1話 勇者さん、いい加減に諦めて下さい
新作始めました。
今回は息抜きの感じでかなり軽い感じです。
(時々は重い話もありますが・・・)
基本的に深く考えずに読んで下さい。
「喰らえぇえええええええええええ!バーミリオン流剣術最終奥義!ライジング・ノヴァァアアアアアア!」
刀身が黄金に輝き、真っ直ぐ俺に振り下ろされたが、人差し指をゆっくりと前に突き出した。
パシ!
「ば!ばかなぁあああ!」
目の前の剣を振り下ろした人が驚きの顔で俺を見ている。
「私の全身全霊の剣が!人類最強の私の剣が!」
剣を振り下ろした姿勢のままプルプルと震えている。
「上級魔族すら消し去る私の剣が!何で指1本で受け止められているのだぁああああああああ!」
(そう言われてもねぇ~)
そんなに強力な技?そうは思えないし、余裕で受け止めて、そう、俺の人差し指の腹で受け止めているんだよな。
目の前の人の攻撃は俺の指の皮1枚すら切り裂くことが出来なかった。
(正直、弱い・・・、弱すぎるよ・・・)
「はぁ~」
思わずため息が出てしまった。
しかし、この俺の態度が相手を更に怒らせてしまった。
「貴様ぁあああああああああ!この私を愚弄するかぁああああああああ!」
あぁ~、目に涙を溜めて今にも泣きそうだよ。
「この技をマスターするのにどれだけの血の滲む修行をしたか・・・、それを貴様はあぁぁぁ~~~」
泣かせるつもりは無かったんだよ!本当にゴメン!
このまま剣を受け止めている姿勢を続けるのもアレだったので、クイッと人差し指を前に突き出した。
バキィイイイイイイイ!
「「あっ!」」
2人同時に叫んでしまった。
剣が粉々に砕け目の前の人も吹き飛んでしまった。
ゴロゴロと転がってしまったが、上手く受け身を取れたみたいで怪我は無さそうだ。
(良かった・・・)
だけど、手の中にある刀身が砕けてしまった剣を見てポロポロと涙を流し始めてしまった。
「聖剣が・・・、国宝の聖剣が・・・、私の力不足のせいで・・・」
そのままガックリと項垂れてしまい、シクシクと泣き続けていた。
(あぁ~、完全に心が折れてしまったよ。)
つい力を入れすぎてやってしまった事だけど、とても申し訳なく思っている。
人類の宝でもあり最後の希望の1つだもんなぁ・・・
そんな大切なものが壊れてしまった悲しみはどんなものか?
(本当に申し訳ない!)
心の中で土下座をして謝りました。
さて、俺の目の前にる人は誰かというと・・・
俺の住んでいる国の隣にある国、バーミリオン王国の人間である。
金色の煌びやかな甲冑を纏い、その煌びやかな輝きにも負けない輝くようなサラサラな金髪を腰の辺りまで伸ばしてした。
瞳はまるで宝石かと思われる程に綺麗なアイスブルーの瞳で。スラッとした鼻筋に切れ長でどんな男でも骨抜きにするような流し目が合いそうな色気がある。
スタイルは甲冑を着ているからハッキリと分からないけど、間違い無く良いと思う。
正直、これだけの美人が世の中にいるのかと思うほどの美人だと俺基準では思う。まぁここにも1人、目の前の彼女に匹敵する美貌の持ち主はいるけどね。
(だけど人間じゃないんだよなぁ・・・)
人外の者に匹敵する程に目の前の彼女は綺麗な女性だった。
ボーカーフェイスを装っているが、本当はドキドキしている。そんなのがバレると俺も物理的にヤバイのでバレないように必死に毅然とした態度で頑張っている。
だって、今の戦いもシッカリと見られているし、そいつのヤキモチ度は尋常じゃないもんな。
そいつの顔を思い出すと・・・
ブルッ!
思わず背筋が寒くなるよ。
(くわばら、くわばら・・・)
話が脱線してしまったが、目の前の彼女は単に美人だけじゃないんだよな。
例のバーミリオン王国の第1王女という正真正銘のお姫様でもある。まぁ、彼女の上には王子が3人いるから王位を継ぐ事はないだろうけど、国民からの人気は絶大で求婚も相当数来ている情報もあったな。
しかもだ!
王女という身分だけでなく『勇者』の称号をも生れた時に女神から授かったと言われている。
成人になった時に教会で職業を調べたら、見事に勇者とステータスボードに出たと公表されているから間違い無いだろう。実際、今まで見た人間の中では最も強い人間だったからな。
人間としてはチート過ぎる感じだろう。
そして、クソ真面目過ぎる彼女が『使命』だと言って俺のところに来るんだよ。
ホント、俺にとっては迷惑な話だったが、こうして我が家へ攻め込んで来たので正直困る。
だけど・・・
そんなにも強い彼女だったけど、俺の前では全く歯が立たない。
女神も酷だよな。圧倒的な実力差のある相手に対して無情にも戦争を神託と言って人間に仕掛けさせるなんて、俺以上に鬼畜な存在だと思う。しかもだよ、自分は神の世界で何しないでふんぞり返っていてよ、強制的に使徒にした勇者に俺を討伐させようとするんだよ。勇者なんて死にに行くようなものだ。神と人間の関係ってブラック企業に勤めている経営者と従業員の関係以上に過酷かもしれない。
多分だけど、神にとっては俺達や人間の生き死になんてゲームみたいな感覚かもしれないな。俺はそう思う。
(女神さんよ・・・、いつかはあんたを必ず殺す!俺の平和な生活の為にもな!)
無謀にも戦いを仕掛けている勇者だけど、俺じゃなければ確実に彼女は死んでいただろうな。いや、あの変態共に人間の尊厳も奪われて性奴隷や人体実験をされていたかもしれない。アイツらは欲望の塊だしな。
しかも彼女だけではなく、いわゆる勇者パーティーと呼ばれているメンバーが、それはそれはお粗末で・・・
膝を抱えてシクシクと泣いている彼女の後ろには、男女4人が死屍累々と転がっている。
俺は血生臭いのが嫌だから殺していないよ。ちょっと眠ってもらっているだけ、まぁ、魂が体から離れる寸前までは痛めつけているけどね。
殺さないように優しく対応してもこうなるなんて、君達、本当に弱いよ。戦いは勇者である彼女に全てを押し付け、後ろの安全地帯でのんびりと観戦をして楽をしていたから、彼らのど真ん中に爆裂魔法をお見舞いしてお仕置きしてやったよ。彼女が頑張っているのにね、そんな横着を俺が許す訳がない、自業自得だ。
王女様・・・
もう少し仲間というものを考えた方が良いと思うぞ。
コイツ等は絶対に碌でもない奴らだと思う。
いつまでも王女様が目の前で泣かれていても困るから、ちょっとだけ王女様のフォローをしてあげよう。
掌を王女様へ向け魔力を集めると掌が青白く輝いた。
「リペアー!」
みるみるうちに粉々になった聖剣が元に戻っていく。まるで逆再生の映像を見ているように聖剣が元の壊れる前の姿に戻って、彼女の手に握られ輝き始めた。
「これは・・・、聖剣が元通りに!信じられない・・・」
そしてジッと俺を見つめた。
「貴様の仕業か?」
まぁ、俺が聖剣を直した事で感謝しているとはとても思えない顔をして睨みつけている。
そうだろうな、敵である俺が敵に塩を送る真似なんかする事は、すぐに信用するなんてあり得ない話さ。
普通は裏に何かあると疑うし、王女様の視線もそんな感じだ。
「どう受け止めても結構。俺としてはそのままお帰り願いたいけど、それは選択肢に入らないのかな?」
「ふざけるな!」
王女様がブルブルしながら俺を睨みつけているよ。さっきまでシクシク泣いていたなんて誰も思わないくらいの迫力がある。俺もこんな部下が欲しいよ。
「だが・・・」
とても悔しそうにギリギリと唇を噛んでいる。
おいおい、折角の美人が台無しだぞ。君には笑顔が1番似合っていると思うんだからね。
(う~ん、我ながらクサい・・・、口に出さなくて良かった。)
「だが!門番である貴様にすら我々の強さは届いていない。貴様の後ろに控える四天王、そして魔王には今の我々では命を犠牲にしようとも絶対に勝てないだろう。確実に犬死にだ!いくら馬鹿な私でもこれくらいは分かる!」
(へぇ~)
思わず感心してしまった。
単なるイノシシ娘ではないみたいだ。しかも、自分の事を正直に馬鹿って言ったのは面白い。一国の姫がそんな事を言うなんて意外だった。てっきりプライドの塊で自分の身を滅ぼすかと思っていたしね。
後ろの4馬鹿は放っておいて、この王女様は俺の中では少し好感度が上がった。
「何度も何度も貴様に挑戦して負かされ続けているんだ。いくら私でも力不足だったのは分かる!」
そうなんだよ。彼女はこれまで10回以上もここに攻めに来ている。
その都度門番(仮)の俺が適当にあしらって追い返しているけどね。
ここまで力の差を見せつければ普通は諦めると思っていたけど・・・
だけど彼女は諦めずにいつも俺に挑戦してくる。
「私の使命は魔王を倒しこの世界を平和にする事!それ以外に私の存在意義は無い!死ねぇえええええええええ!」
いつもそう言って門の前にいる俺に斬りかかってくるのが最近の挨拶だったりする。
だけどねぇ・・・
これだけの力の差があると分かっているから、いい加減に諦めてもらいたいのが俺の本音だ。
俺だってこんな命のやり取りなんかしたくない。
平和な日常を求めているんだから。
(それを分かって欲しいよ・・・)
そんな訳で、今回はいつもよりも激しく力の差を見せつけてあげた。聖剣まで破壊して、しかも直す事までしてね。
その願いが通じたのか、王女様が構えていた剣を下ろした。
「今回の遠征は諦める。」
しかし、ビシッと人差し指を俺に向けた。
(おいおい・・・、人様を指差すなよ。王女様、マナーがなっていないぞ。)
「だが!私は諦めん!これから死ぬ気で修行をして、必ず貴様の強さに追い付く!ふふふ・・・、首を洗って待っているんだな。」
お~い、何でドヤ顔なんだ?その自信の根拠は?
やっぱり馬鹿王女様だったよ!
「でも・・・」
何だ?急に王女様の顔が赤くなってモジモジしているけど・・・
「時々はここに来ても良い?王女じゃなくてシルヴィアという名前のただの女として会いに来ても?」
おい!いつの間に俺とのフラグが立っていた?
心当たりが全く無い・・・
嫌われている自信なら胸を張れる程なんだけど、何で?
しかもだ!この光景をアイツが見ているのでは?
「はっ!」
アイツのいる建物からどす黒いオーラが!
(ヤバイ!ヤバイ!ヤバイよ!)
しかし、すぐにオーラがスッと消えた。
(ふぅ、助かった。)
だけどなぁ~、絶対に後で迫ってくるぞ。アイツはそんなヤツだしな。
取り敢えず、アイツの機嫌が悪くなる要素を取り除こう。
パチン!
「え!え!足下に魔法陣が!私、どうなるの?待って!待って!まだあなたに話したい事が・・・」
俺が指を鳴らすとシュン!と音を立てて王女様が消えた。
帰りの道中に何があるか分からないし、安全の為に城まで一気に転移で運んであげよう。
いくら敵とはいえ俺はフェミニストだよ。女性には優しくする(但し美人限定ね)のがポリシーだからな。
あそこで気絶している4馬鹿の中に1人女魔法使いがいるけど、あれは例外!確かに美人なんだろうけど、性根が腐っている!そんなヤツに優しくする必要はないね。
ああ見えても4人揃って悪運だけは神レベルじゃないか?そのま放置していても問題はないだろう。気が付けばひょっこりとどこかで会うかもしれん。
「さて、戻るか・・・」
クルリと振り返り城門を背にして俺は城内へと消えていく。
「お疲れ様でした。」
転移を使ってある部屋に移動するとメイド達が並んで俺を待っており、全員が深々と頭を下げた。
「うむ、ご苦労。」
並んでいるメイド達の中から1人が前に出ると、俺の後ろに立ち漆黒のマントをかけてくれた。
「それではお勤め頑張って下さい。」
「ありがとう。君達のおかげで俺は仕事に専念出来るからな。心から感謝しているよ。」
メイド達全員がポッと顔を赤らめ俯いてしまう。
「勿体ないお言葉です。私達はあなた様にお仕えする事を最上の喜びとしています。そんな私達に感謝の言葉なんて・・・、幸せで気絶しそうです。」
そう言って目の前のメイドが涙を流しているよ。
ホント、いつも思うけど、ありがとうと言うだけで何でここまで感謝されなければならないのだ?
まぁ、数年前まで俺の親父がこの城で威張っていたからな。あのクソ親父はまさに女の敵だったよ。彼女達はどれだけあの親父の過激すぎるセクハラ攻撃を受けてきたのか?あの時はみんながノイローゼ寸前まで精神が病んでいたよ。
それから数年かけて心のケアを行い、今では楽しそうに仕事をしているみたいだな、
やっぱり仕事も職場も楽しくないとね。
そのおかげか、メイド達の俺を見る視線がとても熱っぽい気がする。
でもゴメンね。俺は君達の期待に応える事は出来ない。
だって超怖い人が近くにいるんだぞ!その人のお陰で女性とは満足に話も出来ない。
(はぁ~、ちゃんとした恋愛をしたいよ・・・)
だけど無理だろうな。
だって俺は・・・
立派な椅子に俺は座る。
そして目の前には大勢の人が整列をして並んでいた。
「「「魔王様!万歳!」」」
全員が大声を出し俺を讃えていた。
そう、俺は魔王だ。