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伯爵令嬢ミシェルの結婚事情〜貧乏神令嬢は3度目の買い取り先で幸福な恋を知る〜(web版)【webtoon化】  作者: 水野沙彰
第2部

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5章 ラファエルの焦燥




   ◇ ◇ ◇




 その日の午前中、王城では定例の議会が開かれていた。

 議会の最中、ラファエルはずっと昨夜のうちに当たりをつけた疑わしい人間を観察していた。公爵家の当主である以上、自身への怨恨の線も捨てられないのだ。

 今日も何食わぬ顔でバルテレミー伯爵は議会場の後ろの方に腰を下ろし、うとうとと舟を漕いでいる。議会への出席は貴族の義務であり、国政を左右する場であるというのに、自分には関係ないという態度を隠しもしない。家が傾くのも当然だ。


「──アンドレ伯爵は……あれか」


 伯爵家の中でも特に商売によって大きな利益を得ているアンドレ伯爵は、前の方に座って熱心に相槌を打っている。いかにも貴族らしい装飾の多い華やかな宮廷衣装を着ており、知らない者が見れば侯爵程度の地位はあるように見えるだろう。

 今議題とされているのは、領地を持つ貴族に領民の数に応じて備蓄をすることを義務づける法案だ。これが通れば、飢饉や災害のときに飢える領民も減るだろう。

 これまでは法の定めなどなく、領地を治める貴族達がそれぞれのやり方で備蓄を行っていた。その最低備蓄量を義務づけるというのだから、場合によっては反対意見も出るだろうとラファエルは思っていた。


「最低備蓄量とはいいますが、それを保管するための設備を我が領地は保有していません。屋敷中を麦まみれにでもしろと?」


「倉庫の改修を行えば足りるでしょう。大した費用でもありますまい」


「我が家にはそうですが、皆がそうとは限りませんから」


 貴族とはいえ、領地の豊かさによって貧富の差はある。むしろ貴族であるからこそその差が歴然としているといえるところもある。

 アンドレ伯爵は、反対派の主要論者となっている。

 金に余裕があるアンドレ伯爵が反対するのは意外だとも思えるが、急な災害に困窮している家は商売のカモになるというのは邪推しすぎだろうか。

 やがて議会が終わり、皆がそれぞれの行く先へと歩いていく。

 ラファエルは最後の一人が帰っていくまで、自身の席に残り観察を続けていた。その姿を不思議に思う素振りの者もいるだろうが、声をかけてくる者は一人もいない。


「──ラファエル、何をしている」


 例外は、一人だけだ。


「殿下」


「ジェルヴェも気にしていたよ。何かあるなら、私に相談してみたらどうかな」


 顔を上げた先にいたのは、ラファエルの幼馴染であり仕事相手でもあるフェリクスだ。弟のジェルヴェはこの後すぐに別の会議に参加する予定があるため、そちらを優先したのだろう。


「個人的な、ことだから」


 ラファエルは唇を噛んだ。

 ミシェルは客人としてバルテレミー伯爵家にいる。それが事実である以上、事態は大きくできない。事件とするのであれば、せめてこれから誘拐しようとする密談の現場をおさえなければならない。

 フェリクスが苦笑して、ラファエルの側に歩み寄ってくる。


「これはね、王太子としてじゃなくて、友人として言ってるんだよ。ここは今人払いさせていて、私達の他に誰もいない。良いじゃないか、聞かせておくれ」


 ラファエルは机に肘をつき、組み合わせた両手に額を乗せた。

 深く息を吸って、吐く。

 この優しい友人は、いつだってラファエルに孤独な戦いをさせてくれない。


「ミシェルが、バルテレミー伯爵家に監禁されているんだ」


「──……は?」


 フェリクスが、らしくもなく間抜けな声を出した。

 ラファエルはどうしても手元から離せずにいたミシェルの手紙を取り出して、机の上に置く。手紙は皺だらけで、本来であればとても王太子に見せることなどできない状態だ。

 しかしフェリクスはくしゃくしゃの手紙にラファエルの感情を察したのか、すぐに便箋を取り出して読み始める。


「これは、夫人の字で間違いないか?」


「ああ」


「書かされたのか」


「おそらく。侍女も一緒にいるんだ。きっと人質にでもされたんだろう」


 フェリクスが便箋を封筒に戻す。その封筒が、俯くラファエルの視界に差し出された。


「こんなところで何をしている? 場所が分かっているのなら、取り戻せば良いだろう」


「ミシェルは、攫われるときに『客人』だと名乗っているんだ! ……迂闊に手を出してミシェルの評判に傷を付けたくない」


 強くなってしまった語尾に驚いたのはラファエルの方だった。

 相手は幼馴染とはいえフェリクスだ。失礼に当たる、と考え、いや、そもそも他人に当たるのは正しくないと思い直す。

 ラファエルが気を付けていれば、こんな状況にはなっていなかったに違いないのだ。間違いなく、他の誰でもない、ラファエルのせいだった。


「ああ……女性はその心配があったな」


 ラファエルの態度には一切言及せず、フェリクスは困ったような声を出す。それが当然であるといった態度に、ラファエルは救われた。


「それで、今影にミシェルの居場所と黒幕を探らせているんだが……現段階では、私への怨恨かミシェルへの執着か、判断がつかない」


「君も恨まれている自覚はあるんだね」


「この立場だから」


 ラファエルはもう何度目か分からない溜息を吐いた。

 フェリクスが、おやと小さな声を出す。


「どうやら、その答えを持ってきた者がいるようだね。出ておいで」


 フェリクスの言葉に、ラファエルはようやく顔を上げた。どうやらバルテレミー伯爵家に向かわせていた影が戻ってきたらしい。


「ああ……構わないよ。近くへ」


「では、こちらから失礼いたします」


 声は、ラファエルのすぐ後ろの柱の影から聞こえてきた。

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★☆webtoon連載中☆★
「伯爵令嬢ミシェルの結婚事情」
伯爵令嬢ミシェルの結婚事情
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