表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢ミシェルの結婚事情〜貧乏神令嬢は3度目の買い取り先で幸福な恋を知る〜(web版)【webtoon化】  作者: 水野沙彰
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/145

1章 最初の買い取り先





 オードラン伯爵家は貧乏だ。

 どのくらい貧乏かというと、六歳の娘を身売りさせなければいけないほどだ。


「ミシェル、分かるだろう? 良い子にするんだ」


 両親と兄妹の四人家族。

 使用人は通いの者一人しかおらず、ミシェルと母親で家のことをこなしていた。庭こそ荒れていたけれど、屋敷の中はそれなりに綺麗に維持できていたと思う。

 ミシェルの母親は柔らかな茶色い髪にアクアマリンのような透き通った瞳を持つ美人で、同じ色を受け継いだミシェルは自分の髪と瞳を気に入っていた。

 父親と五歳上の兄はあまりミシェルに興味を抱かなかったが、オードラン伯爵家は貧しいながらもそれなりに暮らしていた。

 最初の悲劇は、母親が事故で命を落としたことだった。

 ミシェルが四歳のときのことだった。実家に帰省して、川に落ちたのだという。

 それから父親はミシェルにより冷たくなった。母親と同じ色を持つ娘を疎んだのだ。同時に酒に溺れ、賭場にも通うようになる。


「お父様。わたし、嫌です……」


 ミシェルは目を真っ赤にして、涙を流していた。

 ミシェルの父親は賭場で大損をして、その補填に領地の予算を無断で使ってしまったのだ。その額、金貨百枚。

 そこまでならまだマシだった。その不正が同じ賭場を利用していたバルテレミー伯爵にばれてしまい、脅されてしまう。しかも丁度時期は年末で、数週間後には国に領地の帳簿を提出しなければいけなかった。

 そこで、バルテレミー伯爵は言ったのだ。『娘を売ってくれるのなら、私が金貨百枚で買い取ろう』と。

 ミシェルがこの先成長しても、オードラン伯爵家は嫁入りの持参金など用意できない。一人でも減れば、家の維持にかかる金も減るだろう。アランがいるから後継にも困らない。

 ミシェルの父親は二つ返事でその提案に乗った。


「我儘を言ってはいけないよ、ミシェル。バルテレミー伯爵様の言うことを良く聞いて、決して逆らったりなどしないように。いいね?」


「──……はい、お父様」


 ミシェルは涙を拭いて、頭を下げた。幼くとも、家がぎりぎりの状態であることは分かっていた。もう、こうするしかないところまでいってしまったのだろう。

 兄であるアランは部屋から出てきていない。別れの言葉くらい言いたかったが、アランは聞きたくないかもしれない。ミシェルのことなど見えていないように生活をしていたから。

 バルテレミー伯爵が、十枚ずつ束ねた金貨百枚をテーブルに置く。

 それを見てもうミシェルに興味を無くした父親は、すぐに金貨に手を伸ばした。


「行くぞ」


「……これから、お世話になります」


 バルテレミー伯爵は何も言わず、ミシェルを伯爵家の持ち物とは思えないほど立派な馬車に乗せた。





「ほぅら、私の可愛いプリンセス達。新しいおもちゃを買ってきたよ」


 バルテレミー伯爵は帰宅してすぐにそう言った。

 廊下をぱたぱたと走る足音が聞こえたと思うと、赤と黄色の布の塊がやって来る。


「お父様、おかえりなさいませ!」


「おかえりなさいませ。新しいおもちゃですって? 楽しみだわ」


 それは顔がそっくりな二人の女の子だった。

 ミシェルよりも少し歳上だろう。一人が赤いドレス、もう一人が黄色いドレスを着ている。二人とも金色の髪に赤い瞳で、ふわふわのドレスがとてもよく似合っている。

 バルテレミー伯爵が言う通り、本当に物語のプリンセスのようだとミシェルは思った。


「ただいま、イザベル、リアーヌ」


 伯爵が一人ずつ抱き締めて、そっと額に口付けを落としていく。その順番で、赤いドレスの女の子がイザベル、黄色いドレスの女の子がリアーヌだと分かった。

 優しい父親が娘達を可愛がるという、最後まで叶わなかった幸せな風景をミシェルが一歩離れたところで見つめていると、バルテレミー伯爵がこちらを振り返った。伸ばした手で背中を押し、イザベルとリアーヌの正面にミシェルを引っ張り出す。

 挨拶をするのだと思い、ミシェルは慌てて頭を下げた。


「この子はミシェルだ。二人とも、今度は壊してはいけないよ」


「はーい」


「分かりましたわ」


 二人は令嬢らしく軽く膝を折って同意を示す。

 それを見て、伯爵はミシェルの肩を掴んで振り向かせた。それから、しゃがんで目線の高さを合わせる。

 ミシェルは正面から伯爵の瞳を見ることになった。

 その目はイザベルとリアーヌと同じ、赤い色だ。赤の中に、狂気の炎がちらついている。それは酒を飲んで暴れる前の父親のものに似ていた。

 怖い、と思った。


「ミシェル、しっかり言うことを聞きなさい。この家の人間を傷付けたら、ただではおかないよ」


「……はい、伯爵様」


 ミシェルはびくりと肩を震わせ、頷いた。

 それを待っていたように、イザベルがミシェルの右手を、リアーヌが左手を握る。そうして二人は、同時にミシェルの手を引いた。

 ミシェルは二人についていこうと、駆け足で歩調を合わせる。


「何をして遊ぶ? 最近退屈してたから、嬉しい」


「そうね、鬼ごっこは?」


「えー、でも、壊しちゃ駄目なんでしょう?」


「うーん。そうだ、あれが良いわ。永遠の夜ごっこ!」


「良いわね。久し振りだわ!」


 バルテレミー伯爵邸の廊下に三人分の足音が響く。

 楽しそうにはしゃぐイザベルとリアーヌに、ミシェルは困惑していた。

※この世界の金貨1枚の価値は10万円くらいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★☆webtoon連載中☆★
「伯爵令嬢ミシェルの結婚事情」
伯爵令嬢ミシェルの結婚事情
(画像は作品ページへのリンクです。)
よろしくお願いします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ