【第一章】灘 珠希 ①
◇第一話◇
「あなたは人生を謳歌し、楽しんでいますか?」
もし、こう問いかけられた時、すぐに首を縦に振り、はいもしくはYESと答えられる人はどのくらいいるだろう?
その答えは分からないが間違いなく全員が自信をもって首を縦に振り、はいもしくはYESと答えられるということはありえない。
なぜなら僕はこの問いかけに対して自信をもって首を横に振るからだ。しかし、僕はこの特に楽しくはないが平凡で穏やかな日々に満足していた。
なぜなら僕は高校に入ってすぐ人生を楽しむことを諦めてしまっていたから。
◇◇◇
「お兄!今日こそ学校に行きなさい。最近休みすぎだよ。」
朝から騒がしい妹に無理やり起こされ僕は目を覚ました。時刻は朝7時だ。早すぎる。絶賛昼夜逆転生活中の僕は3時間前に寝たばかりだよ。ちと起こすのが早すぎやしないかい、萌さん?
そんなことを思いつつ僕は布団に潜り、先ほどまで見ていた夢の世界に戻ろうとしたが妹の萌が僕の布団を僕から引き剥がして僕の睡眠を妨害してくる。がしかしすぐに妹の睡眠妨害は終わり静かになって部屋を出て行った。
少し拍子抜けだった。
いつもの萌ならもう少しうるさく言って来ていたからだ。
やっと兄のことを見限ってくれたか。萌が賢明な判断をしてくれて僕は嬉しいよ。
そんなことを心の中で言っていると、ドアの向こうから少し声を作ったような耳障りな喋り方で萌がこう言ってきた。
「あーあお兄残念だったね。今日から毎日学校に行ったら毎月のお小遣いアップだったのにね。しかも2000円もだよ?あーあもったいない」
それは話が変わってきますよ萌さん?
2000円お小遣いアップというのは非常に魅力的だ。現在のひと月のお小遣いが5000円だから足して7000円ということになる。
だがこんなおいしい話があるのだろか?
よく考えれば毎日学校に行くなんてのは当たり前のことだし、普通の大半の学生からすると特に苦ではないと言えるだろう。
そして僕もまた例外ではなく普通の学生である。
ただ学校に行くのが面倒くさくてサボり気味ではあるが。
しかし、僕は今すごく眠い。2000円が目の前にぶら下がっているのにも関わらず、すぐに行動に移せないでいるほどだ。
しかし、次にどうするかは5秒後に決まった。そして僕は妹がつけっぱなしにして行った部屋の明かりを消した。
「…………、よし行くとしよう」
こうして僕は3日ぶりに学校に向かった。