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償ひの道、あるいはハンムラビの法典 Codex Hammurabi  作者: ハンムラヒ王/Leonard William King(英訳)/萩原 學(邦訳)
序 Prologue
9/111

諸都市宛て

この部分は、ハンムラビ王が自らの業績を誇るものと一般に解されている。しかし、正義の味方を実地に行うこの王が、そんな無駄遣いをするだろうか?いくら大きな石を彫ったところで、資源は有限なのに。

訳者が実感するところ、この王は絶対的権力を振るうものではなく、神の僕として働いている。メソポタミア諸都市との戦に勝ったからといって、敗れた都市が直ちに全面的に服することはなく、それぞれ都市神の名と力を借りる必要があったのではないか。

諸都市の神殿に漏れなく捧げ物を献じる姿は、古今東西の政治家とさほど変わらないのかもしれない。

ハンムラビ王とベルの號けし朕は。たからを成さしめ富ましめ。ニップル栄へさせダーイル抜きん出せしむ、エ・クルのいと高き篤志家に(さうらふ)

エリドゥ再建しエ・アプス崇拝を純化せる者に候。

四分世界の四部までを征服しバビロンの名を高からしめ、マルドゥクの心を、サッギル宮にて日々祈り捧げる主教を悦ばす者に候。

ウル富ましむシン立てし王統の後継者に候。謙虚な、敬虔な、ギシュ・シル・ガルに富をもたらす者に候。

Hammurabi, the prince, called of Bel am I, making riches and increase, enriching Nippur and Dur-ilu beyond compare, sublime patron of E-kur;

who reestablished Eridu and purified the worship of E-apsu; who conquered the four quarters of the world, made great the name of Babylon, rejoiced the heart of Marduk, his lord who daily pays his devotions in Saggil;

the royal scion whom Sin made; who enriched Ur; the humble, the reverent, who brings wealth to Gish-shir-gal;

全能なるシャマシュ聞し召す白の王、シッパルの基礎再建せし者に候。

マルカトの墓石緑もて衣なした者、天にも届けとエ・バッバル大と成せる者に候。

ラルサを守り、シャマシュが助力の許、エ・バッバル改めし戦士に候。

the white king, heard of Shamash, the mighty, who again laid the foundations of Sippara; who clothed the gravestones of Malkat with green; who made E-babbar great, which is like the heavens, the warrior who guarded Larsa and renewed E-babbar, with Shamash as his helper;

ウルクを新生せしめた統治者、豊かな水を民に齎し、エ・アンナの顔を立て、アヌとイナンナの美を全うせる者に候。

国の盾となり、四散せるイシンの住民を再会させる者、エ・ガル・マックに気前よく寄附せる者に候。

the lord who granted new life to Uruk, who brought plenteous water to its inhabitants, raised the head of E-anna, and perfected the beauty of Anu and Nana; shield of the land, who reunited the scattered inhabitants of Isin; who richly endowed E-gal-mach;

都市を守護する王にしてザママ神の兄弟、キシュの農場揺るぎなく立て、エ・メ・テ・ウルサグ栄光もて飾り、イナンナの大いなる聖宝倍増し、戦勝に貢献せし敵の墓たるハサグ・カルマの神殿を管理せる者に候。

the protecting king of the city, brother of the god Zamama; who firmly founded the farms of Kish, crowned E-me-te-ursag with glory, redoubled the great holy treasures of Nana, managed the temple of Harsag-kalama; the grave of the enemy, whose help brought about the victory;

クターの力いや増せる者に候。エ・シドラムに凡ゆる栄誉を極め、敵穿ける黒牛に候。

who increased the power of Cuthah;

made all glorious in E-shidlam, the black steer, who gored the enemy;

ナブーの神に愛され、いと高きボルシッパの住民を喜ばす者、エ・ジダなる白き賢き彼の都市の主神が為には苦労(いと)はぬ者に候。

beloved of the god Nebo, who rejoiced the inhabitants of Borsippa, the Sublime;

who is indefatigable for E-zida;

the divine king of the city;

the White, Wise;

ディルバトの畑広げし者、

ウラシュに収穫奉る者に候。

who broadened the fields of Dilbat, who heaped up the harvests for Urash;

全能なる、王笏王冠もて着飾れる者、

女神マ・マに選ばれし、

ケシュの神殿修復奉る者、

ニン・トゥの聖餐いや増せる者に候。

the Mighty, the lord to whom come scepter and crown, with which he clothes himself;

the Elect of Ma-ma;

who fixed the temple bounds of Kesh, who made rich the holy feasts of Nin-tu;

ラガシュとギルシュの飲食絶やさぬ、ニンギルス神殿の供物大いに(たてまつ)る、気遣へる先見者に候。

the provident, solicitous, who provided food and drink for Lagash and Girsu, who provided large sacrificial offerings for the temple of Ningirsu;

敵を捉へし、ハラブの予言実現せむとの神託に選ばれし者、女神アヌニの意に叶ふ者に候。

who captured the enemy, the Elect of the oracle who fulfilled the prediction of Hallab, who rejoiced the heart of Anunit;

至純の君主、その祈り神アダド聞し召す者、都市カルカルに神アダドの意満たせる戦士、エ・ウト・ガル・ガルに崇拝の器繕へる者に候。

the pure prince, whose prayer is accepted by Adad; who satisfied the heart of Adad, the warrior, in Karkar, who restored the vessels for worship in E-ud-gal-gal;

アダブの街に命吹き込める王、エ・マッチの案内人。マシュカンシャブリの住民に命を与へ、シドラム神殿に有り余る物齎す、街に君臨せる王にして、魅力的な戦士に候。

the king who granted life to the city of Adab; the guide of E-mach; the princely king of the city, the irresistible warrior, who granted life to the inhabitants of Mashkanshabri, and brought abundance to the temple of Shidlam;

白き、強き、盗賊の秘されし洞窟あばき、マルカの住民不運から救ひ、素早くその家富に埋める者、エアとダム・ガル・ヌン・ナに捧げまつる至純の供犠定めし者に候、偉大なれ彼の王国よ永久とこしへに。

the White, Potent, who penetrated the secret cave of the bandits, saved the inhabitants of Malka from misfortune, and fixed their home fast in wealth;

who established pure sacrificial gifts for Ea and Dam-gal-nun-na, who made his kingdom everlastingly great;

威風堂々たる王、創り手ダゴンくねらせ給ふウト・キブ・ヌン・ナ(ユーフラテス)河に沿へる都市しろしめす、メラとトゥトゥルの住民助くる者に候。

the princely king of the city, who subjected the districts on the Ud-kib-nun-na Canal to the sway of Dagon, his Creator;

who spared the inhabitants of Mera and Tutul;

ニンニの顔輝かす崇高なる君主に候。

聖餐獻るはニン-ア-ズの神性に、その慈しみ給ふ住民の求むに応じ、そをバビロンにて和やかに分かち合へる者に候。

the sublime prince, who makes the face of Ninni shine;

who presents holy meals to the divinity of Nin-a-zu, who cared for its inhabitants in their need, provided a portion for them in Babylon in peace;

虐げられし者や下男下女たちの羊飼にて之あり候。

その行ひ女神アントゥのお気に召す者、またアッカド郊外に坐すドゥーマスの神殿、女神アントゥへ捧げまつる者に候。

正しきを識る者、法もて裁ける者に候。

the shepherd of the oppressed and of the slaves;

whose deeds find favor before Anunit, who provided for Anunit in the temple of Dumash in the suburb of Agade;

who recognizes the right, who rules by law;

アシュルの町に、その守護神返せる者。

ニネベのイシュタルの名、エ・ミシュ・ミシュに残せる者に候。

who gave back to the city of Ashur its protecting god;

who let the name of Ishtar of Nineveh remain in E-mish-mish;

至高にして、偉大なる神々を前に跪く者に候。

スムラ・イルの後継者。シン・ムバリットの息子たる強者。

永遠なる王家の末裔。

the Sublime, who humbles himself before the great gods; successor of Sumula-il;

the mighty son of Sin-muballit; the royal scion of Eternity;

強き君主、バビロンの太陽、その光シュメールとアッカドの地遍く照らさむ。

世界の四半従へし王に候。

神ニンニが最愛の者、朕なりき。

the mighty monarch, the sun of Babylon, whose rays shed light over the land of Sumer and Akkad;

the king, obeyed by the four quarters of the world;

Beloved of Ninni, am I.

Nippur:シュメールの都市。現在のヌファル(Nuffar)。

Dur-ilu:不明

E-kur:ニップールの守護神エンリルが自ら立てたという神殿。王権を授ける神であったエンリルはベイルと呼ばれ、至高神として崇められた。嵐の神ゆえ強力にして短慮激情、シヴァやスサノオの原型かも。

Eridu:ユーフラテスの河口に位置したシュメール都市。ウルの南東10km。シュメール神話では、エンキ(エア)神が建て、王権が成立した初の都市。

E-apsu:エンキ神殿は当初、水辺アプスーに鎮まり、エ・アプス(深き者の家)と呼ばれた。

Saggil:バビロンに鎮座したマルドゥク神殿の名。

Sin:月神の名(アッカド語)、シュメール語では Nanna。エンリルとニンリルの子。ウルの守護神。太陽神シャマシュより高位。

Ur:ユーフラテスの河口に位置したシュメール都市。現存するジッグラト E-temen-nigur には、彼を祀る神殿があった。これを立てたウル第3王朝の開祖 Ur Nammu は、世界最古と目されるウル・ナンム法典を成立させている。

Gish-shir-gal:ウル最大のナンナ神殿。

the white:シュメール人は太陽を白色と見た。

Sippara:バビロンよりやや上流側に位置した都市。

E-babbar:シッパルの守護神シャマシュの神殿。その名は「白い家」を意味し、イラクを嫌う某合衆国政府の呼称でもある。語感は『バベルの塔』に似るような?

Malkat:不詳。シャマシュ神を祀る都市の名と思われる。

Larsa:ウルとウルクの間にあったシュメール都市。シャマシュを守護神とし、エ・バッバル神殿を置いた。ウル第3王朝没落後、メソポタミア覇権をイシンと争ったが、ハンムラビ王率いるバビロンに敗北。

Uruk:楔形文字を発明したともされ、ギルガメッシュ王と並び称される英雄エンメルカル王が建設したと伝わるシュメール最古級の都市。ウルよりやや上流側、現サマーワ市の東30km ほど。イナンナ神とアヌ神の神殿複合体からエ・アンナ地区とアヌ地区ができた。

E-anna:ウルクの神殿。その名は「Inanna の邸宅」を意味する。

Isin:ウルク北西に位置した都市。イシン第1王朝はラルサ王朝に滅ぼされ、直後にハンムラビ王が制圧した。

E-gal-mach:「高貴な寺院」という程度の、よくある神殿の呼称。ここではイシン守護神 Gula の神殿をいう。

Zamama:ザババ Zababa 或いはザママ。キシュのエドゥブバ神殿に祀る、イナンナ/イシュタルと並び称される戦争の神にしてキシュの守護神。

ハンムラビ王を称えザババに触れる文献は少なくなく、王を支えることアヌ、エンリル、シャマシュ、アダド、マルドゥクに続き、イナンナに先行する神とされた。

Kish:バビロンの東12km 。伝説の大洪水後、最初に王権が降りた(キシュ第1王朝)とされる。

ハンムラビ王は、ザババとイシュタルの助けを借り、キシュの壁を再建した。これにより、2柱の神が彼を評価し、敵を倒すのを助けたという。

E-me-te-ursag :一般に文献が参照する「エメンテウルサグ」は、神殿というより奉納所。

キシュ以外には、ウル・タビラ・アッシュールにザババ神殿が存在したと解っている。

Cuthah:クサ Kutha 、クタ、シュメール語 Gudua などと様々に読まれる、バビロン北東40kmに位置したアッカド都市。冥王ネルガル及び女神エレキシュガルを奉じた。そのためか、この名はシュメール人が考えた冥界に於ける首都の名でもある。

E-shidlam:クタハのネルガル神殿。

the black steer:雄牛はネルガル信徒のトーテムで、後にアッシリア人が戦いの御守りとした。

Nebo:ナブー Nabu は知恵と書記の神、マルドゥクとザルバニトゥの子。ボルシッパの守護神。旧約聖書『イザヤ書』では「ネボ」とする。

Borsippa:バビロンの下流側20kmに位置した衛星都市。

E-zida:ボルシッパのナブー神殿。

Dilbat:ボルシッパの隣。

Ma-ma:女神ニンフルサグの別名

Nin-tu:女神ニンフルサグの別名

Ningirsu:ラガシュの都市神。

Anunit : Antuとも。メソポタミア地母神。アヌの配偶者、古代シュメールの女神キに由来。

バビロニアのアキト祭での象徴、後には娘であったイナンナ/イシュタルに人気が移る。

Hallab:シリア北部の都市アレッポAleppo (Halab)。現代の都市アレッポ内に古代都市アレッポがある上、内戦が続く政情不安のため、発掘は進まず、女神アントゥの神殿は未だ出ていない。

Adad: Hadad とも。メソポタミアの天候神。アヌの子、シュメールの嵐神イスクル Iskur に由来。

Karkar :Bitkarkara とも。アダド神殿E-ud-gal-galがあった都市とされるが、所在不明。対してアレッポは、ハダドを崇めたアムル人の国、ヤムハド王国の首都ハルペでもあり、今のアレッポ城塞からハダドの古代神殿が発掘され、ヤムハドはアムル人であるハンムラビ王と同盟している。

Adab:今のBismayaにあった古代都市。E-mach神殿が鎮座。より古代には枢要な都市だったらしいが、度重なる征服を受けて落ち目になり、ハンムラビ王の言及を最後に歴史から消えていた。

E-mach:「大神殿」程度の意味であろう。アダブ都市神を祀る筈で、しかし何と言う神なのか。

Mashkanshabri:アダブの隣町

the temple of Shidlam:クタハの E-Shid-lam すなわちネルガル神殿に並ぶものであろう。すると E-mach もネルガル神殿だったか。

Malka:マルギウムMalgium(ma-al-gi-im)とも。ティグリス沿いにあったと推定される都市。ハンムラビ王と同盟したが、後に攻め滅ぼされる。

Ud-kib-nun-na:ユーフラテスの現地名Buranunaのシュメール表記。

Dagon:或いはダガン da-gan 。メソポタミア西部の王権を授ける豊穣の神。彼をCreatorとするのは、ユーフラテスの事と愚考。エアが川下の神であるように、ダゴンは川上の神だったのであろう。

例によって旧約聖書は神ダゴンを罵倒して止まないが、その時の信奉者ペリシテ人は地中海沿岸に在ったから、同じ神を指すとは限るまい。

Mera:おそらくMerを守護神とした都市マリ ma-ri 。バビロンよりずっと川上でユーフラテスに面し、ダゴン神を信仰。後にハンムラビ王に敵対し破壊された。発掘結果に拠ると、厚さ8mにも及ぶ外壁があり、堤防として機能したらしい。そのままでは船が入れず取水もできないので、深さ2mの運河を開削してあったとか。

Tutul:シリア北部ユーフラテス沿い、青銅器時代の町Tuttul。ダゴン信仰の中心地であった。

Ninni :都市Isinの守護神にして癒神Ninisinna

Ninazu:冥界神にしてエネギ Enegi とエシュヌンナの守護神。都市エネギはエリドゥの近くにあったらしい。

the shepherd:遥か後世、ナザレのイエスが譬えたと福音書に伝える『羊飼』のイメージは、このとき既に確立されていたのであろう。しかし単に民衆を率いるのでなく、「虐げられし者や下人たち」を導くと宣言できた王が、他にどれほど在ったのであろう。

Agade:アッカドAkkad または A-ga-de、シュメール語 URIKI。

Ashur:ティグリス上流に面するアッシリアの母市にして、その守護神。アッシュル神殿の他、シンとシャマシュの神殿、アヌとアダドの神殿、イシュタル神殿、アキツ神殿を擁した。都市アッシュルは、神アッシュルを王とし、地上の王を副王または総督とする独特の信仰を持っていた。アッシリア帝国成立後、ハンムラビ王に敗れた。

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