私にはじめての家族ができました
「リリアナ様、今日のティータイムには旬のリンゴでアップルパイを焼きますよ!楽しみにしていてくださいね」
「庭のバラが今見頃ですのじゃ、リリアナ様もあとで見に来ておくれ」
「今日のお風呂はリリアナ様がお好きなオイルをたくさん使っていますから楽しみにしていてくださいね」
「リリアナ様、この帳簿の間違えに気付いてくださって助かりました」
あれから3か月。
リリアナはすっかりこの屋敷に馴染み、この屋敷の使用人と打ち解けていた。
最初は散々な結婚式を挙げることになったリリアナに対する同情心が大きかった。しかしリリアナの気遣いや優しさ、使用人に対する態度などを通して使用人全員がリリアナのことを大好きになってしまった結果である。
それもその筈、リリアナは実家で使用人のように働かされていたので使用人に対しても当たり前のように必ず労をねぎらった。
時には庭に水撒きをし、泥まみれになりながら雑草抜きを手伝った。庭師のイワンは気難しい男であったが、すっかりリリアナを孫のように可愛がった。そしてそれをリリアナは嬉しがるものだから猶の事可愛がられた。
手が空いていれば侍女や下働きの者と掃除をすることもあったし、洗濯物を畳むこともあった。誰かが熱を出せば看病したし、食事やティータイムも一人きりでは寂しいと手の空いた使用人と同じテーブルにつくことを望んだ。
「まるでみんなが家族みたいで私は本当に嬉しいの」
いつもリリアナはそう言って心から嬉しそうに微笑んだ。
もちろん伯爵夫人としての業務も忘れなかった。もともとエインズフォール男爵家でもこなしていた仕事でもあったため、家令のジャンに指導を受けながら難なく仕事をこなした。リリアナはこの3か月でイングリットの屋敷に必要不可欠な人物になっていた。常に生家で悲しい思いをし、家族の愛というものに飢えていたリリアナは生まれて初めて幸せだと思った。イングリット邸の使用人達を家族のように思っていた。
だからあの惨めな結婚式の事も、自分が結婚した夫のことすら、うっかり忘れていたのである。
何度か夫のいない理由について聞こうとも思ったが余計な詮索をして不興を買いたくはなかったし、聞いたところでどうすることも出来ない。リリアナは何も聞かないことに決めた。
使用人、特に家令のジャンはフィルストームのことやなぜ帰ってこないのか。なんであのような結婚式になったのか、何度も話そうとしたがそのたびにリリアナの目に悲しみが広がり笑顔がスッと消えていくのを見るともう何も言えなくなってしまった。