【第一章】灘 珠希 ④
◇第四話◇
翌日の放課後。僕は担任の小林先生に話があると教卓まで呼ばれていた。
「灘。君が部に入ってくれて嬉しいよ。よろしくね」
小林先生の口から発せられた言葉に最初僕は何を言っているのか理解できなかった。
「僕が部活に入った? 何かの間違いじゃないですか? 僕は帰宅部ですが……」
「何言ってるんだよ。7限目寝てたから寝ぼけてるのか? 確かに昨日君の入部届を受理したぞ」
「僕出してないんですけど……」
「あーそうだった! 部長の柊が代わりに出しに来たんだったな。」
柊? 誰だ? 僕はそんなやつ知らないぞ。
いやちょっと待て。僕はこの名前に聞き覚えがある……ような気がする。
思い出せ僕! 部長……柊……部長……部長会……部長会の柊!
あ。思い出した。昨日の部長会の呼び出しを栄介とくらってた人の名前だ。
しかし、僕とその子に関係はない。まじで誰だよ。
「僕その人知らないんですけど…」
「酷い言い草だな。まあいい。とりあえず、今から部室に行くぞ。」
「いや、だから部活入ってませんて」
「まあまあ。とりあえず行くぞ」
話通じねー。この教師には耳がついてないのか?
と、言いたいところだがこれ以上言っても無駄だろうと諦め、小林先生について部室に仕方なくついていくことにした。
部室に行くため先生の後ろを歩きはじめた僕はとある疑問を問いかけた。
「ところで何部なんですか? それすら知らないんですけど」
「ああ、文芸部だよ。君は本を読むのがだからピッタリじゃないか」
「なんでそんなこと知ってるんですか……」
「知ってるに決まってるだろ? なんせ君の担任になって2年目だからな」
先生は、ドヤ顔でこちらに振り向き、決まったという感じを醸し出してくる。
非常に腹が立つ顔だ。
しかも小林先生は、女性に疎い僕からみてもかなり美人なのでドヤ顔もそのうざいドヤ顔も非常に可愛いと言えるだろう。
それがより一層むかつく。これはただの自己評価十点中二点に生まれてきてしまった僕の僻みだから受け流してくれて構わないけれど。
……僕も美人に生まれた変わりたい。
そんな僻みごとを言っていると先生の足が止まった。
どうやら着いたようだ。
「なん……だと?」
顔上げるとそこは昨日昼休みに空き教室を探すために訪れた別棟の入り口の前だった。
「部室はここの一番奥だ。行くぞ。」
「は、はい」
ん? 待てよ。別棟の一番奥って……まさか……。
「ちと、邪魔するぞー、柊」
「はい! どうぞー」
ドア越しにどこか聞き覚えのある陽気で明るくて可愛らしい声が聞こえてくる。
……そういう展開ですか。
昨日といい今日といい……
「僕はラブコメの主人公か!」