表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢ミシェルの結婚事情〜貧乏神令嬢は3度目の買い取り先で幸福な恋を知る〜(web版)【webtoon化】  作者: 水野沙彰
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/145

7章 アランの失敗

アラン視点です。





「──それでは、今回はこちらの絵画を」


「また、随分出来の悪い贋作だな」


 それから三日後、大運河沿いの倉庫の一つにアランはいた。もう毎月の定番となった美術品の贋作売買のためだった。目の前にいるのは、町人に変装したトルロム国の兵士と商人の男性だ。

 アランは贋作と知った上で、彼等から美術品を本物と同じかそれ以上の金額で購入している。


「気に入らなければしまっておいてください」


「ああ、勿論。倉庫にでもいれておくさ」


 アランの計画では、ミシェルを買い戻して厳しい教育を施し、美貌の完璧な淑女とする筈だった。そしてネフティス王国で社交界の花として目立たせその価値を高めた後、トルロム国のハレムに入れるつもりだったのだ。

 トルロム国では王族はハレムを持っていて、秀でた美貌や珍しい特技を持つ女性達が王族の所持品として多く囲われている。母親似のミシェルならば異国の美姫として正妃の地位すら狙えるのではないかと、アランは期待していた。

 多くの天然資源を持ち、珍しい工芸品も多いトルロム国は、商人にとって未開の宝物庫だ。

 そのハレムに他国の貴族令嬢であるミシェルを入れることができれば、アランは多くの金と、トルロム国内での強い立場を得ることができる。そうして足場を固めてから、アランはナタリアと共にトルロム国に移住するつもりだった。

 オードラン伯爵家に貧しい土地しか与えないネフティス王国など、とっくに見限っている。

 そう思っていたのに、アランの計画はバルテレミー伯爵家の双子のせいで台無しにされてしまった。

 トルロム国は、王族が主体となって天然資源を取り扱う商売をしている。まさか貧乏神と言われている令嬢をハレムに入れるわけにはいかないのだ。


「ところで、今回の分で金は充分だろう。そちらの受け入れはどうなっている」


「王子は、令嬢が来ることを望んでおられた」


「その分も金は多く払っただろう。こっちは危険な橋を渡ってるんだ」


 ネフティス王国にとってトルロム国は現在仮想敵国の一つだ。

 平和を望むネフティス王国と、同じ大陸にあって精力的に領土を広げているトルロム国。隣国との強固な同盟によって平和を築いているネフティス王国が、トルロム国と手を取り合う筈がない。

 しかしそんなことは関係ない。

 商人が金がある土地を求めて、何が悪いのだ。

 アランはこれからトルロム国に移住するため、資金を少しずつトルロム国に移していた。それを支援してくれたのは、トルロム国の王宮から派遣されている兵士の男性だ。

 アランがネフティス王国貴族だからこそ知っている情報を与え、代わりに金をトルロム国に送らせる。不審に思われないように、ナタリアの父親から紹介された、兵士の仲間であるトルロム国の商人がネフティス王国で流通させている美術品の贋作を、わざと高額で購入した。

 そうすることで、万一国から何か言われてもアランは騙されただけだと言える筈だった。


「トルロムは、貴方様を歓迎いたします」


 兵士が口角を上げた。


「ああ、やっとか」


 アランは深い息と共に言葉を吐き出した。

 やっと、これでアランを不幸にする全てを捨てることができる。

 何をしても貧しい領地、アランのためにならない家族、アランを厚遇しない国。そんなものは、なかったことにしてしまえばいのだ。

 金はかかったが、それでもこの好機を買えるのならば安い買い物だ。

 アランも笑顔で返そうとしたそのとき、がらがらと大きな音を立てて倉庫の扉が開かれた。


「──確保!!」


 眩しい光が薄暗い倉庫の中を照らしている。

 数えきれないほどの騎士達が、三人しかいない倉庫に走り込んできた。

 アランは、まずい、と思った。

 今入ってきたということは、ここでの会話も聞かれていたかもしれない。今日が最後の取引だったというのに、へまをした。

 つけられていることに気付かなかったのだろうか。


「わ、私は今日、この絵を買いにきただけだ!」


 騎士の一人に腕を掴まれながら、アランが抵抗する。

 しかし騎士はアランの言い訳に取り合わず、あっという間に後ろ手に縛り上げられてしまった。

 すぐ近くに、アランと取引をしていた男性達が転がされている。


「私を誰だと思っている!?」


 あの二人は異国の民かもしれないが、アランはこのネフティス王国の貴族だ。縛り上げるなど、その辺の騎士には許される筈がない。

 一瞬怯んだ騎士を支えるように、この場に似つかわしくない上質な革靴らしい落ち着いた足音が聞こえてくる。

 優雅なほどにゆっくりとしたその足音が、アランまであと二メートルというところで止まった。


「オードラン伯爵。いや、アラン・オードラン。案の定、尻尾を出すのは早かったね」


 そこにいたのは、今ここでアランが使った金を用意した人間だ。

 四日前、金貨三千枚でアランからミシェルを買ったラファエルが、ここが王城の舞踏会かと思わせるほどの完璧な笑顔で立っていた。


「本当はもう少し可愛い罪だと思ったんだ。君を見くびっていたよ。外患罪は、拷問の後、家族まで全員処刑されることになっている。残念だね」


「そんな、詭弁を……!!」


 アランが抵抗をすると、二人がかりで押さえつけられた。


「詭弁? 事実でしょう、伯爵。貴方は、この国を売ったんだ」


 ラファエルの表情が変わらないことが、恐ろしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★☆webtoon連載中☆★
「伯爵令嬢ミシェルの結婚事情」
伯爵令嬢ミシェルの結婚事情
(画像は作品ページへのリンクです。)
よろしくお願いします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ