貴志君が「皆川、一緒に帰ろ」と追いかけて来た。
「こないだ、バイト代が入ったから、今ちょっとリッチなんだ。皆川は何が食べたい?」
良く分からなかったから、「タピオカ」と答えた。
「オッケ~。そしたら、大手じゃないんだけど、裏通りにあるトコ知ってるから、そこでいい?」
「うん。貴志君に任せる。」
そう言って、着いて行った。繁華街を抜けて、入った裏通りに、およそタピオカなんか出しそうに無い店があった。
「カラオケ屋じゃん、ここ。カラオケ・ジョンって書いてある。」
「ま~、ま~、タピオカも飲めるから!」
そう言うから、一緒に行った。実際、タピオカはあった。コンビニで売ってるのとおんなじ品だったけど。
「ハイ、タピオカ!今日はこれで。また今度、ちゃんとしたの奢るからさ。俺、一回、ちゃんと皆川と話してみたかったんだよね~。昨日、大丈夫だった?皆川、可愛いからさ、ああいう目に遭ったりすると大変じゃん?だからさ…。その…。良かったら、俺と付き合わない?」
すぐ隣に座って、距離を詰めてくる男に身の毛がよだつ。
「こ、断ります…。」
「うわっ!つめて~!昨日みたいな目に、また遭ってもいいの?俺がいたら、安心だよ?」
そう言って、ぎゅっと手を握ってくる。固まってたら、肩を抱き寄せられた。
「な~、いいじゃん。麻美ちゃん、俺と付き合おうよ?そんで、一緒にイイコトしよ?」
そう言って、本人的にはイケてるウインクをして、私の顎に手をかけて来た時に、堪忍袋の緒が切れた。
「お断りだって、言ってるだろ!」
バシンと手を振り払って、睨みつけてやる。まさか、反撃にあうなんて思っても無かった男に向かって言ってやる。
「どうせ、昨日の出来事だって、お前が仕組んだんだろ!防犯カメラに写ってた二人組とはどういう関係?吊り橋効果でも狙ってた?」
「は?何の事?」
「とぼけたって無駄!」
私はそう言って、昨日の防犯カメラの映像をプリントアウトした紙を鼻先に突きつける。
「キャップを被ってるから顔が良く見えないけど、そこに映ってるのは、お前の兄の貴志一馬と友人のKさんだってな。あれから、本屋さんに行って、映像をスマホで撮ってプリントアウトさせてもらった。色んな人に聞いて回ってたら、飲み屋から出て来た大学生のグループが教えてくれた。「今日のカズマじゃん、これ。」って。詳しく話を聞いといた。カワイイJKを嵌める計画を立ててる、ってね。「僕には、まだわっかんね~かな?」って笑いながら言われたよ。未遂で終わって残念だったな…。」
そう言って、カツラを取ったら、男がビックリしてた。
「え…。え…?皆川…?…じゃない…?」
「好きな女の見分けも出来ない男に大事な妹をやれるワケがね~だろ!」
そう言って、大事な所を蹴り上げてやった。
「昨日、麻美が味わった恐怖はこんなもんじゃない!PTSDとか発症したら、訴えるつもりでいるからヨロシク。悪いけど、今この会話もリアルタイムで友人に繋がってるから、何かあったら、すぐに増援が来ると思ってくれ。勿論、会話も録音してるから、そのつもりでヨロシクね、貴志悠馬君!」
高らかに言って、スマホを取り出す。GPSも勿論ONだ。
「あ~、こちら、フィボナッチ。会話は勿論、録音済み。昨日の書店に二人組の情報も流しておきました、4649!」
スマホから友人の声が聞こえる。それを聞いた貴志君は肩を落とした。
「皆川…。双子だったなんて、聞いてねぇ…。」
「ともちゃんから聞いてなかったのかよ?ともちゃんの彼氏はお前の友達だろ?」
「そうだけど…。最初は皆川から邪魔な青木を引き離すつもりで、アイツに声を掛けさせたのに、今じゃアイツらはラブラブだからさ…。俺なんか眼中にねぇよ。」
「そっか…。ともちゃんまでグルだったら、どうしようかと思ってたけど、それ聞いて安心したわ。これに懲りたら、もうつまんね~小細工すんなよ!」
そう言って、私はカツラを被り直す。スカートをはいたのは小学校以来だ。もうこんな格好は嫌だ。さっさと家に帰ろう。
「あの…、この事、皆川には…」
「言わないよ。私が言わなかったら、お前は麻美の中で「いいやつ」で終わる。それ以上の関係は望むな。なんかあったら、さっき録音したのを各所にバラす。お前の兄にも当分、あの書店には近づくな、って言っときな。」
そう言い捨てて、カラオケ屋を出た。まだ繋がってる電話に向かって話す。
「おいら、オイラー。作戦は無事に終了。協力、感謝する。」
「こちら、フィボナッチ。本日のノートのコピーも取っといたので、明日渡す。本日の作戦の詳細は明日キボンヌ。」
「りょ。」
通話終了。
昨日、帰宅してから麻美の気を紛らわそうと明け方まで一緒にアプリゲームをやったから、まだ寝こけてる筈の麻美が目を覚ます前に、帰って制服を元に戻しておかないと!
私は駅に向かって、走り出す。足元がスース―する。久し振りにはいたスカートだからだ。私の足が細くて良かった。毛深くなくて良かった。私と麻美がそっくりで良かった。麻美が困った時は、私が守ってあげる!だって、私達は双子。入れ替わるのは、得意なんだ。だけど、そろそろきついかな?早く麻美を守ってくれるイイ男を探さないとな。
エピローグ
ガタン。バタバタ…。
なんだか、騒がしくって目が覚めた。カーキ色のカーテンが目に入る。若草色の私の部屋とは違う…。そこで、思い出した。そうだ!昨日、一回政美ちゃんのベッドで寝ちゃってたら二十二時過ぎに政美ちゃんに起こされたんだった。それから、えぇと…。そうだ、政美ちゃんが「一緒に麻美の好きなアプリゲームやろう」って言ってくれたから、嬉しくなってずっとやってたんだった。どうやら、そのまま寝落ちしていたらしい。スマホを手に取る。十七時をとっくに過ぎていた。寝すぎた…。
時間が表示されているスタート画面は、昨日政美ちゃんが始めてくれたゲームでお揃いコーデを決めた私達双子のアバターのスクリーンショット。えへへ、嬉しいな。これで、ゲーム内でも政美ちゃんと一緒だよ。
ねぇ、神様。告白します。
私は、双子のお兄ちゃんの政美ちゃんが大好きなんです。
いつか、政美ちゃんが彼女を連れてくるまでは、私が政美ちゃんの一番近くにいられる女の子でいてもいいですか?でも、あと三年は大丈夫かな?
だって、政美ちゃんの高校は男子校だもんね!
ドアがノックされる。
「麻美、いい加減、起きてる?コンビニでシュークリーム買って来たから、一緒に食べよ?」
「うん!今行く!政美ちゃん、今日は学校早かったんだね!」
「うん!そんな日もあるよ。」
<終>




