SS 「射的にて」裏話
気づいたら3000ポイントを超えていたので、記念SSです
ご査収ください
――初めての祭りに、みづきの心は浮き立っていた。
足取りも軽く、人ごみの中を進んでいく。目新しいものを見つけては、「くいくいっ」と辰虎の服の裾を引っ張って気を引いてみたりなんかもする。
「ねえタツトラ君、わたあめだって!」
とか、
「わっ、あの浴衣すごくないマジすごいんだけどすごい!」
とか、下らないことを口にしてはころころと笑い声を上げてみたりなんかして。
……みづきだって自分で分かってる。ほんと、はしゃぎすぎにも程があるなんてことは。
だけど、そんな自分に向けられた辰虎の目が優しくて、それだけでもう胸が幸せでいっぱいだ。こんなに幸せでいいのかと、少し怖くなるぐらいに。
それ以外の視線なんて、だからみづきは気にならない。可憐な容姿とはしゃいで華やいだ空気が注目を集めているのだが、そんな有象無象など辰虎の視線と比べればないも同然だ。
(あ、そっか)
不意にみづきは、それに気づいた。
(お祭りじゃなくて、タツトラ君と祭りに来てるのが楽しいんだな、私)
そんなことを思いながら、隣を歩く辰虎とちらと見上げる。なぜだか気後れした様子でビクビクしているようなのだが、いったいどうしたのだろう? という疑問に首を傾げた。
腕でも絡ませてみれば、もっと困ったような顔をするのだろうか。それはそれで見てみたい。そんな好奇心がむくむくとわきあがって、実際にみづきが行動に起こそうとした、その時だった。
「――あ」
と、辰虎が声を上げたのは。
「みづき、ちょっとあれやってっていいか?」
そう言って辰虎が指差した先にあったのは、射的の屋台だ。いかにも男の子が好きそうだ、とみづきは思った。
それに自分も興味がある。
「ん? あ、射的? いいじゃん、たのしそー」
弾んだ声で快諾すると、辰虎の後に続いて屋台へと向かった。
「おお、釣り合ってねえカップルだな兄ちゃん」
店番の男性が、近づいてきた辰虎とみづきを見てそんな言葉を口にする。
(ええそうなんですよ! 私とタツトラ君ってやっぱりはたからはそう見えますよね! いやあおじさんも分かってますね! ほらほら、肯定してくれてもいいんだよタツトラ君!?)
内心で無駄にテンションが上がってしまう。なかなか辰虎本人には伝えられないでいるものの、『そういう関係』として見てもらえるのはやたら嬉しくてたまらなかった。
「カップルじゃないっす……痛っ」
だけど余計なことを辰虎が言ったので、ふくらはぎのあたりを後ろから蹴っ飛ばしてやる。
「なにすんだよっ」
と、辰虎は眉をひそめて振り返ってくるけど、知ったことではない。
つれない辰虎が悪いのだ。自分はなにも悪くない、とそっぽを向いて不満を示す。
「なんなんだよ……」
わけが分からん、とでも言いたげに辰虎がため息をついたのを見て、少しだけ罪悪感がこみ上げてきた。
こう、素直に想いを口にできればいいのだが。
(それはそれで、まだ恥ずかしい……)
なんていう複雑な乙女心。自分の素直じゃなさに辟易しつつも、辰虎が受け入れてくれているのがなんだかくすぐったくて、嬉しくて、幸せで。
辰虎からは見えない角度で頬を緩めつつ、祭囃子を聞き流しながら、みづきは幸せを噛み締めるのであった。
あ、それと新作を始めました。
タイトルは、「家出少女を保護して親元に返したら、後日感謝状と婚姻届けを手に押し掛けてきた」です。
こちらのURL→ https://ncode.syosetu.com/n9850fy/ から読めます。
なお、万引きJKですがまだまだ続ける予定なのですが、新作の執筆がひと段落ついたところでゆるゆる始める予定なのでしばらくお待ちいただければ幸いです。