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これからも頼む

 みづきが今日作ってくれたのは野菜炒めだった。


 具材はオーソドックスに、豚肉ににんじん、きゃべつ、たまねぎ、そしてしめじだ。味付けはしょうゆにしたのか、しょうゆの少し焦げた香ばしい香りが皿からは漂ってきていた。


 見た目と、そして漂ってくる香りは非常に旨そうだ。少なくとも、以前のハンバーグみたいに黒焦げになっていたりはしない。


「「いただきます」」


 みづきと二人、両手を合わせて唱和して食べ始める。


「お。悪くねえな」


 野菜炒めを口に放り込んでみると、しょうゆの風味を真っ先に感じた。そのあとに続いて、肉や野菜の旨味も口の中に広がっていく。


 味付けがしょうゆということもあり、塩気はそこそこ強い。だがそれも、いい具合に白米が進む濃さだった。


 二度目にしてこの出来栄えはなかなかではないだろうか。ハンバーグが割と散々だった分、予想していたよりも遥かにおいしいと俺は感じた。


「いいじゃん。この前よりも旨いぞ」


 だから、俺はそう言って褒めたのだが……みづきの顔を見てみれば、どうにも渋い表情だった。


「なんだか、不満そうだな」


「……だって」


 眉間にしわを寄せながら、みづきが野菜炒めの中から短冊切りにしたにんじんを一切れ取り出す。


「これ、上手くできなかったから」


「はあ……そうか?」


 まあ確かに、たまねぎやきゃべつはともかくとしてにんじんは火の通りが不十分だったのか少しばかり芯が残っていた。


 だけど、俺からしてみりゃそんなに気にすることじゃないと思う。ぶっちゃけ野菜炒めなんて、火さえ通ってりゃあとはしょうゆか塩コショウを振っておけば食える。


「そこまで気にしなくてもいいけどな。じゅうぶん旨いし」


「こんなはずじゃなかったんだもん」


「そうは言ったってなあ……ぶっちゃけみづき、料理初心者だろ? それが一回や二回作ってみたところで、いきなり上手くいくわけもねえだろうが」


「じゃあ上手くいくまでやるもん」


「は?」


 みづきの言葉に、食べ進めていた手を止める。


 またぞろこいつは何を言い出してんだか――俺がそんな風に思っていると、みづきはこれまたやけに真っ直ぐな目をこちらに向けながら口を開いた。


「ちゃんと、上手に作れたものを食べてもらうまでやるから。だから明日も作りに来るね」


「あ……あー、そうなあ」


 口ごもる俺である。この申し出を受け入れるとなると、あまりにみづきに負担をかけすぎることになってしまうのではないだろうか、と。


 正直なところ、それは俺の本意じゃねえんだよなあ……なんて俺が考えていると、みづきが言葉を重ねてくる。


「別にタツトラ君にちゃんとお礼したいからってのだけが理由じゃないし。いい機会だから、料理の練習したいだけ……あたしの家じゃできないことだし」


「……そうかよ」


 なぜできないのか(・・・・・・・・)については聞くことは避けた。いわゆる、家庭の事情みたいなものがあるんだろう。そこに踏み込まれることを、おそらくみづきは好まない。


「あたしは料理が上達して、タツトラ君はご飯が食べれる。……どっちにとってもいいことだと思うんだけど」


「そう言うんだったら、分かったよ。みづきがいいってんなら、明日も夕飯作りに来てくれ」


「明後日も来るね。タツトラ君がダメって言った日以外は来るから」


「ったく……分かったよ。これから頼む」


 ただし、と俺は言葉を続けた。


「俺が仕事や付き合いで帰りが遅くなるような日は、ダメだ。その条件を守ってくれるなら、好きに――」


「――守るしっ」


 ……今コイツすげー食い気味に返事しやがったな。


 だが――夕食がこれまでよりも賑やかになることを考えると、案外気分は悪くない。


 心の片隅で、明日の夜を待ち遠しく感じる俺なのであった。

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