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なぜ

 はじめてフィルストームと会話したリリアナだったが、あっという間に、慌ただしく王城に向かっていった。仕事が忙しく、自宅に戻れなかったというのは間違えないらしい。


 何かしらの理由があって自分と結婚したものの、私がいるせいで邸に戻れないなんてことがあるかもしれないと思うと申し訳ない気持ちがあったので少しだけ安心した。


 少し話しただけでフィルストームが気持ちの良い青年であることはリリアナにもわかった。そうなると、今まで考えないようにもしたし、気にもとめないということもあったが、何故彼が私とあんな結婚をしたのか急に気になり始めた。


「ねぇ、ジャンさん?何故フィル様は私と結婚されたのでしょうか?」

「リリアナ様、私めにはそれにお答えする権限がございません。それをお話してリリアナ様に許しを乞うのは旦那様のお役目。この100日間分罰を与えていただいて結構でございますよ」

 玄関に取り残された私は後ろに控えていたジャンに声をかけると、いつもの穏やかな優しい微笑みのはず。それなのに背筋が冷え冷えとする……ような錯覚に陥った。

 なんか怖い。そしてなぜだかわからないけどフィルの無事を祈った。なぜかはわからないけど。ただ、こんな暮らしをさせてくれているフィルには感謝しかないので、罰なんてもってのほかである。


「罰なんてそんな。私はここにおかせていただいて、充分過ぎるくらいの生活をさせていただいていますから」


「リリアナ様はここに嫁がれ、もう既にイングリットの家の奥様。当たり前のことなんですよ。旦那様は殿下にお仕えしている護衛騎士でございます故、機密も多いものでございます。それに現在は殿下の婚約者をお探ししているものですから、いろいろと、それはいろいろと忙しくしているようです。どうかお許しいただければ幸いでございます」


 ジャンは胸に手を当てて小さく礼をした。


「ふふ、ジャンさんってば、罰を与えろと言うくせに、許してあげてなんて……言っていることがあべこべだわ」


「これはこれは。相反しているようで、紛れもない私の本心なのですよ、本当に」


 その後はジャンにエスコートされ、食堂へとリリアナは向かった。朝食をとった私は庭の散歩をしながら、ちらほらと出てきた雑草を抜いて過ごす。大きな庭のひと区画だけ庭師に許可を得て、リリアナだけの花壇を作って貰ったのだ。そこには庭師のイワンから譲り受けた色とりどりのチューリップの球根を植え、芽が出るのを今か今かと待っていたが、花が咲く前に私はお役御免になるかもしれない。そう思うと涙が滲んできた。


 ひとつため息をつくと、庭の隅で下働きの男女がヒソヒソと内緒話をしているのが聞こえてきた。私には気づいていないらしく、少しずつ声が大きくなっている。


「それにしても旦那様ってひでーよな。王太子のシャルサス殿下の護衛騎士とかいってさ〜!忙しい忙しいってリリアナ様のことあんな蔑ろにしてさ!」

「二言目には殿下が!殿下が!って言っているけど、城下町でなんと言われているか知ってる?アナスタシア王女殿下のお気に入りって噂になっているわ。シャルサス殿下のお付きの騎士は仮の姿で、王女殿下にベッタリなんですって」

「じゃあなんでリリアナ様とあんなに急いで婚姻なんかするんだよ!?リリアナ様が可哀想じゃねーか!」

「なんでも国王陛下が王女殿下と旦那様との結婚に反対したらしいよ。だって王女殿下には他国の王子様やら公爵令息やら婚姻相手の候補がわんさかいるらしいのね。第一候補は隣国の王太子らしいからなぁ、護衛の騎士とイチャコラしてたら外聞が悪いでしょう?だから王女殿下と今まで通り接触したいなら結婚しろと旦那様に迫ったらしいの」

「偽りの結婚をしてでも王女殿下と逢い引きしたいってか……」

「城下町では王女殿下と、護衛騎士の切ないラブストーリー!ってことで大盛り上がりよ。それを題材にした小説やお芝居なんかも流行ってるのですって」


 リリアナはやっと理解した。自分がフィルと婚姻することになったのは、フィルがアナスタシア王女殿下と恋仲になり、国王陛下に咎められたからであったのだ。独身の王女殿下とこれまた独身のフィルが親しくしていれば、隣国と婚姻を結ぶ上での障害になるだろう。ふたりは身分違いの恋をして、それでも一緒にいる為にこの道を選んだのだ。


(なんてことなのかしら。でも私が出来ることといえばおふたりの仲を陰ながら応援させていだだくことくらいだわ。それにもうそろそろ……と言っていたもの。もしかしたら旦那様と王女殿下の婚姻を国王陛下がお許しになるのかもしれないわね)


 リリアナの頭の中はフィルとアナスタシア王女殿下の恋物語でいっぱいになっていた。



 リリアナが本当のことを知ることになるのはまだまだ先のお話。まだもう少しかけ違えたボタンのようにチグハグなふたりは、まさかあんな事件を迎えることになるのは露とも知らない。



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