8話 戦いが終わり②
チュン!チュン!
「う・・・、朝か・・・」
目が覚めると窓の枠に小鳥がいて気持ち良さそうに鳴いている。
右を見ると・・・
「ムニャムニャ・・・、もうお腹いっぱいじゃ。これ以上のお代わりはいらんぞ・・・」
カーミラが涎を垂らしながら幸せそうな顔で眠っている。
何の夢を見ているのだ?
「魔王様の血はもう飲めん・・・、げふっ!」
(おい!何て夢を見ているのだ!)
俺がどれだけカーミラに血を吸われているのだ?干からびている俺の姿がなぜか想像出来た。
まさか、こうして朝チュンするなんて想像もしなかったな。
昨日の夜を思い出すと・・・
最初の血走った目のアイツらは本当に怖かったけど、すぐに我に返ってくれて、それからは甘々な不雰囲気で・・・
(シャドウの言った通り、あれが新婚気分だったのかな?)
あいつは既婚者だし、かなりの愛妻家だと聞いている。
今度、一緒に酒でも飲んでみるか?奥さんのご機嫌取りの方法も色々と教えてくれるかもしれない。
左を見ると・・・
「おはよう・・・」
王女様がニコッと微笑んで俺を見ながら挨拶をしてくれた。
もしかして、ずっと俺の寝顔を見ていたのか?
そう思うと少し恥ずかしい。
「あぁ、おはよう・・・」
次の瞬間、王女様に唇を塞がれた。
しばらくしてからゆっくりと王女様の顔が離れた。
「ふふふ・・・」
とても幸せそうな微笑みだ。
昨日までの何か思い詰めていたような表情や、目付きが鋭くイライラしていたような感じは一切感じない。これが本当の王女様の素顔なんだろうな。
カーミラの妖艶な微笑みとは対照的な清楚で無垢な笑みとはこのような笑顔なんだろう。
「シル・・・」
「ん?」
「私の事は『シル』と呼んで欲しい・・・、ずっと思っていた事だ。私に彼氏が出来たら彼氏からはそう呼んで欲しいと思っていたのだ。どうかな?」
上目づかいで俺を見つめている。
(うっ!これはぁああああああああ!)
目茶苦茶可愛い!こんな顔でお願いをされたら断れないよ。
「分かった。シル、これで良いのか?それなら俺は魔王様とは呼ばないで欲しいな。俺の今世の名は『アモン』だ。そう呼んでくれ。」
「うん!分かった。アモンさん、これで良いのかな?」
「シル、それで良いよ。」
「嬉しい・・・」
そう言ってシルがカーミラに匹敵する大きな胸を俺の腕に押し付けてきた。
今はお互いに裸だし、腕にシルの胸の感触がダイレクトに伝わってくる。というか!ワザと胸を押し付けてアピールしているぞ!
「アモンさん、鼻の下が伸びているわよ。ふふふ・・・、私でもあなたをドキドキさせられるのね。」
そしてギュッと俺の腕を抱きしめてくる。
「分かっているの・・・、だけど・・・、今だけはこうして夢を見させて・・・」
「私はずっとここにはいられないから・・・」
「シル・・・」
シルの俺を見る目が潤んでいる。
「私はあの王国の王女・・・、いくら捨てられたといっても、あの国は私の故郷には変わらないわ。そして、堕落した王家のおかげで民は困窮し苦しんでいる。そんな状態になっているのを見て見ぬフリは出来ないの。私の父と兄達がしでかした後始末をしないと・・・、本当は戻りたくない・・・、でも、私の王家の血がそれを許さないの・・・」
そのまま俺の胸に顔を埋めて静かに泣いている。
泣き止むまでそのまま優しく抱いていた。
しばらくしてからシルが顔を上げ俺をジッと見つめている。
「すまない・・・、こんな時に言う話ではなかったな。だけど泣いたら少しスッキリしたよ。」
そんなシルに軽くキスをすると、少し驚いた顔をしている。
「やっぱりシルは真面目だな。惚れられて俺も幸せだよ。」
「そ、そんな事を言われも・・・」
「俺が惚れた女だ。お前が嫌になるような事にならないようにするさ。まぁ、俺達魔族が表に出てこないようにする方法はいくらでもあるからな。」
「ダメだ、これは人間の問題だ。アモンさんには迷惑をかけられない。」
「大丈夫だ。」
ギュッとシルを優しく抱いてあげる。
お互い裸だからシルの体の温かさがダイレクトに俺に伝わる。シルがドキドキしている鼓動も伝わってくる。
真っ赤な顔で俺を見つめているけど、その表情がとても愛おしく感じた。
(彼女は絶対に守ってあげないとな。)
「俺の本当の目的を言ってなかったな。」
「それはどいう事だ?魔王だから、この世界を征服する事なのか?私はそう教えられてきた。まぁ、今ではこの世界は神どもの遊び場になっていると分かってしまったが・・・」
「俺の目的はな・・・」
「ゆっくりと生活したいんだよ。しがらみも無く、悠々自適な生活をしたいのさ。その為に今は頑張っている。支配者、そんなのはクソくらえだ!俺は支配者になるつもりはないし、大変な事はしたくないのさ。周りが頑張って仕事が出来る環境作りをして、そのおこぼれをもらう計画なんだよ。この年で言うのも変だけど、早いうちに隠居生活をしたいのさ。」
「ふふふ・・・、それはいいですね。その時には私も隣にいても良いのかな?」
「大歓迎だよ。シルもそうだし、カーミラ、お前もな!」
「妾が起きていたのが分かっていたのか?」
後ろからカーミラの声が聞こえた。
「もちろんだ。まぁ、シルとイチャイチャしていれば嫌でも目を覚ますんじゃないか?でもよく耐えたな。てっきり乱入してくると思っていたぞ。」
カーミラが抱きついてくる、
ムニュっと背中に2つの柔らかい感触を感じる。
あのミカエルが本当に女になったのだよな。まさか俺の初めての相手になるとは思わなかった。
もう元男の子だったというのは関係ない。ちゃんとした女性として見てあげないとな。
「いくら妾でも空気は読むぞ。たまにはな!」
(ホント、たまにしかだよ・・・)
「魔王様よ、あの国の事は考えがあるのじゃろう?どうするかは大体分かっているがな。あの隣にある教国対策もどうするか?あの国の女神は間違いなく強敵だぞ。」
「それは分かっているよ。だけどな、今はバーミリオン王国を立て直す方が先だ。今のままでは遅かれ早かれ教国の属国の1つにされるだろう。あの国はこうして属国を増やして大きくなったからな。カーミラ達四天王には少し頑張ってもらうぞ。」
「もちろん頑張るぞ。ちゃんと妾のご褒美も忘れるなよ。」
カプッと首を軽く噛まれ血を吸われる感覚を感じる。
「あぁぁぁ~、魔王様の血・・・、最高の御馳走じゃ。これで1000年は生きていける。」
おいおい、俺の血は不老不死の霊薬か?大げさな・・・
「ところでテレシアはどこに行った?昨日は一番激しかったけど、疲れていなかったのか?」
バンッ!
部屋のドアが勢いよく開いた。
「マスターに旦那様!」
「「はい?」」
俺とシルが目を合わせた。
(こいつ、何をほざいている?)とシルも思っただろう。
シルはあのドラゴン娘の主人なのは分かる。何で俺があいつの旦那になっている!
しかもだ!あいつの服装は・・・
(何でメイド姿なのだ?)
テレシアがニヤニヤ笑って俺を見ている。
とんでもない美少女には間違いないけど、この言動を見るとなぁ・・・
(これって、あの女神を食った副作用じゃないか?)
神竜のはずだけど駄竜にしか見えない!最初の神々しさはどこに行ってしまったのか?いつの間にか残念娘になってしまっているよ・・・
「私はマスターに生涯の忠誠を誓いました。そして、マスターの旦那様には生き返らせてもらった恩義として、愛人枠として私のこの身を捧げると誓ったのです。これならマスターに仕えながら旦那様にも義理を立てられますからね。」
パチンとウインクをする。
(また突拍子もない事を言い出したぞ。)
「昨夜はどうでした?私の精一杯のご奉仕でしたが、足りないようでしたら今からでもどうです?私はいつでもウエルカム!ですよ。」
そう言って、いそいそと服を脱ぎ始めた。
(こいつはぁあああああああああ!発情期かい!)
あまり下ネタに振るな!このバカ娘!
「こら!」
スパァアアアアアアアアアアアアン!
「痛っ!」
テレシアが頭を押さえて蹲っている。
「テレシア様、これ以上は見過ごせませんよ。私達メイド隊は『品行方正、常に淑女であれ!』なんですからね。」
箒を手にしたメイド長のレナがテレシアの後ろに立っていた。
あの箒でテレシアの頭を殴ったのか?
『品行方正、常に淑女であれ!』が箒で頭を殴る?まぁ、あれだけの残念娘のテレシアだ、レナの我慢も限界だったのだろうな。
(その気持ちは良く分かる。)
「テレシア様は、ご主人であるシルヴィア様に仕える為にメイドをマスターしたいと、早朝に私達のところに相談に来ました。国での居場所が無いシルヴィア様の為に常に一緒にいて世話も出来るようにと。」
「テ、テレシア・・・、あなた・・・」
シルがテレシアを見つめてウルウルと涙を流している。
「そうですよ!マスターの状況はよく分かっています。いつかは国に戻らなければいけません。まぁ、戻ってする事は分かっていますけど、国が落ち着くまではマスターも安心していられませんからね。」
(マスターが安心して国を治めるまでは、私がマスターの盾でもありますからね。)
「ぐふふふ・・・、こうしてマスターの世話をすれば旦那様も私に恩義を感じるはずよ。今の愛人枠から正妻へとジャンプアップするのよ!昨日は旦那様がたくさん愛してくれて私は身も心もメロメロよ・・・」
思わずシルと目を合せてしまった。
シルの目が点になっている。
お~い!本音と建て前が逆だぞ。
しかもだ!俺がじゃなくて、お前が超肉食だったぞ!カーミラもシルもどん引きだったし、俺は為すがままお前の好きにされていたよ。
(この色ボケ駄竜は・・・)
あの色ボケはやっぱり女神の後遺症か?
肉まん女神めぇぇぇ・・・、置き土産だけはしっかりと残していたな。
それに、この駄竜は悪意が無いから余計に始末が悪い。
「魔王様!」
「レナ、どうした?」
「彼女は私達がしっかりと教育しておきます。シルヴィア様が王国へ戻られる時までには!」
「分かった、頼むよ。」
「お任せを!」
しかし、レナの顔が急に赤くなった。
「少しお願いがありまして・・・」
「ん?何だ?」
「い、いえ・・・」
レナが赤い顔で胸の前で人差し指をチョンチョンとしている。
「よ、よ、よ、夜伽を始められたのですよね?」
(はい?嫌な予感がする。)
「構わないぞ!貴様達の考えている事は分かっているからな。妾は正式に魔王様の妻になれたのだからな。愛人枠ならいくらでも構わんぞ。」
(おい!何を勝手に・・・)
ん?あのヤキモチ焼きのカーミラが他の女性を認めているって?
(信じられん・・・)
思わずカーミラを見てしまったけど、嬉しそうに俺を見ている。
「ふふふ・・・、其方は妾を受け入れてくれたのだ。これからは正妻として振る舞えるからな。今更、愛人の10人や100人が増えても問題無い!魔王様が妾を1番に愛してくれれば良いだけだからな。」
「そのお言葉!待っていました!」
レナが俺達のベッドの前で片膝を付き頭を下げた。
シュタタタタタッ!
(おい!お前達、どこに隠れていたのだ?)
俺の専属メイド達がズラッとレナの後ろに控え、全員が臣下の礼で頭を下げていた。
「我らメイド隊12名!魔王様に永遠の忠誠を!そして、この身と魂を捧げます!我らにもお情けを!」
(・・・)
全く理解出来ない。
「魔王様よ、モテモテだな。あの駄竜の相手も出来たのだ。メイド達の相手も問題無いだろう。もちろん!妾を1番に愛してくれるよな?」
グイッ!といきなり腕に抱きつかれた。
「アモンさん・・・、1番は私よね?」
ハイライトの無い目でシルが俺を見ているよぉぉぉ・・・
シルよ・・・、いつの間にダークなヤンデレ化をしたのだ?頼むから落ち着いてくれ。
それよりもだ!
今の俺とカーミラとシルの状況はだな!素っ裸でベッドの中にいて、シーツで辛うじて裸を見られないようにしている状況だ!そして、俺達のベッドの前にテレシアとメイド隊が立っている状態だよ!
(いつになったらベッドから出られるのだ?)
何が楽しくて10数人の視線を浴びなくてはならん!
しかもだ!全員の目がギラギラしている!今にもベッドへ雪崩れ込んで来るような空気を感じる。
俺はこんな羞恥プレイに快感を覚える変態では断じて無い!
「へっ!」「きゃっ!」
俺とシルの間に小さな双葉が生えた緑色の髪の毛の頭が飛び出してくる。
(???)
何でコイツが?
いつの間にベッドの中に潜り込んでいたのだ?
「えへ!」
マナが可愛らしく俺に微笑んでいた。
「か、可愛いぃいいいいいいい!まるでお人形さんみたい!」
シルが嬉しそうにマナを抱いている。
確かにマナは可愛いよ。
ロリコンではない(ここ重要ね!!!)俺もマナの可愛さには勝てん!
何でも言う事を聞いてしまう程だよ。
「魔王様に奥さんが出来たから、私は娘ポジションね。いいでしょ?」
つぶらな瞳で俺を見てくるよぉぉぉ~~~
(駄目だ!この天使ビームには勝てん!)
「このちんちくりん娘が!」
俺の後ろにいたカーミラが肩越しに顔を出した。
胸がムニュッ!と押し付けられている。
絶対にワザと押し付けているだろうが!
しかし・・・、その行為をされて喜ぶ男の性が・・・(滝汗)
「お前はもう300を越えている歳じゃろうが。この見た目でその歳だと詐欺だぞ!」
「むぅううう!」
(ん?)
マナの頭に生えている双葉がカーミラへ向いたぞ。
ドン!ドン!
「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
カーミラが両目を押さえて悶えながらベッドから落ちた。
素っ裸で悶えているし、色々と見えるから目のやり場に困る・・・
「私は永遠の8歳児なの!ロリ枠は誰にも譲らないからね!」
おい・・・、マナさんや・・・
この見た目で300歳オーバーは、カーミラの言う通り詐欺だぞ。
しかも、頭の草?から種を発射する攻撃方法は想像もしなかった。あのカーミラの不意を突くとは見事だよ。
俺の顔を見てマナがニコッと笑った。
「これからお父さんって呼んで良い?もちろんプライベートの時だけね。四天王モードの時はちゃんとわきまえるからね。」
(うん!許す!)
マナの可愛さに即落ちだ。
頭を優しく撫でるととても嬉しそうだよ。こんな顔をしてくれるからいつまでも撫でていたいな。
今度はマナがシルに抱き着いた。
「王女様はお母さんって呼んでも良い?」
シルがプルッと一瞬震え、嬉しそうにマナの頬に頬ずりをしていた。
こうやって見ると本当の親子みたいだよ。いや、年の離れた姉妹かな?
(そうか・・・)
シルは親も兄達からも疎まれていたのだな。
本当の家族ではないが、家族の愛を求めていたのだろう。
そういえば、マナも俺に会うまではずっと1人ぼっちで森の奥にいたな・・・
「妾を除け者にしないでくれぇぇぇ~~~」
〇子のように髪を前に垂らしながら叫んでいた。
(見た目、完全にホラーだぞ!)
テレシアが嬉しそうに俺達を見ている。
「ふふふ・・・、私が認めた方々です。見ているだけでもこんなに心が温かくなるんですね。そしてマスター・・・、幸せになって下さい。私も頑張りますね。」