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ダメんなってた

「多分、あたし、あのままダメんなってたんじゃないかなって……思うから」


 道すがら、みづきがまず口にしたのはそんな言葉であった。気づけばみづきの隣を歩かされていた俺は、彼女の言葉に「ふ~ん」と気のない返事を返す。


 ダメんなってた……ね。言葉としては漠然としているが、言わんとするところは分からんでもない。


 誰にだってあると思う。あとになって思い返してみれば、そこがまさしく岐路だった、なんてことが。その時は無我夢中だったり、現実ってやつをよく分かっていなかったりして見えなかった可能性も、振り返った時にはよくも悪くも全部分かってしまうわけだ。


「で、それがなんだってお礼なんて話に繋がるんだ?」


「だから、それは、あれじゃん」


「あれ?」


「タツトラ君が、ほら。万引き止めてくれたし、叱ってくれたし、あとはその――」


 ごにょごにょと、みづきが口の中で、「――(心配して)くれたし」と呟くが、肝心なところがよく聞き取れない。


「はあ? くれたしって……俺が何をやったって?」


 だからそう問い返してみたものの、


「い、いいじゃん別にそこはさぁ? とーにーかーくっ」


 と、みづきはごまかすように声を張り上げ、続く言葉を口にした。


「タツトラ君が、もしあそこで万引き止めてくれてなかったら……あたし、多分ずるずる、同じようなこと続けてたし。そしたらなんていうか、もっと悪いことだって簡単に手を出せるようになっちゃってた気がするっていうか……」


「あー……なるほどな。よく、気づいたじゃねえか」


「あ……」


 手を伸ばし、隣を歩くみづきの髪をくしゃりと撫でてやる。


「みづきの言う通りだよ。悪いことを覚えりゃ癖になるし、二度目、三度目は同じことをするにしてもどんどん抵抗がなくなってくもんだ。そうなったらあとは、どっかで痛い目を見るか、誰かに無理やり止められるかしねえと終わらねえ」


「うん……わぷっ」


 しょげた様子でみづきが俯くものだから、髪の毛をぐちゃぐちゃにかき混ぜてやる。あちらこちらに乱れた毛先を整えながら、「なにすんのよッ」とばかりに彼女がこちらを睨みつけてきた。


 そんなみづきに、俺は心の底から――断言してやる。


「みづき。お前は偉いよ。大したもんだ」


「偉いって……」


「こういうのは、自分じゃなかなか気づくことはできねえからな。だけどお前はちゃんと気づけた。だから偉いって言ってんだ」


「それは、でも、タツトラ君が止めてくれたおかげだし……」


「きっかけは俺でも、みづきが自分で気づいたことには変わりねえだろ。それは誇っていいことだ」


 励ますように背中を叩くと、少しは元気になったのかはにかむような笑顔を浮かべる。――お、こうして素直に笑ってりゃ、やっぱ年相応に可愛いじゃねえか。


 だが、みづきはすぐにその笑顔を引っ込めてしまった。そして次に浮かべたのは、恥じらいを無理やり仏頂面で塗りつぶしたような、奇妙な表情だ。眉間にしわが寄ってるけど、口元は微妙に緩んでいるのがアンバランスで少しおかしい。


「と、とにかくっ」


 怒ったような声でみづきが主張を口にした。


「そういうことだから、お礼、受け取ってもらわないと困るのっ」


「……礼なんてされるほどのことをした覚えはねえよ。結局、みづきは誰に言われるでもなく自分で気づいてるわけだしな」


 俺の言葉に、みづきがムッとした表情になる。


 それから両手を腰に当て、身を乗り出すようにして告げてきた。


「気づいたのはあたしでも、タツトラ君がきっかけくれたことには変わりないもんっ」


「おー……」


 こいつぁ一本取られたな。

メーンッ!(胴)

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