SS「誰よその女」裏話
というわけで2000ポイントいつの間にか達成記念に書いたSSです。ご査収ください。
また、感想などで「このキャラのこんなSSやエピソードとか見てみたい!」などといったものがありましたら本編とは別に執筆させていただくつもりです。どしどし感想寄せてくれよな!
その日、みづきはRIBERIONの新譜を聴きながらコンビニの前で辰虎を待っていた。
土曜日の朝である。実のところ土曜日は辰虎の仕事は休みで、目を覚ますのもいつも昼頃になってからなのだが、そんなことはみづきは知らない。
昨日の朝、別れ際に『また明日』といつも通り告げたからきっと辰虎も来てくれるはずだ――そんな淡い期待を抱いてやってきてしまったのである。
(タツトラ君遅いなあ……)
朝八時ごろから待ち始めてもはや三時間が過ぎていた。ずっと立ちっぱなしで、少々足もくたびれている。
やはり今日は辰虎は来ないのだろうか。そんなことを考えながら、定期的に顔を上げつつ彼女は辰虎の姿を探していた。
――流れ行く時の中で 待ち人はまだ現れない――
――焦りが 逸りが 急き立てるように 想いばかり膨らんでく――
もう何度ループしたか分からないRIBERIONの新曲がみづきの気持ちとシンクロする。
昔はもっと泥臭い曲を描いていたようにみづきは思う。だが近頃は、恋愛ソングとも受け取れるような曲も描くようになった。
新曲、《ワカレビト》もそうで、曲調自体はかなりハード路線のロックテイストなのだが、歌詞を聴いてみればなんだか切ない感じに出会いと別れについて綴られていた。
(あ、やば、泣きそう……)
微妙に悲恋みを帯びている曲を聴いていると、うっかり感情移入してしまう。いやまだ悲恋と決まったわけじゃねーし、などと思っても、実際なにがどう転ぶかは分からないわけで、不安がないとかってわけでもないわけで。
だからうっかりこぼれそうになった涙を堪えるように俯いていると、視界の端に最近では見慣れた姿が入り込んできた。
「よぉ。奇遇だな、こんなところで」
イヤホンを外しつつ顔を上げると、のん気な顔で辰虎がそう話しかけてくる。
ぶん殴ってやろうかとみづきは思った。
「……奇遇だと思ってんのはどこかのお節介で説教臭いおっさんだけだし」
「あ?」
不満を込めて呟くと、辰虎はわけが分からんとでも言いたげな顔つきになるのでぶん殴ってやろうかとみづきは思った。
「別になんでもないから」
「なんで、出会い頭で不機嫌よ」
「……朝から待ってた……三時間も待ってた……もうくったくた……」
「だから、声が小せぇって」
聞こえないように言っているから当たり前なのだがそれはそれとしてぶん殴りたいとみづきは思った。
「うるさいなあなんでもいいじゃん」
「お前のその態度の、どこが何でもねぇんだよ」
『お前』呼ばわりにみづきの顔が不機嫌に染まる。ちゃんと名前を呼んでもらえないことに不満を抱くなど我ながら子どもみたいだと思いながらも、そうなってしまうのだから仕方がない。
「お前なんて人知らない」
結局ぶつくさとそう言って、みづきはぷいっとそっぽを向いた。
「あのなあみづき。不満があるなら、言ってくれねえと分からねえだろうが」
不満……不満なら、ある。
『また明日』と言ったのに、朝からずっと待たされたこと。名前で呼んでほしいのに、そういう気持ちを察してくれないこと。あとは、みづきが抱えている気持ちにまるで気づいてもらえないこと。
本当に不満はたくさんあるのだが……。
「…………恥ずかしい」
改めてそれを口にすることを考えると、なんだか照れくさくなってしまうのはどうしてだろうか。
「ああそう。じゃ、無理に聞かねえよ」
そしてそういう時にあえて追求してこないところは辰虎のいいところである。みづきとしてもありがたいし、そういう踏み込みすぎてこないところはなんとも居心地よく感じるのだ。
「うん」
小さくうなずく。この、ぶっきらぼうだけど妙に優しくて、鈍感なくせに温かい人の隣にずっと立っていられたらな、なんて。そんな気持ちを胸の奥でみづきは噛み締めた。
……とはいえ、そんな淡い感情を抱いているからこそ、気になってしまうものもあるわけで。
「……それより」
と、冷淡な声と視線を辰虎のすぐ近くに立っている女へと向け、みづきは嫉妬交じりに問いかけたのだった。
「誰よその女。タツトラ君のいったいなに?」
辰虎が疲れたような顔つきで空を仰ぐ横で――。
バチバチと、女二人の間で火花が交錯するのであった。




