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『可愛い子とぶつかって恋が始まる』というのはフィクションです

 レイアを背負いながら森の中を駆け抜けた。

 来た時は戦闘を控えていたから体力を温存していたが、戻るときはその心配はないため半分以下の時間で村にたどり着く。


 近づくと大きな番傘のようなものを地面に突き立て、その陰で椅子の上に座って待っていたサクラの姿が見えた。


「待っていてくれたのか」


「はい。重傷を負って撤退してきた場合の備えという意味もありましたが。レイア様はお怪我をされているようなのですぐに回復魔法をおかけします」


 サクラが何かを唱えて手をかざすとレイアの体が強い光に包まれる。擦り傷すらもみるみるふさがれていく。


 そして、それとともにレイアが背から降りて自分の足で立った。


「勇者殿。迷惑をかけた。感謝する」


「いや、大したことじゃないから気にしないでくれ。サクラもありがとう」


「いえ。ところで討伐は成功ということでよろしいですか?」


「ああ。なんとかな。手強い相手だった」


「それは何よりでした。ところで、一つお伺いしたいのですが、その後ろにいるのは……その……使い魔にしたということでしょうか?」


「ん?後ろ?使い魔?」


 いつも笑顔のサクラが珍しく困惑とした顔で聞いてくるが身に覚えがない。

 言われて後ろを振り返ると、そこには舌を出して呼吸をしながらつぶらな瞳がこちらを見上げていた。


「おっ…お前!ここまで着いてきたのか!?」


 そこには放置してきたはずの銀狼の子供が尻尾を振ってこちらを見つめている。


 全く気付かなかった。しかも、木々や斜面を跳ねるように進んできたし、かなりの速度が出ていたと思うんだが…………。やはり子供でも敏捷性が尋常じゃない。


 しかし、どうしよう。ここにいるのは完全に想定外だ。しかもここまで俺の速度についてこれた以上引き離すにはそれこそ殺す以外無い。


 痛めつけるのは敵対心を与えて後々人間を襲うようになるだけだし。

 最悪このまま旅に連れていくしかないか。


「あー。どうやら討伐した銀狼には子供がいたようでな。巣に放置してきたんだがそのままついてきてしまったようだ。なるべくなら殺したくないんだが、旅にそのまま連れていくことは可能か?」


「そうなのですか。まあ勇者様の使い魔としてならばなんとか大丈夫かと思います。

 それこそ、北方の国ではその始祖が銀狼を使い魔としていたという伝承が残っていて紋章の一部に牙を示す図形が使われているそうですし」


「それは助かった。本当にサクラ…さんは博識だな」


「いえ、そういった情報を叩き込まれただけですので。それと、以前のように呼び捨てでお呼び頂ければ大丈夫ですよ」


「そうか。そうだったな。そうするよ」


「では、私はこのまま村の方に討伐の報告したうえで、混乱が無いように子供は使い魔としたことを伝えて参ります」


「何から何までありがとう。よろしく頼むよ」


「いえ、これが勤めですので。失礼いたします」


 サクラが村の中心へ歩いて行く。



「勇者殿。私もここで失礼する。武具を調整しなければならないのでな」


 加えてレイアもこちらに言葉を放ち、言うが早いかそのまま去っていく。


 一人になった俺は体をほぐしながら、どうにかなったかと安堵のため息を漏らした。

 銀狼の子は飽きもせず尻尾を振りながら俺の足元にすり寄ってきている。


「誰のせいで無駄な苦労が増えたと思ってるんだ。わかってるのか?」


 叱るような目でそいつをジト目で見たが、銀狼の子は不思議そうな顔で首をかしげている。

それに対し俺は思わず天を仰いだ







 とりあえずすることは無いので村をぶらぶら歩く。すると村の子供が数人近づいてきた。


「お兄さん見かけない人だね。誰?あと犬すごく可愛いし触ってもいい?」


「外から来たんだ。よろしくな。あと優しくなら触っていいぞ。犬じゃなくて狼だけどな」


「やったー!!ありがとう!」


 のどかな風景に心安らぐ。風を感じてぼーっとしていると子供の誰かのお腹が鳴る音が聞こえた。

どうやら女の子のようで顔を赤らめて恥ずかしそうにしている


「あー。すまん。今食べるものなにも持ってない。家でおやつとか無いのか?」


「家畜さんがいなくなっちゃったらしくて最近ご飯が少ないの。山菜取りに森へ入るのも村長が危ないからダメって意地悪するし!」

 

 その声に同意するように子供たちがごはんが少ない、森の中の秘密基地に入れない、母ちゃん怖いだの思い思いにしゃべりだす


 子供は元気だなー。村長さんはとんだとばっちりだし

 しかし、食料が少ないのは可哀そうだな。ただでさえ裕福な村とは言えないだろうに。

 なんとかできないものか


 そう思案していると。なぜか銀狼の子にズボンの裾を引っ張られる

 そして、ズボンから口を離すと歩いては、こちらを振り返るという動作を繰り返す。


 なんだ?ついてきて欲しいのか?俺と同じように不思議そうな顔をする子供たちに別れを告げ、後ろをついていくと村の外まで来てしまった。


 どこまで行くんだよ。しかも走り出した。まあ見失わない程度にこちらを気にしてはいるようだが


 そろそろ止めるかと思った瞬間、目の前にバカでかいイノシシが現れ、とっさに聖剣を構えようとする


 しかし、その前には銀狼の子がイノシシの脳天に向けて全身で体当たりをかまして倒してしまった。

 外見の可愛さに騙されるがとんでもない強さだな。


 そして、口に咥えて引きづるような行動をとり、こちらを見上げる。


 はいはい。わかったわかった。持ってけってことだな。俺が担ぎ上げると再びそいつは走り出す。


 ついていくと同じようにウサギが倒れており、俺が担ぐと走り出す。


 散歩中の犬の糞の世話じゃないんだぞと思いながらほうっておくわけにもいかず渋々ついていく


 途中から両手で担ぎきれなくなった俺は、切り倒した木を蔓で縛って筏のようなものを作り上げその上に獲物を載せていった。


 しかし、それでも載せきれなくなってきたため、徐々に筏の端に枠が追加されていき歪な箱のような形になってしまった。


 そして、ヤツはそれがいっぱいになるとようやく満足したのか、荷物を満杯に抱えて不機嫌な俺とは対照的な上機嫌さでこちらに近づいてきた


 この小さな当たり屋はどうやら俺を小間使いと勘違いしているようだ。


 叱りつけようとも思ったが、まあ、今回は子供の腹の音に反応したみたいだし、俺もなんとかしようと思っていたから見逃してやるかな


 村に帰ると既に日も暮れかけていた。そして、わけのわからない量の荷物を持った俺を見て驚きどこかへ走り出した村人。

 すると村長とサクラが慌てた様子でこちらへ近づいて話しかけてきた。



「「勇者様…………これは?」」


「あー、ちょっとこいつが腹減ったのか狩りをしてたらやり過ぎてな。俺らのパーティじゃ食べきれないし村でちょっと引き取って貰えると助かる」


「それは構いませんが……しかし、よろしいのですか?明らかに強力な魔獣も混じっていてその素材を加工すれば高値が付くものかと思いますが」


「問題ない。どうせ馬車一台じゃ運べないし、俺が運ぶのもよくよく考えると面倒くさいからな」


「そうですか…………それでは、ご厚意に感謝いたします。しかし、この銀狼の子が、ですか……」


「そうだ。」


「では、今日はもともと宴をする予定でしたのでそこでも使わせて頂きます。それに、銀狼の子が狩ったということも併せて周知しましょう」


「ありがとう。じゃあまた準備ができたら呼んでくれ。さすがに動き過ぎたし少し休むよ」


「わかりました」


 サクラは村長との話を無言で聞いた後、こちらに近寄ってくる



「本当によろしかったのですか?私は氷の魔法を使えますのでそれで保存し、その間に国から兵を派遣させれば全て持ち帰れますが。

 一部明らかに高位の魔獣もおり、丁寧に素材を加工すればかなりの財になるかと思われます」


「いいんだ。最悪金が足りなくなったら同じことをすればいい。あとどうせ俺は国から給料とか出てるんだろう?」


「確かに国防費から基本額と、それとは別に活躍に応じた報酬が支払われていますが……」


「ならいいよ。それと氷の魔法が使えるっていうんなら村長と話をして、食料が腐らないように簡易の氷室を作ってもらえないか?穴掘りとか木材伐採はなんなら俺がやるからさ。あっ?そもそも氷室ってこっちの世界で知られて無い?」


「いえ、氷室自体はありますし、知識もあります。しかし……いえ、勇者様がそうおっしゃられるのであれば後ほど氷室の作成について村長様と協議させて頂きます」


「ありがとう。本当に助かるよ。なんなら持ち帰る分でお金を得られるようならサクラが貰ってもいいし」


「いえ。私も国から給金が出ておりますので大丈夫です」


「そう?なら俺は馬車の中で少し休ませてもらうけどいいかな?」


「かしこまりました。宴の準備ができ次第お声をかけさせて頂きます」


 サクラと別れて馬車に向かう。相変わらず銀狼の子はついてくるがまあいい。疲れたし少し眠ろう。


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