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ひとりぼっちの結婚式

 ここは王都の大聖堂。荘厳な結婚式が執り行われる予定である。

 本日の主役は王太子の側近の近衛騎士と伯爵家のご令嬢。

 それは愛し合う2人の誓いの儀式の筈であった。


「このまま一人で結婚式はやっておいてくれ!私はもう行く!」


 神父の手元から婚姻誓約書を奪い取り乱雑なサインをすると左手で握りしめ走り去るのと同時に神父の胸に押し付けた。


 呆然として、ゆっくりと瞬きをし、もう一度目を開けた時にはもう夫の姿はなかった。

 流行遅れの着古したウエディングドレスに身を包んだ少女はバージンロードのど真ん中でただひとりで佇んでいた。薄茶色の癖のある髪の毛には艶がなく、ほっそりとした体つきは肉感や色気はない。紫色の瞳には希望の輝きは映らない。顔立ちは多少は華やかだが今まで化粧も化粧品の類を一切持ち合わせていないその少女は全体的に野暮ったいと言わざるを得なかった。


 目の前にいるひどく狼狽した神父の手元からは握りつぶされた紙切れが零れ落ち、ウエディングドレスの裾元へひらりと舞い降りてきた。


 その紙切れには(婚姻誓約書)と書いてあり、右の端には殴り書きで「夫フィルストーム・イングリット」と掠れたインクで書かれていた。


「ナナリア様……こちらをどうぞ」


 目の前の神父は紙屑のようになった婚姻誓約書を拾い上げ、手で優しく撫でて伸ばしてそっと少女に手渡した。ナナリアと呼ばれた少女はその紙切れをしばらく眺めた後、震える手で上等な羽根ペンを持つとこう記した。


 妻 ナナリア・エインズフォール


「これで式は終わりで良いのですよね?」


 そう神父に聞くと静かに頷いた。力なく礼をし、たった1人で数刻前に歩いたバージンロードを引き返す。本来親族やゲストが座るであろう席には誰もいない。開かれたままの重い木の扉を通るとふいに乾いた笑みが溢れた。大聖堂から見えた空はどんよりとした曇り空で今にも雨が降りそうだった。


 こんなに哀しく、惨めな結婚式は聞いたことがない。

 新郎不在のたった1人の結婚式であった。人間はこんな時に笑えてしまうものなんだと知ったナナリアは呟いた。


「やっぱり私には家族なんて望めないのね」

リハビリで書き始めました。


フィルストームさん……悪い人じゃないのでもう少しお待ちください!


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