表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の人生に彩りを  作者: 七瀬 湊
3/6

【第一章】灘 珠希 ③

◇第三話◇


「どこか空いている教室はないかなー」


 栄介と別れた後、僕は空き教室を探して別棟に来ていた。


 思い返せば別棟に入ったのは初めてだ。


 「ヤンキーとかがたむろでもしてたらどうしよう……」


 そんなことを考えながら一部屋一部屋鍵がかかってるかを確認しながら廊下を歩いて行くとあっという間に端まで来てしまった。


 「やはり別棟の空き教室で昼休みを過ごすなんてのは、小説や漫画、アニメの世界だけだよなー」


 と口にしドアノブに手をかけると、


 ガチャ!?


 「え、空いてる……」


 なんと鍵が開いていたのだ。


 なぜ開いている? 誰か居たらどうしよう? 怖い人だったら? 今300円しか持ってないよ?


 空き教室を探していたはずの僕だが、いざ見つけてしまうとなぜかとても大きな不安を抱き、心臓の鼓動が加速した。


 しかし、進んでみないとどうにもならない。


 「よし」


 僕は再びドアノブに手をかけ少し、恐る恐る扉を開き、中に足を踏み入れた。


 「誰もいない……。はあ、よかった」


 僕は、誰もいない教室の入り口で安堵の笑みを浮かべた。


 しかし、安心したのも束の間、次の瞬間僕の鼓動がもう止まってしまうのではないかというほどに加速する。


 「なーにしてるの?」


 「わあ?! びっくりした……」


 突然、元気な女の子に思える陽気な声で背後から話しかけられたのだ。


 僕の心臓は加速した。


 女の子に話しかけられたのは何年ぶりかな?


 そう、あれは去年の夏のことだ。


 僕はあの頃から学校に来た日の休み時間は自分席で本を読んで過ごしていた。


 そんな僕に気を遣ってよく栄介が僕の席に来てたわいもない話をしてくれていたのだが、それをよく思わない女子生徒に目をつけられ、終いには昼休みには校舎裏に呼び出され、「あんた栄介君とどういう関係なの?」だったり、「あんたがいると栄介君と話せないからどっか言っててくんない?」などという脅しを受けたのだ。


 これが多分最新の家族以外の女の子と話した記憶である。


 ああ。自分のことながら僕可哀想だな。


 「おーい! 聞こえてますかー?」


 振り返るとラノベの挿絵に出てくるような大きな目をした美少女がニコニコしながらこちらを見ていた。


 鼓動が速くなると同時に、僕は頭で考えるより先に謝罪の言葉を発していた。


 「ご、ごめんなさい。ごめんなさい」


 「なんで謝ってるの? 君何にも悪いことしてないよね?」


 「い、いやなんとなく、で、です」


 別棟の空き教室で急に美少女に話しかけられるなんていう非日常なラブコメ展開に緊張しカミカミになった僕の言葉に彼女はゲラゲラと少女のように笑っていた。


 「そんなに笑わなくってもいいじゃないですか?」


 「ごめんね。でもおかしくってさ。噛みすぎでしょ。」


 彼女は口では謝ってはいるものの、多分全く反省はしていない。


 その証拠に彼女は、笑い終わるとすぐにゲラゲラ笑い始めた。


 そんな彼女の笑顔は少し可愛くて、惚れそうになる。


 もう、これ以上僕が惚れる前に早くそのあどけなくて可愛い笑顔で笑うのはやめてくれ。


 「じゃあ、僕はこれで」


 「ちょっと待って。君、クラスと名前教えてよ?」


 彼女は突然こんなことを聞いていた。


 普段の僕ならそのまま無視して帰るところだが、そんな純粋無垢な表情で言われたら無視なんてできない。


 「2年5組20番、灘 珠希です。それじゃあ」


 「灘 珠希君か。うん! 覚えたよ。またね!」


 そうして、僕は立ち去ったのだが、明日の放課後、この時安易に個人情報を伝えたことを後悔することになる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ