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どちらの……?

 駅を出たあと。俺とみづきは、時間も時間だったので適当な店で食事を済ませた。


 入った店を出る頃にはもう日がかなり傾いていたので、俺はその足のままみづきを家まで送ることにした。


「……んじゃね」


 いつもの曲がり角で、みづきがそう言って手を振ってくる。みづきを家に送り届ける時、いつもこの場所で別れている。


 夕方だけれど、まだ日が落ちきってはいない、そんな時間。デパートに出かけたのは昼を過ぎた辺りだったから、だいたいこんなものだろう。


「おう」


 こちらに手を振るみづきに向かって、俺も軽く笑って手を上げる。するとみづきが、くすぐったそうな笑顔を浮かべた。


 みづきのピンク髪が、夕暮れ時の赤い光に照らされて真っ赤に燃えたみたいになる。その様はなんとも幻想的で、なんだか眩しい思いがした。


「……今日は結局ご飯作ってあげられなくてごめんね」


 そう言って妙にしおらしく謝ってくる態度がおかしくて、つい「ふっ」と笑いがこぼれた。


「気にすんなよ、そんなこと。むしろ、俺だっていつも作ってもらって助かってんだ。お礼を言うのはこっちだよ」


「……あたし、まだあんま料理上手くないのに?」


「そこは、ま、今後の課題として――みづきと飯を食うのは悪くないってことだ」


 一人で食べる食事は味気ないが、みづきと一緒だと不思議と温かく感じるのだ。同じものを食べていても、ただそれだけで食事が楽しい時間になる。


 もうだいぶ長いこと一人暮らしを送っている俺にとって、その温もりはとっくに得難いものとなっているのであった。


「そっか」


 嬉しそうにみづきがはにかむ。しかし、すぐに思い直したように、


「いやいや。料理の腕のほうだって、今に認めさせてやるんだからっ」


 などと拳を握って気合を入れていた。


 そして不敵に唇を歪め、こちらに指を突きつけ宣言してくる。


「待ってなさいよね。そのうちタツトラ君に、『超おいしい!』って吠え面かかせてあげるんだから!」


「それは嬉しい吠え面だな」


 俺にとって得しかない宣戦布告が微笑ましい。つい、口端が緩むのを感じた。


「その日が来るのを楽しみに待ってるよ」


「……んっへへっ」


 最後に短く微笑みを交わして、俺とみづきはほとんど同時に踵を返した。


「――さて、と」


 朱に燃えている西の空を見上げながら、取り出したタバコを口に咥える。


 それからタバコの先に火をつけたところで、自宅に向かって足を踏み出した。


 だけど十歩も行かないところで、急に目の前に現れた彼女(・・)が腰に両腕を当てながら立ち塞がってきた。


「ちょっと!」


 と、どこぞの万引き少女によく似た声(・・・・・)で鋭く俺を呼び止めてくる。


「あんたッ、お姉ちゃんのいったいなにッ!?」


 ……どちらの妹様ですか?

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