【第一話】灘 珠希 ②
◇第二話◇
「よ! 久しぶりだな、珠。最近は家で何してんの?」
4限の終わりを告げるチャイムがなり、教室内が騒がしくなってきた今この時、僕に話しかけてきた爽やかなイケメンは栄介という僕の幼稚園の頃からの幼馴染であり、僕の数少ない友人だ。
「ああ、栄介か。まあ普通だよ。相変わらず小説ばかり読んでるかな」
「そうか。まあ元気そうで良かったよ。それにしても珠は本好きだよな」
栄介が爽やかな笑顔でそう言った。
僕は多分結構な読書家である。
そんな僕は現実の世界よりも小説の中の世界の方が色鮮やかに映るように感じていた。
だからだろうか?
僕が現実の世界で楽しむことを諦めてしまったのは?
そして、僕が最近は家にこもって灰色のこの世界から目を背けてしまうのは?
しかし、そんなことを考えてるうちにまた自分の世界に入り込んでしまって周りが見えなくなっていた僕は、栄介に肩を叩かれて灰色の世界に連れ戻されてしまう。
「おい、聞いてるか?そうやってすぐ自分の世界にいっちまうクセどうにかしたほうがいいぜ」
栄介はそう言ってため息をひとつ漏らした。
それと同時ごろに近くの女子たちがこちらを見ながら話している声が聞こえてきた。
「ねえ、見てよ。あのインキャ君、栄介くんがせっかく話しかけてくれてるのに無視とかありえなくね?」
「それな。なんで栄介くんはあんなやつとしゃべってるんだろ?」
おい、聞こえてるぞ。
悪口ならもっと本人に聞こえないところで言ってくれないかな?
ごめんね、僕みたいな学校もサボり気味の冴えないインキャがサッカー部のエースでイケメンの栄介と話してて。
「おい珠! たくっ、聞いてんのかよ。まあいいや、とりあえず学食行こうぜ」
「ああ。そうだね」
◇◇◇
「珠、さっきの奴らのこととか気にすんなよ」
そう言ってカレーを少年のように頬張りながら栄介が言った。
「さっきのこと?」
僕は購買で買ったチョココロネを口の中に放り込み返事をする。
「いや、その、あれだよ。教室で何人かの女子がお前の悪口みたいなの言ってたろ?」
栄介はらしくもなくモゴモゴした口調でそう口にする。
それは僕に気を遣ってのことだろう。普段、天真爛漫で元気な青年がこうもおどおどしてるとかわいく見えてくる。
「本当に栄介はいいやつだよね。僕は気にして無いから大丈夫だよ」
栄介は「そうか」と爽やかな笑顔で呟きまたカレーを頬張り始めた。
その時、一件の校内放送が流れた。
内容は、
「部長会議に参加予定の生徒が二名まだ来ていません。今から呼ばれた生徒はすぐに会議室まで来て下さい。サッカー部部長、茨木 栄介君。文芸部部長、柊結衣さん。至急会議室まで来て下さい」
というものだった。
「珠、悪い。すっかり今日部長会なの忘れてた!今から行って来るわ」
そう言って綺麗にカレーを完食して彼は学食を出て行ってしまった。
彼が行った後、一人で菓子パンを食べてたのだが、周りが気になって落ち着かないのですぐに学食を後にした。
さて、どうしたものか。
教室に戻りたいところだが、今僕の机はさっき僕の悪口を言ってきた女子生徒たちに占拠されている。
僕は、少し考えて別棟の空き教室に行くことにした。
そして、この選択が僕のこの先の人生を大きく変える出会いにつながるとはこの時の僕は知る由もなかった。