1 - 4. 誣告・偽証の罪
第282条までの条文中、第13条と第69~99条は欠落。他にも部分的な欠落がある。後に発見された粘土板で欠落を補った版もあるが、キング英訳版ではそのような事はしていない。
原典に表題や番号はなく、英訳も「条文」程度の意味しかなく、『主の掟』とは聖書からの借用である。そもそも本書は成立趣旨からして、作者名に拠るよりは、『マルドゥクのガイドライン』又は『バビロニア判例集』と称すべきであろう。
長いので分割の上、翻訳した条文ごとに追加する。但し200文字未満とすると当サイトの投稿規制に引っかかるので、各条に分けることはできなかった。項目名は訳者が付けたので、他に良い案があれば改める。
1. 何人も、呪いをかけてきたとして他人を告発しながら、その罪を立証できなかったなら、告発者は死を賜るべし。
If any one ensnare another, putting a ban upon him, but he can not prove it, then he that ensnared him shall be put to death.
2. 何人も、人に対して告訴し、それで被告が聖河へ行って飛び込み、溺れたならば、原告は被告の家の所有権を得べし。
しかし聖河が被告を無罪と認め、被告が傷つかず免れるならば、原告は死を賜るべし。また飛び込んだ被告は、原告の物であった家の所有権を得べし。
If any one bring an accusation against a man, and the accused go to the river and leap into the river, if he sink in the river his accuser shall take possession of his house.
But if the river prove that the accused is not guilty, and he escape unhurt, then he who had brought the accusation shall be put to death, while he who leaped into the river shall take possession of the house that had belonged to his accuser.
3. 何人も、長老たちの前に犯罪の告発を持ち込みながら、告発した事実を立証せぬままに死罪を求むるならば、死を賜るべし。
If any one bring an accusation of any crime before the elders, and does not prove what he has charged, he shall, if it be a capital offense charged, be put to death.
4. その長老たちに穀物や金銭を押し付けて買収したなら、その行動が生す額の罰金を受けるべし。
If he satisfy the elders to impose a fine of grain or money, he shall receive the fine that the action produces.
any one:アッカド語原文をラテン文字表記に置き換えた資料では、a-wi-lum a-wi-lam とある。バビロニアは、アウィールム/ムシュケーナムMAŠ.EN.KAK/ワルダムwardam の3階級からなる社会だったようだ。これを自由人/平民/奴隷と置き換えた訳が流通してきたのであるが、アウィールムが職業の多くを担い、どうやら賃労働というものがなく代わりに奴隷となったため各階層は流動的で、必ずしも適切な訳語とは言えない。
a ban:今日の ban は専ら「禁止」の意味に使われるが、古くは curse に当たる。呪いは非常に恐れられたので、もし「呪いを掛けられた」との訴えが認められたら、被告は死刑確実であった。
the river:おそらくユーフラテス川あるいはその河神を指す。都市エリドゥの神エア(エンキ)の姿は「携えた水瓶から流れ出る二筋の水がチグリス・ユーフラテスとなる」と考えられていたから、この神の事であろう。神名を欠くのは、神を畏れてか。
「河神の神判」は殊の外重視され、後にヘブライ人が採り入れ「洗礼」と称した。
possession:所有権の概念がこの時代にあったのかは明らかでない。取り敢えず英訳者に従う。